レジスタンス参戦
ファズは後ろからガシリと肩を掴まれた。
「追う必要は無えよ」
振り返ると、そこにいたのは先ほど酒場で出会ったギターの男
――タクティカルベストと弾帯を身にまとったフル装備の男だった。
「ヘリに発信機を取り付けておいた……。方位は『ラムダ基地』だな。
だが、あそこはこの泥臭い工場とは比較にならないほど危険な要塞だぞ」
「……関係ない。そこにローズがいるなら、俺が行く理由はそれだけで十分だ」
一瞬の迷いもないファズの返答に、男は満足そうに口角をわずかに上げた。
「俺はイアン。レジスタンスのリーダーだ。……で、こっちがモーガン」
ファズとモーガンが短く握手を交わす。
バーテンダーではなく、レジスタンスだったらしい。
モーガンは去り行く残光を睨みつけながら、不快そうに吐き捨てた。
「チンピラのジョン・スミスと、体制側の権力者が裏で繋がっているな……。腐りきってやがる」
※ラムダ(Λ)基地
ファズはレジスタンスの二人に連れられ、荒涼とした赤い大地を見下ろす丘の上に立っていた。
眼下に広がるのは、ラムダ(Λ)基地。
円環状に張り巡らされた巨大な滑走路と、その中心に鎮座するピラミッド状の司令塔。
無数の対空砲火と監視レーザー網が隙間なく張り巡らされている。
ファズが感心したように言う。
「大したギターの腕だった。レジスタンスだと思わないだろうね」
「俺、昔は本気でプロを目指してたんだぜ。ボイストレーニングにも通ったんだ」
それに対し、バーテンダーをしていたモーガンが言い捨てた。
「……ギターだけでやめておけば、今頃スターだっただろうな」
「さて……戦艦落としのヒーローさん。どうするよ?」
隣でイアンが、挑発するように楽しげに笑う。
「単独で正面突破して基地を制圧できるような、そんな都合のいい力じゃないんだよ」
ファズは苦笑いを浮かべながら答えた。
あの巨大戦艦RB2のときは、『一番解決を必要としているバイタルエリア』に一発で跳躍し、
動力源のキューブを引き抜けたから成功したに過ぎない。
墜落の衝撃で普通に死にかけたことを考えれば、次も大丈夫な保証などどこにもないのだ。
「とにかく、基地の内側に入り込むことさえできれば……何とか道は開ける」
「さっき扉を破壊したみたいにか。保険だ、これを持っていけ」
イアンから放り投げられた防弾ベストを受け止めると、想像以上にずっしりとした重みが両腕に伝わってきた。
「助かる……」
ファズはそれを身体に装着しながら、内心で冷や汗をかいた。
あわせてバックパックと数個のスタングレネード(閃光手榴弾)、ファーストエイド(止血帯など)を受け取る。
「目くらましくらいにはなるだろ」
バースト神から授かった恩寵『神足通』は、戦闘中に敵の弾丸をかわすような能力ではない。
なぜなら、銃撃戦の真っ只中で発動すれば、どこか遠くのセクターで『崖から落ちかけている人』の目の前に唐突
に転送される危険があるからだ。
次にいつ同じ場所へ戻ってこられるかなど、神のみぞ知る。
そして何より、防具なしで撃たれれば普通に死ぬ。
死ねばおそらく、あの黄金神殿でバースト神が出迎えてくれるのだろう。
『なんじゃ、もう妾が恋しくなったか?愛いやつめ!』
その瞬間に、助けようとしたローズの命は失われているだろう。
今のファズはトラックの荷台に重火器を無理やり括り付けただけの『テクニカル(武装ピックアップ)』みたいなのだ。
ファズは防弾ベストのバンドを固く締め直し、決意を込めて巨大な要塞を見下ろしたのだった。
夜空を幾重にも切り裂く強力なサーチライト。要塞の全周に配置された自動迎撃システムが、冷たく不気味な光を放ちながら不審者の接近を警戒している。
その圧倒的な威容を丘の上から目の前にして、モーガンは暗視スコープを握りしめたまま、絶望に声を震わせた。
「正面からじゃ……無理だな。ミス・メアリーから横流ししてもらった型落ちの武器じゃ、逆立ちしたって……。力だ。この世界を統べているのは正義なんかじゃない、圧倒的な『力』なんだ……!」
ジョン・スミスという無法者と執政官がつながっている。
無力感に打ちひしがれるモーガンに対し、隣に立つイアンの眼差しはどこまでも冷徹で、静かだった。
「……力がないなら、知恵を使えばいい。作戦を考えよう。モーガンはこの基地のバーテンダーだったろ?」
正面からの無謀な突撃は端から頭にない。




