古代シップを撃墜した最初の反逆者
始祖王たる武王と一行は、叔父が支配する若津城へと歩みを進めていた。
その道すがら、武王にファズは話しかける。
「空に浮かぶ船を追い返した話、聞かせた欲しいんだ」
武王は眼窩の青い炎を、ファズへと向けた。
「我の武勇伝だな?空に浮かぶ船ごと、若津の地から追い出してやったのだ」
ファズは怪訝そうに眉をひそめて問い返す。
「……何が気に入らなかったの?」
武王は愉快そうに白骨の顎を鳴らし、豪快に言い放った。
「押しつけがましい連中だった。
死んだ後のことなど、死んでから考えればよかろう!……もっとも、我は不死者なのだがな!」
自らの不死の存在をユーモアを交えつつ、武王はからからと楽しそうに笑うのだった。
かつて生者だった頃の記憶を辿るように、武王の眼窩に揺らぐ青い炎がかすかに細められた。
それは、未開の地に高潔な精神文明と新たな秩序をもたらそうとする、まるで宣教師のような一団だった。
純白の法衣を纏った者たちは、民衆の前に立ってはこう説法を垂れたという。
『欲を捨て、執着を忘れるのです』
『定めに従い、輪廻の理を受け入れなさい』
だが、武王はその教えを気力を奪う「腑抜けた泣き言」としか受け取らなかった。
彼にあるのは、どこまでも剥き出しで力強い生存の哲学だった。
「腹が減れば食らい、敵がいれば叩き伏せる。それこそが『生きる』ということだ。
死んだ後のことなど、死んでから考えればよかろう?
……頼みもしない救済を売りつける者どもなど、我が若津には不要だ!」
武王は自慢の圧倒的な武力をもって、高僧たちを幾度も国境から追い返した。
なおも諦めないので、外科的な一撃を決断したのだ。
「連中が宗教的祝祭に興じている日を狙い撃ちにしてな、余は夜襲をしかけたのだ」
その遠き日の戦いの記憶を呼び起こすように、武王の眼窩の炎が妖しく揺らめく。
シップのバリア発生装置を狙い撃つべく、彼は鍛え抜いた愛用の得物を投げつけた。
硬質な直剣であったからこそ、装置を完全に沈黙させることができたのだ。
「剣の傷はその時ついたモノで、鏡の表面が焦げたのは光学兵器を逸らしたから。
勾玉は流れ弾でひび割れたんだ」
ファズが納得したように言う。あの古墳で拾った歯車は、シップのパーツなのだ。
つまり後の世の人々が神器と崇めるそれらはすべて、かつて武王がシップへ夜襲をかけた際の装備に他ならない。
彼が古墳の玄室に至る扉に「三種の神器を揃えなければ開かない」という厳格な仕掛けを施したのも、
かつての自分と同じ「真に己の力と覚悟で運命を切り拓く者」以外は、自分の前に立つ資格などないのだ。
「連中が説く『六道輪廻』など、余は死後であっても真っ向から拒絶してやったわ」
武王は不敵に、だがどこか寂寥感を帯びた声で低く笑う。
「勝手に余の魂を次の肉体に放り込み、輪廻の輪に組み込むなど、無用と知れ!余はこの若津の地に留まり、外の脅威から国を守り続ける」
だが、テクノロジーを誇るシップとの死闘で負った戦傷は深く、死の淵に立たされた彼は、消滅を前にして不完全な秘術を発動させた。
己の執着によって「永遠の生」を欲したのだ。
だが得られたのは老いを拒絶する不老ではなく、肉体を失いながらも魂が縛り付けられる「不死の亡霊」という皮肉な姿だった。
武王の魂をこの世に頑なに留め続けたその「秘術」。
逆に迷える魂を現世から解き放つ表裏一体の技術。
それこそが玲姫の操る「巫術」のルーツであった。
「なぁ……その船に乗っていた人たちは、その後どうなったんだろ?」
ファズはまるで最近の出来事でも尋ねるかのように、どこか他人事ではない響きを含ませて首を傾げた。
そんな大事故なら当然そこには大勢のけが人がいただろう。
故郷へ帰れずに他のセクターへ取り残された、避難民だっているはずだ。
「さあな。命からがら逃げ帰ったか、
あるいは墜落して果てたか……
……そんなことは知らん」
武王は骨だけの肩を軽くすくめ、一切の興味を失ったようにぞんざいに言い放った。
遥か太古には、セクター間の往来や交流が存在していたらしい。
だが、現在ではそうした技術も記憶も完全に途絶えたのだろう。
ふと、ファズの脳裏にひとつの疑問がよぎった。
先史文明の戦艦RB2と、その太古のシップって何か関係があるのか?と。
どちらの船もこの世界を隔てる、混沌の海を越えるという事実だけは共通していた。




