人助けにした使えない力で、お仕事体験
近所の技術者の家を訪ねることになった。
「こんな時間に、どうした?ん、その人は?」
ファズは、キューブを差し出した。
「これから、エネルギーを取り出せないか?発掘したんだ」
技術者はファズが差し出したキューブを、半信半疑のまま受け取る。
古びた解析装置に接続した――その瞬間だった。
ジーッと高い電子音が鳴り響き、
モニターに表示された出力数値が一瞬で限界突破を起こした。
「……な、なんだこりゃあ!?単なるバッテリーじゃねえ、超高密度のエネルギーじゃねえか!
これ一つあれば、コム・ストックの全エネルギーを賄ってもお釣りがくるぞ……!
一生、エネルギー不足とは無縁だ!」
ファズはセージとハイタッチをした。
そして四人で街の地下深くにある中央動力室へと向かった。
技術者は六本のマニピュレーターを両手で自在に操る、その姿から「タコおじさん」と呼ばれている街一番の技術者である。
見事な手際で大型発電機とキューブの接続作業を開始した。
やがて――重厚な地響きと共に古びた発電機が力強い咆哮を上げ、巨大なタービンが高速回転を始める。
次の瞬間、コム・ストックの街に数十年ぶりとなる本物の「光」が灯った。
地下の換気口を通じ、地上から人々の歓声と驚喜の叫びが、地鳴りのように腹まで響いてくる。
まばゆい光に照らされた地下室で、タコおじさんは信じられないといった様子でファズを見つめた。
「けど……本当にいいのかい、こんな貴重なものを。
これさえありゃ、メトロ・ポリスへ行ったって一生遊んで暮らせる価値があるんだぜ?」
呆れと感謝の混ざった問いかけに、ファズは少し照れくさそうに頭を掻き、笑ってみせた。
「なら良かった。命を助けてもらったし、ただの看病のお礼だよ」
※
数日後、ファズは負傷からすっかり回復していた。
「働かざる者食うべからず、って言うし。体は動くから何か仕事をしようと思うんだ」
ローズとセージが顔を見合わせる。
「そうね、幸い今はけが人もいないし」
「兄ちゃん、一緒にディガー(採掘屋)やろう。またキューブみたいなすごいの掘ってよ!」
「あれはビギナーズラックだよ」
とファズは笑って受け流した。
「よろしく頼むよ、セージ先輩」
と言うと、セージがまんざらでもない顔をしていた。
ファズとセージは、コム・ストックの街の郊外に広がる遺構(都市鉱山)へと向かう。
数キロメートルに及ぶ超高層ビルの残骸や、砕けたコンクリートと錆びた鉄骨が入り組む危険な現場。
このガラクタの山からレアメタルや集積回路を掘り起こす地道な作業を行う、まさに都市鉱山だった。
ファズは慣れない手つきで泥にまみれるしかなかった。
周囲からは、都市鉱山からレアメタルやまだ使える集積回路を削り出す、
ディガーたちの鈍い金属音が絶え間なく響いている。
「新人、腰が入ってねえぞ!」
後ろを通り過ぎるベテランのディガーに笑われた。
バーストストライクで隔壁を破壊すれば、内部に入れるのでは?
と思い拳に集中するが黄金の粒子は集まらない。
「……やっぱり、発動しないか」
――私利私欲には使えない、神(の恩寵)を試してはならない。
「兄ちゃん、手が止まっている」
セージに注意された、その瞬間。
地響き、続いて砂煙が上がった。
反射的にセージがファズの頭を押さえる。
「崩落だ!」
轟音が収まり、むせ返るような粉塵の中であたりを見回す。
さっきのベテランが向かった方向が崩落している。
「無事か!」
瓦礫の山に向かって誰かが叫ぶ。
「……っ、生きてはいる。出られねぇ」
ファズは再度拳に集中すると、黄金の粒子が集まってきた。
構造的に瓦礫を何とかすれば、二次災害を防ぎながら道は作れそうだ。
「バーストストライク」
瓦礫を破壊して、中にいたベテランに声をかける。
「大丈夫か?」
「いきなり崩れてきやがった、今日は厄日だ」
「無事でよかったよ。血が出てるし、一回街で治療しよう」
※
一行がコム・ストックの街に戻ると、様子がおかしい。
診療所の前に駆けつけると、ローズは大型トレーラーの荷台の上にいた。
トレーラーの運転席から、男が醜く歪んだ笑みを浮かべて身を乗り出します。
「この女を無事に返してほしくば、あの光るおもちゃ(キューブ)を持ってピッツ・バーグまで来な!
もっとも、茶なんぞ用意してねえがな!」
悪質な嘲笑を残し、トレーラーとバイクの一団は激しい土煙を上げて走り去っていった。
「兄ちゃん!助けて!姉ちゃんが……っ!」
セージの引き裂かれるような悲鳴だけが虚しく響いた。
「なぁ、何があったんだ」
うなだれているタコおじさんに、ファズが問いかける。
「ピッツ・バーグのジョン・スミスが、キューブの代わりにローズを攫ったんだ」
ファズがキューブを渡さなければ、ローズは誘拐されなかったのか?
「なんでローズを?」
「この街で唯一の治療者なんだ、診療所がないとディガーは仕事ができないんだ。
キューブを取り外す。ローズを連れて帰ってくれ」
今度はファズがうなだれる番だったが、タコおじさんが肩を叩く。
「気にするな、キューブは一夜の幻だったんだ。ローズさえ戻れば、元どおりだろ?」
と、力なくタコおじさんが笑う。




