チート主人公なのに、拳銃1発で冷や汗
そこは、先ほどまでの無機質な鉄の通路とは一線を画す、豪奢な調度品と巨大なモニター群が並ぶ
――執政官ニコロの執務室の入り口。
「な、誰だ!作業員……?なぜこんな時間にここに――!」
緊急予備電源の赤い光が明滅する中、デスクの奥にいた執政官ニコロが、狼狽した声を上げて立ち上がる。
だが、入り口はガラスの扉だ。
「ハハッ、間抜けめ!特注の防弾ガラスだ」
「バーストストライク!」
モダンセクターが誇る技術の結晶が、まるで紙細工のように砕け散った。
舞い散る結晶と埃の向こうから、静かに歩み寄る男のシルエット。
「……ジョン・スミスが誘拐したローズを、返してもらう」
「ヒィッ……!?」
ニコロは半狂乱になりながら、反射的にデスクの引き出しから小型の二連装拳銃を引っ張り出すと、狙いも定めず引き金を引いた。
ガンッ――!
甲高い射撃音。次の瞬間、鉛の玉がファズの頬を浅く掠め、遅れて灼熱の痛みが走った。
(――ッ!)
その一瞬、ファズの脳裏に静寂に包まれた『黄金の神殿』が鮮明に幻視された。
黒と金の玉座で、ハチミツ色の瞳を細めてこちらを見る猫耳の少女神の姿――。
冷や汗が防弾ベストの中をだらだらと伝い落ちる。
頭に弾が当たれば普通に死ぬのだ。
ヘルメットも借りておけばよかったと、今更ながら激しい後悔が押し寄せる。
(けど、絶望を止める誰かに、俺はなるって決めたんだ……!)
ファズは頬を流れる血を袖で雑に拭うと、全速力でニコロとの間合いを詰めた。
バーストストライクは最強のパンチ、故に拳が当たらないと意味がない。
(あの拳銃を破壊する……それから、どうする!?ローズは助けたいが、こいつを殺したいわけじゃない。
外ではイアンたちが命懸けで時間を稼いでくれているのに……!)
殺人をためらうが、刻一刻と迫るタイムリミット。
ファズの胸を猛烈な焦燥感が締め付ける。
だが、追いつめられていたのはニコロも同じ
――いや、それ以上だった。
「ガ、ジョン・スミスだと!?知らんな!
(化け物か、奴は……!?撃たれても怯みもせずに近づいてくる、素手で防弾ガラスを粉砕するだと……!?)」
暗視スコープで顔の半分を覆われたファズの表情は読み取れない。
ニコロの目には銃弾を受けても、無感情に距離を詰めてくる死神にしか見えていない。
恐怖に耐えかねたニコロは拳銃を投げ捨てると、半狂乱でコンソールの上にある「赤く光るボタン」の上に指を近づける。
「ち、近づくな!これは『コム・ストックの街』全域に照準を合わせた『広域焦土ミサイル』の発射ボタンだ!
これを押しさえすれば、数秒後にはあの掃き溜めごと、貴様の守ろうとした連中もろとも塵に帰るぞ!!」
緊急予備電源の不気味な赤い光が明滅する中、ファズは懐から青白く輝く「キューブ」を取り出しました。
その幻想的な光は、執務室の壁を照らしだす。
「……それを渡せば、女は返してやる。賢明な判断をしろ、流れ者」
ニコロが卑屈な笑みを浮かべながら促します。
これさえ手放せば、ローズを救い出すことができる。
しかし、キューブを渡すということは、ようやく取り戻したコム・ストックの街が光を再び失うことを意味する。
「これを渡せば……あの街は、また闇に沈む」
一人を救うために、街全体の光を対価として支払うのか?
「……欲張りだったんだな、俺」
ニコロを見据える。
「どっちか選べだって?コム・ストックの街と心中するのは、お前たちだけだ」
この言葉は、街を見捨てる決断ではありませんでした。
コム・ストックの街もローズも、自分の命もすべてをチップとして賭け金に積み上げた、「博打」の宣言。
「……それを押したら、その瞬間に俺はこのキューブを破壊する。
これだけのエネルギーがあれば、この基地を消滅させるには十分だろうな」
「く、狂ったか……!?貴様も、あの女も、ここでまとめて蒸発するつもりか!?」
ニコロの額から滝のように汗が流れ落ちる。
彼のような権力者にとって、命を落とす相打ちという選択肢は完全な敗北でしかない。
だが、ニコロを見つめるファズの瞳には、死への恐怖の欠片すら浮かんでいなかった。
「……俺は、死なない」
ファズの瞳が、暗視スコープの奥で冷たく光った。
「お前はあの戦艦RB2を、俺がどうやって落としたか考えなかったのか?
内部に直接ワープすれば、障壁も装甲も関係ない。そうして動力源のキューブを持ち帰ったんだよ」
なぜ基地内にもワープしなかったのか?という疑問もキューブという物証の前には弱い。
「爆発のコンマ数秒前、俺はローズを抱えてこの基地から消える。
その後に残されるのはお前と、お前のガラクタの残骸だけだ」
「……嘘をつけ!そんなデタラメな能力があるか!」




