トラックと読み間違えでラムダ基地侵入作戦
深夜、一台の酒類配送トラックがラムダ基地の検問所に滑り込みます。当然、門番に止められる。
「止まれ。……今日は納品の予定はないぞ」
運転席からイアンが顔をだす。
「あれ、ここはニュー(ν)基地ですよね?」
門番が怪訝そうな顔をする。
「ラムダ(Λ)基地だよ」
イアンはわざとらしく頭をかき、ヘラヘラと笑いながら手元のメモを180度ひっくり返す。
「……あ、待てよ。……わ、わはは!逆だった!俺、大文字のΛを逆さまに読んで、小文字のνだとばっかり!
読みにくい字を書く奴が悪いんですよ」
不審がる門番の前に、助手席からモーガンが顔を出します。
「よう!最近どうよ、兄弟?……俺だよ、先月まで基地内のバーにいたモーガンだ」
門番は知り合いの登場に表情を緩めた。
「おお、モーガン!平和なもんだよ。ピッツ・バーグで酒屋を始めたって噂は本当だったのか」
モーガンは親しげに笑う、娘一人を誘拐したくらいでは警戒態勢は平時のままだ。
「まぁな。今日は元同僚のお前らに、『転職祝い』の差し入れだ」
モーガンはトラックから降りると、慣れた手つきで「特注の銘柄」を取り出し、門番のコップに並々と注ぎます。
「ほら、飲めよ。仕事中なのは分かってるが、一口くらいならバチは当たらねえ。
……ドライバーも詫びイッキしろ」
イアンもビールの缶を開けた。
「いやー、面目ないっす!では、乾杯!」
門番も呆れたように言う。
「ハハッ、Λとνを間違えるような馬鹿な運転手は大変だな、モーガン。……お、この酒、最高に効くぜ!」
モーガン「イッキ、イッキ」
と手拍子しながら、楽しそうな雰囲気を作り出す。
イアンはギターを取り出し、即興で弾き始める。
しばらくすると、イアンが頭を抱えた。
「あちゃー……勢いで飲んじゃったけど、これ、完全に飲酒運転になりますよね?
さすがに軍の基地内で事故ったらマズいな……」
モーガンはイアンを指差して笑った。
「……お前、本当に馬鹿だな。おい、悪いがバーの電話を借りるぞ。
代行か、別の運転手を寄越すように連絡してくる」
門番が呆れたように言う。
「ハハッ、真面目かよ!まあいい、事務所の裏の電話を使え。ついでにトイレも貸してやるよ。トラックはそのままでいいぞ」
※
ファズたちは基地内に侵入した。
定期補修のためにやってきたメンテナンス作業員らを影から急襲して静かに拘束すると、その制服とIDカードを速やかに奪い取った。
顔に機械油を粗雑に塗りたくり、わざと猫背になって重い工具箱を抱え込む。
作業員になりすましたファズは、警備の視線が交錯する勝手口――裏の通用口へと足を進めた。
耳元に装着したインカムから、イアンの低い声が届く。
「……まず電力を落とす。その隙に潜り込め。すぐに予備電源に切り替わるだろうが、その間に俺たちが外で派手に陽動の騒ぎを起こしてやる。地図は頭に叩き込んだな?」
「頼む」
「じゃあ、基地の意識を刈り取ってやるよ」
基地のセンサーは電力というインフラに依存している。
イアンが配電施設の制御基板に細工を施し、基地のメインブレーカーを強制遮断した。
バンという重い音と共に、要塞を包んでいた眩い明かりが一斉に消え去る。
無機質な機械音を響かせていた巨大な基地が、一瞬にして静寂の広がる「巨大な墓場」へと変貌した。
「な、なんだ!?停電か!?」
「くそっ、予備電源を回せ!警備班は配置につけ!」
暗闇と怒号が交錯し、右往左往する警備兵たち。
その混乱の渦を、ファズは暗視スコープの緑色の視界だけを頼りに、音もなく駆け抜けていく。
「中は普通の建物だな、オフィスみたいだ」
そう、平時の基地というのは中世の城と違い内部に侵入されることをあまり想定していないのだ。
緑色の光に浮かび上がる通路を潜り抜け、ついに最上階へ。




