無明の迷宮に暗視スコープとフラッシュボムを
その意図を察したのか、ファズはレジスタンスのイアンから譲り受けたバックパックをあさり始める。
「これはファーストエイド……こっちはスタングレネード……っと、あったぞ」
ファズが手探りで引っ張り出したのは、「暗視スコープ」だった。
電源を入れると、グリーンの微光が彼の顔をぼんやりと照らし出す。
彼は隣に立つ玲の肩に、ポンと手を置いた。
「……もう大丈夫だ。ついて来て」
そのまま迷宮の出口である、重厚な扉の前に辿り着いた一行。
ファズは扉に手をかけながら尋ねた。
「……玄信さん、一応聞くけど。あいつ(領主)、俺たちが迷宮を抜けたのを見て、
感心して大人しく勾玉を渡してくれる……なんて展開、あると思う?」
玄信は柄に手をかけている。
「無理だろ。……斬りかかってくるだろうな」
ファズはバックパックから、何かを取り出す。
「……だよな、多勢に無勢。――ならこっちは奇襲をかける。
扉が開いた瞬間、俺が『光』を投げ込むから、二人は目を閉じて耳を塞いでくれ」
扉がわずかに押し開き、中の様子を伺うと広間には武装した兵士が詰めていた。
次の瞬間、轟音と目も眩むような閃光が広間を包み込む。
広間に出た玄信が一閃する
――と離れている数人の兵士たちが、まるで糸の切れた人形のように次々と崩れ落ちた。
「……今のは一体?」
魔法のような出来事に、ファズは思わず問いかける。
「『遠当て』だ」
と短く答えと、玄信はさらに一閃し敵の数を減らした。
「この曲者共を一人残らず斬り捨てぃっ!」
ショック状態から回復した領主の怒号に呼応し、十数人の武装した兵士が一斉に包囲網を狭めていく。
「(俺が後ろから襲われないように)後ろは任せた」
低く呟くと玄信は一歩前に踏み出す。
「わかった(玲姫を守るんだな)任せてくれ」
ファズは冷静に状況を分析する。
――バースト神の『バーストストライク』の黄金の拳は、あくまで「拳」であって「黄金の腕」ではない。
腕が無敵、というわけじゃないだろう。
拳以外の場所で敵の刃を受け止めれば、普通に大怪我を負う。
ならば選択肢は一つしかない。
フラッシュボムで動きを封じ、その隙に武器を潰すしかない、とファズは覚悟を決めた。
その背後では、玲もまた短刀を抜いた。
「……これだけの人数だ。流石の俺でも、全員『峰打ち』で済ませてやるだけの余裕はねぇな」
玄信は静かに息を吐き出し、鋭い眼光を敵に向ける。
「まぁ、主を選ぶ目がなかったと、あの世でせいぜい後悔してくれや!」
その尋常ならざる気迫。広間の奥にいた領主は尻もちをつき、恐怖に顔を引きつらせながら絶叫する。
「げ、玄信……!貴様、若津の指南役でありながら、なぜそちら側につく!
叔父上殿に逆らって、この国でただで済むと思っているのか!」
裏切りと恐怖に満ちた叫びに対し、玄信は冷ややかな切っ先を微塵も揺らすことない。
低く、腹の底に響く重みのある声で言い放った。
「指南役はとうに辞めたんだ。理由、だと?……そんなもん、決まっているだろう。
お前らのような連中より、姫さんに剣を預ける価値があると思ったんだ」
「かかれ!」
と領主の檄が飛び、兵士が斬りかかろうとするが、遠当てにより近づく前に倒れる。
彼らは恐怖に気圧され、一歩、また一歩と後退りしていった。
もはや絶望に染まった顔で、領主は絶叫をあげる。
「化け物め……!先生、たのむ、先生!あの裏切り者を仕留めてくれ!」




