第四十話:整った設計
新商会の倉庫は、申請書で静かに忙しかった。
代表は迷わない。
「余白率、五%」
若者が顔を上げる。
「少ないですね」
「資本がある」
即答だった。
「人員で吸収する」
「設備で吸収する」
「確率は管理できる」
数字が並ぶ。
事故率。
遅延率。
補填率。
すべて基準内。
「例外的運用は?」
若者が聞く。
代表は肩をすくめる。
「原則不要」
火は強い。
整っている。
北側は二割で悩んでいる。
東側は混合型のまま保留。
南側第三。
若者は三割。
帳簿を開く。
――余白:三割
――停止:なし
――事故:基準内
条件は満たせる。
「書きますか」
若者が小声で言う。
申請書を手に取る。
記入欄。
余白率。
急ぎ受理方針。
緊急時対応。
例外処理の有無。
最後に一行。
当区間の設計思想
若者が止まる。
「思想、ですか」
「書け」
俺は言う。
「数字だけでは足りない」
新商会の代表は迷わず書く。
効率最大化と確率管理による安定供給
美しい。
短い。
強い。
若者の筆が動かない。
三割の理由。
断る理由。
戻す理由。
言葉にすれば、固定される。
「三割と書けば、三割を守らないといけませんか」
「原則はな」
枠は守るためにある。
守れなければ減点。
補助金は止まる。
若者は紙を置く。
「楽ですね」
ぽつりと言う。
「何が」
「書いてしまえば」
うなずく。
枠は安心だ。
判断を減らせる。
会議で新商会の申請が拍手を受ける。
整っている。
反論は少ない。
「参加しない区間は、支援対象外とする案もあります」
管理局の使いが言う。
空気が変わる。
若者がこちらを見る。
参加すれば安定。
参加しなければ、外。
火は静かに燃えている。
紙はまだ白い。
選べば、枠になる。
選ばなければ、自由。
街道は今日も止まっていない。




