スラム街に光を!
※コム・ストックの街
動力源を失った戦艦RB2は、コム・ストックの街の郊外に墜落した。
華やかなメトロ・ポリスとは対照的だが、コム・ストックの街は単なるスラムではない。
先史文明――現代の科学すら完全には解明できていない超テクノロジーの遺産が眠る、
巨大な都市鉱山のある街である。
数キロメートルに及ぶ超高層ビルの残骸や、天を突く軌道エレベーターの基部。
クレーターのような窪地が点在する荒涼とした大地。
そこから掘り出されるレアメタルや自己修復機能を秘めた集積回路こそが、
皮肉にもメトロ・ポリスの贅沢な暮らしを陰で下支えしていた。
戦艦RB2はこの地の住人にとって、新たな「都市鉱山」に他ならなかったのである。
※
ファズは遠目に艦首から墜落してくる戦艦RB2を眺めていた。
どうやら神足通の発動が間に合ったようだ。
「助かった、のか?」
墜落の衝撃でパーツが外れ飛び散っているが、こちらに向かってくる人影がある。
――神足通は解決が必要な場所に移動する。
つまり、ここで自分が回避したら近づいてきている誰かに当たるのだろう。
ひときわ大きな破片飛んでくる。
「バーストストライク!」
反射的に破片を砕くが、その瞬間に船尾が着地し突風が吹き荒れた。
伏せるのが間に合わず、吹っ飛ばされたファズは意識を失った。
「……おい!生きてるか!?兄ちゃん、返事をしてくれ!」
少し幼い声、少年だろうか?
「この銃をやるから、医者に連れて行ってくれ」
ファズは朦朧とする意識の中、警備ロボットから手に入れた銃を出す。
「わかった」
※
数日後、コム・ストックの街でファズは目を覚ました。
錆びたコンテナを改造した小さな診療所で、温かなスープの香りが心地よい。
「良かった、気がついたのね。無理に動いちゃダメよ」
ベッドの傍らで見守っていたのは、ナース服のローズ・マリーという少女だった。
彼女の瞳には、この過酷な環境を生き抜いてきた者特有の強さと、それ以上に深く温かな慈愛が宿っていた。
身体を起こそうとしながら、ファズは一番気になっていた問いを口にする。
「……他の人、あの戦艦の乗組員はどうなった?」
脇で腕を組んでいた少年が、首を横に振った。
「乗組員なんて一人もいなかったよ。あそこにいたのは、猫と兄ちゃんだけだ」
ふと見れば、ファズのベッドの足の方に、あの黒猫が丸くなって気持ちよさそうに眠っていた。
「なら、良かった……」
ファズは小さく安堵の息を漏らした。
誰も死んでいないなら、それに越したことはない。
あれは自動制御された無人兵器だったのだろう。
ローズがファズの包帯を交換する。
「手際がいいんだな」
「ディガー(採掘屋)の仕事って、ケガと隣り合わせでしょ?すっかり慣れちゃった」
齢相応のあどけない笑みを、ローズが浮かべる。
「ディガー(採掘屋)って?」
「遺跡から価値があるモノを掘り出すの。戦艦の墜落に、一番乗り目指して向かったのが私の弟のセージね。
それで倒れていたあなたを見つけたの」
「セージ、ありがと」
とベット脇の少年に声をかける。
「いいよ、お代は貰ったし」
セージが銃を抜いてポーズを決める。
「こら、パラライザー(麻痺銃)だからって出さないの」
とローズに叱られていた。
「セージって、賢者って意味だからね」
「それを言ったら姉ちゃんだって、ローズとマリーでお姫さまみたいじゃん」
ファズの微笑ましそうな視線に気付いたのか、ローズが言った。
「お見苦しいところを……」
※
体を動かせるようになり、コンテナの窓から外を眺めたファズの胸に去来したのは、虚無感だった。
夕闇せまる遠くのメトロ・ポリスは、幾重もの巨大な円環を描いて白く輝いている。
対照的にコム・ストックの街は闇に沈む。
コム・ストックの街を支える巨大な都市鉱山、先史文明の栄華の象徴も巨大な墓標に見えてくる。
電力不足によって明かりの乏しい街並み。
近くで焚き火をしている人がいるが、自警団だろう。
この街は、死んでいる。
人々は先史文明の遺産を掘り起こしながらも、日々の生活を維持するための最小限のエネルギーすら得られない。
輝くメトロ・ポリスは、このコム・ストックから資源を吸い上げるだけ吸い上げ、光を還元することなど決してないのだろう。
厳重に戸締りを確認していたローズはジーンズにシャツというラフな服装だった。ファズに声をかけた。
「窓を閉めてください、雨戸から先に」
室内が闇に沈む、はずだった。ファズの上着から青白い光が漏れる。
「これ、使えないか?」
ファズがキューブを取り出すと、黒猫が笑った気がした。
その光を、セージが興味深げに見つめている。
「兄ちゃんが掘り出したの?そのライト」
「いや、多分エネルギーの結晶だよ」
セージとローズは顔を見合わせる。




