ギターで工場に侵入?ジョン・スミスを追い詰めろ!
深夜、静まり返ったジョン・スミス資源加工場の正門前をファズは遠目に見ていた。
酒場で聞いた通り、固めている。
しばらくすると、千鳥足の男が一人、ギターを抱えて現れた。
酒場にいた流しの音楽家だろう。
彼は門衛の鋭い視線を受け流し、人好きのする笑みを浮かべて弦を爪弾き始めた。
「よぉ、夜勤ご苦労さん。景気づけに一曲どうだい?」
流れるような指使いから放たれるのは、ストリートには不似合いなほど繊細で、叙情的なアルペジオ。
「……ほう、随分な腕前じゃねえか」
「……ああ、たいしたものだ」
警備兵たちが、吸い寄せられるように門の周辺に集まり始める。
さらに聴衆をヒートアップさせるように、超絶技巧曲が始まる。
あのディガーが言っていた、協力してくれるアイツらとは酒場の音楽家なのだろう。
ローズはキューブと交換だから、無事なはず。
それなら、奇襲して奪い返すための時間を稼いでくれるのだろう。
ファズは裏門に向かって走り出した。
※
その後の正門には観客が十分に密集し、その美しい音色に意識を完全に奪われた絶好のタイミング。
音楽家は満面の笑みで大きく息を吸い込んだ。
「――♪ォォオオオオオオーーー!!(絶叫)」
次の瞬間、夜の静寂は無残に引き裂かれました。
ギターの旋律とは一ミクロンの接点もない。
音程もリズムも、さらには音楽という概念さえも完全に迷子になった怪音。
それはもはや歌ではなく、高出力の超音波による生理的な攻撃に近いものでした。
警備兵たちの反応は予想以上だった。
「ぐわあああ!?耳が、耳が腐る!!」
「平衡感覚が……っ、吐き気がするぞ!やめろ、今すぐその口を閉じろ!!」
警備兵たちは銃を構えることすら忘れ、耳を塞いで悶絶し、ある者はあまりの不快感に耐えきれず、
音楽家を力ずくで止めようと持ち場を離れて駆け寄ります。
※
ファズが裏口を遠巻きに観察すると、確かにその入り口には警備の姿が一人もない。
「……バースト神の導き、ってやつか?」
ファズは心の中で感謝したが――残念ながら、そんな神の意図は微塵もなかった。
単に鉄扉が錆びつき、力尽くでも二度と開かない廃物と化していたからだ。
開かない扉を防衛する必要などない。
当然鍵など持っていないファズに、知る由もない事実であった。
ファズは右拳に意識を集中させた。
「バーストストライク」
一閃。
静かな破壊だったが、暗闇の中で散る黄金の粒子はどうにも目立つ。
大人が一人通れるだけの穴が穿たれた。
滑り込んだ工場内部は、錆びたクレーンや太い配管が血管のように張り巡らされていた。
掘り出された先史文明の電子基板を強力な薬品で洗い流し、レアメタルを強引に抽出する現場
――まさに「地獄の釜」と呼ぶにふさわしい、刺すような異臭と熱気が満ちている。
正面や他の入り口の警戒に全力を割いていたジョン・スミス一味。
まさか開かない鉄扉を破って侵入してくるなど想定していなかったのだろう。
工場内の警備は驚くほど手薄だった。
ファズはあっさりと工場事務所へと突入し、ジョン・スミスを壁際に追い詰めた。
だが――そこにローズの姿はない。
「ジョン・スミス!ローズをどこへやった!」
ファズが掴みかかろうとした瞬間、ジョン・スミスの口元が醜く歪み、嘲笑の形を作った。
ジョン・スミスは余裕の笑みを浮かべたまま、悠々と天井を指差す。
直後
――凄まじいローター音が工場の排気口を激しく震わせ、強烈なダウンウォッシュが天井の隙間から吹き荒れた。
「……ハッ、遅かったな!あの女なら『上』の連中がお買い上げだ。
俺の工場はただの中継地点に過ぎねえんだよ!俺が失敗しても代わりはいるしな!」
ジョン・スミスの目的は、最初から時間を稼ぐことだったのだ。
バリバリと空気を引き裂く重低音を残し、工場の屋上から一機の軍用マルチコプターが発進し、夜の闇へと急速に遠ざかっていく。
「……くそっ、待てよ――!」




