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第24話 白百合巡察令、発動

「最終評価を発表する。基準点に満たなかった以下の五名は、規定により直ちに修道院へ送られるものとする」


金冠教育会から派遣された主幹評価官の無慈悲な宣告が響き渡ると同時に、広間に集められた令嬢たちから悲鳴が上がった。

名前を呼ばれた少女たちは床に崩れ落ち、ドレスの裾を握りしめて泣きじゃくった。だが、評価官の男は冷酷に見下ろすだけで、一切の情けを見せようとはしない。


「泣き喚くなど見苦しい。貴族の義務を果たせなかった無能な自分を恥じ、修道院の冷たい床で一生祈りを捧げるのだな」


男が忌々しそうに吐き捨て、護衛の兵士たちに令嬢を引き立てるよう顎でしゃくった、その時だった。


「その評価は無効です。直ちに彼女たちから手を離しなさい」


広間の重厚な扉が静かに開き、黒いドレスの女教師――リディア・グレイスが足音ひとつ立てずに進み出た。

彼女の背後には、抜身の剣のような殺気を放つ近衛騎士レオンハルトと、扇を固く握りしめたセレスティナ、そして獣人の少年ミロが従っている。


「作法教師が何の真似だ! ここは金冠教育会の厳粛な評価の場であるぞ!」


評価官が顔を真っ赤にして怒鳴りつけるが、リディアは銀縁眼鏡の奥の灰紫の瞳で、彼をゴミでも見るかのように冷たく射抜いた。


「厳粛、ですか。地下の保管庫に隠されていた、あれらの書類を見ても同じことが言えますか?」


リディアの手から、数枚の書類がパラパラと床に投げ落とされた。

それを見た評価官と、同席していた主催のヴァルデン伯爵の顔面から、スッと血の気が引いた。


「一つ。令嬢評価簿の運用による、人身売買まがいの婚約斡旋」


リディアの低く冷徹な声が、広間の空気を凍りつかせる。


「二つ。王室の書記官の署名を騙った、王宮推薦状の偽造と不正販売。そして三つ。修道院送りを偽装した、令嬢たちの行方不明事件の隠蔽」


「なっ……! き、貴様、どこでそれを!」


「わたくしの助手が、夜の間に保管庫の奥から見つけ出しました。……ミロ」

「はい、先生!」


リディアの合図で、ミロが前に進み出た。


「あの書類からは、修道院の匂いなんて一切しませんでした。修道院に送られたはずの十二人のお嬢様たちは、別の暗くて冷たい場所……地下水路みたいなところに送られてる匂いが残ってました。全部、嘘の記録です!」


ミロの言葉に、泣き崩れていた令嬢たちがハッと息を呑んだ。

自分たちは修道院にすら行けず、闇に売られようとしていたのだと気づき、恐怖に震え上がる。

セレスティナはそんな彼女たちを庇うように前に進み出た。


「あなた方のやっていることは、教育でも礼儀でもありません。ただの悪辣な搾取ですわ!」


かつて、同じように彼らの『破滅計画』によってすべてを奪われそうになったセレスティナの糾弾は、誰よりも重く、鋭かった。


「……ええい、黙れ黙れ! たかが平民の作法教師と獣人のガキが、証拠をでっち上げおって! 出会え! こいつらを捕らえろ!」


評価官が半狂乱になって叫び、ヴァルデン伯爵家の私兵たちが一斉に武器を構えて飛び出してきた。

だが、レオンハルトが一歩踏み出し、腰の剣の柄に手をかけただけで、その圧倒的な死線のプレッシャーに私兵たちは足を踏み止まった。


「無駄な抵抗はおやめなさい」


リディアは静かに、地味な裁縫箱の底から純白の封蝋章を取り出した。

王族のみが持つ、絶対の権威。


「……っ!? そ、の紋章は……白百合の……!?」


評価官の男が目をひん剥き、ヴァルデン伯爵は膝から崩れ落ちて床に這いつくばった。

リディアは彼らを冷酷に見下ろし、静かに宣告した。


「跪きなさい。授業は終わりです」


王国を統べる王女としての、威厳に満ちた声。


「第二王女エレオノーラ・ルクレティア・アストレアの名において、金冠教育会、ならびにヴァルデン伯爵家を王命監査下に置きます」


圧倒的な権力と証拠の前に、私兵たちは武器を捨てて平伏した。

泣いていた令嬢たちは、目の前の地味な作法教師が王国第二王女であったという事実に驚愕し、涙を止めてその場に傅いた。


これで、すべてが終わったかに見えた。

だが、主幹評価官の男だけは、絶望に顔を歪めながらも、奥歯をギリッと噛み締めて薄気味悪い哄笑を漏らした。


「……く、クハハッ! まさか本物の王女殿下が、こんな泥臭い真似をしているとはな。だが、これで勝ったと思うなよ!」


男は懐から黒い玉を取り出し、足元の床に激しく叩きつけた。

パンッ!という破裂音とともに、強烈な目眩ましの閃光と濃い煙が広間に充満する。


「殿下!」


レオンハルトが咄嗟にリディアを背後に庇い、剣を抜いた。

しかし、煙幕は特殊な魔力を帯びており、視界だけでなく気配すらも完全に遮断してしまった。


煙の奥から、逃走を図る評価官の歪んだ声が響く。


「我らが長、オクタヴィア・ローゼンフェルド公爵夫人の力は、すでに王宮の奥深くにまで及んでいる! こんな紙切れの証拠など、王都に戻ればいくらでも揉み消せるわ!」


オクタヴィア・ローゼンフェルド。

王都社交界の女王にして、金冠教育会の真の支配者。ついにその黒幕の名が、明確にリディアたちの前に提示された。


「それに……」


遠ざかる足音とともに、評価官の最後の反撃の言葉が、ミロの耳に突き刺さった。


「その汚らしい獣人の小僧が嗅ぎ取った匂いなど、神聖なる法廷では一切『証拠』にならない! 貴様らは、何も証明できずに終わるのだ!」

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