第三十三話:数字で回す者
噂は、風の向きで変わる。
今度の風は、南から来た。
「大規模商会が入るらしい」
倉庫の管理人が言う。
「新しい街道設計を持っているとか」
「効率重視だそうだ」
若者が顔を上げる。
「余白は?」
「ほとんど置かない」
答えは簡単だった。
数日後、
南の入口に新しい倉庫が建った。
広い。
整然としている。
火は強い。
だが揺れていない。
代表が挨拶に来る。
「我々は数字で回します」
落ち着いた声。
「事故率は許容範囲内に抑える」
「利益は最大化する」
「余白は、最小限で」
若者が小さく息をのむ。
「止まりませんか」
「止まりません」
代表は即答する。
「我々の設計では、停止確率は三%未満です」
数字だ。
余白ではなく、確率。
「事故が起きたら」
俺が聞く。
「吸収します」
「資本があります」
確かに大きい商会だ。
小さな事故は飲み込める。
「街道全体を速くする」
代表は言う。
「余白は、贅沢です」
その言葉に、
若者の眉が動く。
夜、帳簿を確認する。
――新商会:急ぎ大量受理
――利益:急上昇
――事故:なし(現時点)
数字は強い。
商会の会議が揺れる。
「速さに合わせるべきだ」
「遅れれば取り残される」
北側の管理人が言う。
「余白を削れ、と?」
東側は黙る。
若者が小声で言う。
「正しいですね」
確かに正しい。
事故は起きていない。
利益は上がっている。
火は強い。
だが安定している。
「設計士はどう思う」
また聞かれる。
今度は、余白ではない。
速さだ。
少し考える。
「続けば、強い」
それだけ言う。
若者が振り向く。
「続かなければ?」
「大きく崩れる」
確率は低い。
だがゼロではない。
速さの設計は、
強い。
余白の設計は、
鈍い。
どちらが正しいかは、
まだ分からない。
街道は、速くなり始めている。




