始祖王に検される王の器
※若津城、城門
城の門を固める兵士たちが、侵入者を認めると同時に慌てて槍を構え、声を荒げた。
「な、何者だ!ここを通すわけには――」
玄信は一言の警告を発する間もなく、『遠当て』の衝撃波で沈黙させた。
静まり返った城門の前に立ち、武王がゆっくりと歩み出る。
その骸骨の巨体から放たれたのは、数百年を越えた圧倒的な王の覇気だ。
「――門を開けよ!初代城主の帰還である!」
城壁を打ち砕くかのような圧倒的な響きを持って、若津城の広大な城内に轟き渡った。
パニックに陥った警備の兵たちが次々と扉から顔を覗かせるが、その誰もが目の前の信じがたい光景に気圧され、一歩たりとも動くことができない。
武王は冷徹な眼窩の炎をギラつかせ、冷ややかに言い放つ。
「天守まで案内せよ!叔父と玲……。どちらが王たる器か、直々に検してやる!」
※若津城、天守
天守の大広間。
そこに君臨していた叔父は、追い詰められた焦りを隠すかのように、玲姫の姿を指差した。
「三種の神器を揃えたからそれがどうした?正統な支配者だと?笑わせるな!肝心の『天叢雲剣』は、
剣神の間に安置されておる!」
叔父の叫びを聞き、玄信は冷ややかな呆れを含んだ息を吐き出す。
背負っていた使い古された釣竿袋にそっと手をかけた。
「……柄と鞘だけだな。あの刀身は、ナカジマ製作所で作らせた模造品だ」
玄信の淡々とした指摘に、叔父の顔色がわずかに青ざめる。
玄信は冷徹な眼差しを向け続け、さらに追撃の言葉を浴びせた。
「なっ……何を――」
「
お前は気付かなかったのか?なぜ、傷ひとつなく綺麗なのだと。
それとも、自らの手でその剣を抜いてみたことすらなかったのか、あるいは見ても分からないのか」
静まり返る玉座の間に、玄信の淡々とした声が響く。
その本物の刀身は、指南役時代の玄信の手によって密かにすり替えられていたのだ。
「――これが、本物の刀身だ」
玄信が釣竿袋から、『天叢雲剣』を引き抜く。
現れたのは、幾多の実戦をくぐり抜けた歴史の重みと、
無数の凄まじい傷跡が刻まれた『天叢雲剣』の真の姿だった。
手元にある神剣が偽物であると突きつけられ、顔面を蒼白にして身悶える叔父。
震える声を絞り出して気色ばんだ。
自らの権威の象徴の神剣が偽物であったという事実を突きつけられ、叔父王は激昂と動揺に顔を歪めながら、玄信を指弾した。
「臣下の身分でありながら、恐れ多くも神聖な神器に触れるとは……なんと不敬な罪人め!」
そのみっともない台詞に対し、玄信は鼻で笑い、切り捨てる。
「オレがこうして種明かしをするまで、本物かどうかも気付かなかったクセによく言うぜ。
……どうやらお前には、その竹光(模造品)がお似合いのようだ」
緊迫した空気の支配する大広間に、一人の老家臣が白髪を震わせながら一歩進み出て、絞り出すような切実な声を上げた。
「――御祖父様の代に起きたあの悲劇を、知らぬわけではありますまい?
再び国を二分し、血で血を洗うような凄惨な内乱を繰り返してはなりません!」
家臣の諫言に顔色を失う周囲をよそに、叔父は怒りをあらわにして玲姫を鋭く睨みつけ、吐き捨てるように叫んだ。
さっきの諫言の何かが、叔父の怒りの引き金を引いたのだろう。
「伴侶も持たぬ身で玉座を狙うなど、権力への執着に過ぎん!お主が縁談をことごとく断ってきたのは、
己一人でこの国を私物化するためであろうが!」
玲姫は微動だにせず真正面から受け止めた。
「違います」
即座に返された凛とした否定に、叔父はさらに声を荒らげる。
「なにが違う!伴侶も世継ぎもなく急逝した先々代。結果どうなった?血を分けた兄弟の、終わりなき内乱だ!」
縁談を断り続ける玲姫の姿
――それは叔父には御祖父様の代に起きた『お家騒動』の地獄絵図に重なって見えていた。
「淡海の地ですら、領主との縁談さえ受け入れれば無血で手に入るというのに
……あの美丈夫の何が不満だというのだ!」
婚姻さえ結べば、次の内乱は先送りできる上に勢力圏の拡大につながるのだ。
「顔しか取り柄がありません!」
即答されたあまりにも容赦のない一言に、大広間の空気が一瞬で凍りついた。




