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【最強最弱】猫を救ったら、5つの異世界まで救ってしまった!勘違い無双の英雄はヒロインたちにハッピーリタイアさせられる  作者: ニャルC


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太公望と領主の罠

有数の景勝地として知られ、神秘的な人魚伝説が語り継がれる。

だが、どこか淀んだ重苦しい空気が漂う街――淡海。


湖面はまるで果てしない海のように美しく広がり、その巨大な水郷の港の突堤の最も端っこ。

そこに一人の男が所在なげに腰を下ろしていた。


使い古された釣竿袋を傍らに置き、じっと湖面を見つめるその男。

彼はかつて若津城で指南役を務めた剣豪、玄信その人だった。


「……釣れますか?」

ファズが声をかけると、玄信は湖面から視線を外さぬまま、渋い声音で応えた。


「さっぱりだ」

「何を釣っているんですか?」

「……仕えるに値する主人の『魂』、だな」


その深淵な答えに、足元で黒猫――バースト神の依代が、面白そうに喉を鳴らした。

「ふむ、太公望かや?魚ではなく時を釣り、新たな王を待つ。なかなか粋じゃな」


玄信はふっと小さく笑う。

足元のビクから一匹の活きのいい淡水魚を取り出し、ひょいと黒猫の前に放り投げた。

黒猫はそれを器用に受け止め、嬉しそうにむしゃぶりつき始める。


そのやり取りを見守っていた玲は、意を決するように一歩前へ進み出る。

かつての剣の師の背中を見つめながら、静かに声をかけた。


「――師匠。いえ、玄信。どうか、私に力を貸してください」


彼女の纏う凛とした気配と、その言葉に込められた覚悟の重さを感じ取り、玄信はゆっくりと腰を上げた。

「……いいだろう」


玄信は愛用の刀を腰に差し、鋭い眼光を玲に向ける。

「分かった、貴女にその資格があるか試させてもらおう」


※領主の館


湖を見下ろす小高い丘の上、威容を誇る領主の館へと一行は向かった。

事前の懸念とは裏腹に、門兵たちはなぜかすんなりと彼らを館内へと通した。


通された広間は贅を尽くした造りであったが、座敷の上座にふんぞりかえっているのが淡海の領主だろう。

整った容姿を持ちながらも、どこか冷ややかな雰囲気を纏っている。


彼はかつて玲姫に縁談を無残に断られた際の屈辱と怨恨を、隠そうともせず、

いやらしい歪んだ笑みに変えて一行を出迎えた。


「これはこれは、若津の『元』巫女姫様。……

かつて冷たく袖にした男に、いったいどのようなご用件かな?」


領主の言葉に対し、玲は微動だにしない。

しかしその胸中の怒りを、ぐっと押し殺した声で応じる。


「私との婚儀?そんなものは表向きの口実に過ぎない。

あなたを若津の傀儡として、利用するためでしょう?

叔父の考えそうなことです」

玲は冷ややかな瞳で男を射抜く。


「……ですが領主、私は過去の話をしに来たわけではありません。

若津から不当に預かっているはずの『勾玉』。それを返しなさい。

あれは若津の正統性を示す神聖な神器です」


領主は腹の底から這い出るような、低く厭らしい笑い声を漏らした。

「くく……。返しなさい、か。相変わらずなお姫様だ。いいでしょう、『勾玉』はあなたに譲りましょう。

ただし――ご自身の足で取りに来られるのであれば、ですな」


不気味に笑った領主が、傍らの脇息(肘掛)を乾いた音で叩いた。

その瞬間、足元で不穏な機械音が唸り、畳敷きの床が反転する。


足場が突然消え去り、ファズは反射的に玲の腕を強く掴んだが、抗いようのない重力に足を取られ、一行は底知れぬ暗黒の奈落へと真っ逆様に吸い込まれていった。


「なっ……!?」

「ははは!玲、かつて俺の誇りを傷つけた報いを、闇の中でたっぷりと味わうがいい!」


頭上で重い床がガチャンと音を立てて閉じゆく間際、領主の歪んだ嘲笑が奈落の底へと冷たく響き渡る。

「この『無明』の迷宮でね!」


※

一行が叩き落とされたのは、一切の光を拒絶する底知れぬ地下迷宮だった。

周囲は五寸先も見えない漆黒の闇に包まれ、冷たい湿った空気が肌を刺す。


静寂の中、玲は淡々と自らの過去を語り始めた。

「私は若津城の先代城主の娘……ですが、今は追放の身です」


暗闇の中、静まり返った空間に玲の微かな声が響く。彼女は己の決意を吐露するように、語り続けた。

「父を殺したという濡れ衣を晴らし、始祖王である武王様の三種の神器をすべて揃えて、

自分が正統な後継者であると、身の証を立てようと思ったのです。

けれど……こんな危険な場所に……すっかり巻き込んでしまいましたね」


自責の念と背負った運命の重さをにじませる玲の言葉。

玄信は、ただ五感を研ぎ澄ませていた。

「無明……か。確かに、一寸先も見えないな」


「無明とは、真理を知らないことじゃよ」

ファズの足元で、闇に浮かぶ二つの燐光が怪しく光る。

猫の瞳は僅かな光を反射する。


神託だった。

『ここは完全な闇ではない、ヒントはくれてやる。頭を使え』と。

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