第三十四話:止まらない速さ
新商会の火は、強い。
だが暴れていない。
整然と、一定の熱を保っている。
若者が言う。
「事故は?」
「まだない」
三日。
五日。
七日。
事故報告は上がらない。
利益は伸び続ける。
――新商会:急ぎ大量受理
――利益:急増
――事故:ゼロ(七日間)
数字は雄弁だ。
商会の会議で声が上がる。
「合わせるべきだ」
「余白は削れる」
北側の管理人が言う。
「七日では分からない」
東側は黙る。
若者が帳簿を握る。
「続いていますね」
確かに続いている。
新商会は余白を最小限に抑え、
代わりに人員を増やしている。
遅れが出れば、
即座に別隊が補填する。
資本で吸収する設計だ。
「余白を置かない代わりに、
資本を置く」
若者がつぶやく。
「そうだ」
余白=時間。
資本=予備人員と設備。
設計の思想が違うだけだ。
代表が再び現れる。
「ご覧の通りです」
穏やかな笑み。
「確率は管理できます」
「街道全体を速くすべきです」
若者が聞く。
「事故が起きたら?」
「起きません」
代表は迷わない。
「起きた場合も、我々が負担します」
責任を買う設計。
強い。
夜、若者が言う。
「余白って、弱さですか」
少し考える。
「違う」
「だが、遅い」
若者はうなずく。
「速い方が、格好いいですね」
本音だ。
強い火は、見栄えがする。
揺れていない。
音も美しい。
翌朝。
南側の依頼が減る。
急ぎは新商会へ流れている。
――南側第三:依頼減少
――余白:維持
――利益:減少
若者が帳簿を見つめる。
「……削れます」
「何を」
「余白」
その言葉が、軽くない。
「二割にすれば、追いつけます」
誘惑は、正しい顔をしている。
事故はゼロ。
利益は上昇。
確率は管理可能。
余白は、贅沢かもしれない。
火は強いほど、
人を引きつける。
俺は答えない。
選ぶのは、若者だ。
街道は速くなっている。
止まってはいない。
今のところは。




