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四十一話 我が家で過ごす休日

 さて、起きてからはエルクのお仕事だ。

 玄関を出て、まずエルクは塀を触った。


「うーん、正直充分硬いんだけどね、これ」

「まあでも頑丈にしとくに越したことないだろ。リヴィア一人の時もあるだろうし」

「まあそうだね。じゃ、いくよー」


 エルクが杖を構える。すると、地面から粘り気のある土が現れ、塀にぺたぺたと張り付いていった。十分に張り付いた後、エルクが杖を振ると、その土は急激に乾燥していく。

 出来上がった塀は、先程までよりも明らかに隙間が減っていた。


 これはエルクのオリジナル魔法だ。名前は無いらしい。土と水の複合魔法らしく、水を含んだ粘土を召喚して自在に操り、そして脱水する。この魔法で今回は塀の隙間を埋め、より強度を上げたわけである。

 ちなみに元は掃除と補修のために使っていたものだ。なんでも、部屋のゴミがよく取れるらしい。


 エルクはそれを塀と外壁全てに行っていく。なかなかの重労働だ。


「お疲れ」

「ありがとー。でもまだやっとかないとね。……『アイアンメイル』」


 こちらは土属性中級魔法。薄い鋼鉄の膜を物体に貼り付ける魔法だ。強度が上がるほか、人間に使って拘束することもできる。

 エルクはそれをまたも塀と外壁全てに使用する。……雰囲気がメタリックになるので、先程の固有魔法を上から再度使用し、見た目を土壁にした。


「とりあえずOKかな?これならそうそう壊せないと思う」

「お疲れ様。試してみるか?」

「うん。やってみて」


 万が一壊れても大丈夫なように、塀で実験。

 やる事は簡単だ。まず手近な大きめの岩をサイコキネシスで持ち上げる。

 そしてぶん投げる。


 割と重めの岩だったが(リヴィア0.5人分くらいだろうか)、塀は耐えきった。一応、表面が少し削れ、鉄の部分が少し露出している。


「おお……凄いな。これなら破れないだろう」

「うんうん、頑張ったかいがあったよ」


 岩によって傷ついた部分を補修するエルク。


「なんか最近土魔法ばっかり使ってるな」

「私水適正なのにね。っていうか土は中級までしか使えないんだけど」

「もしかして、雷って使ったことなくないか?」

「あー、ない気がする……無いなあ」


 まあ、雷は戦闘で強力な属性だ。エルクは戦闘の機会が少ないので使わないのだろう。


「あとはどうする?窓とか、ちょっと危なそうかな」

「確かにな……庭の方だけあれば、採光だけを考えれば別に要らない気もするな」

「んー……換気だけ出来るようにしちゃおっか」


 しゅるしゅると粘土が窓を守るネットの周りを固め、、半円筒形に収束していく。真ん中には少し穴が空いているが、人が入ることはまず出来ないだろう。内側からなら窓を開けて換気することもできる。


「どう?」

「うん、大丈夫だと思う」

「じゃ、これも補強してくねー」


 何故こんなに慣れているのか。それは先生に頼まれて、先生の家も補強をしていたからだ。

 補強方法の発案も先生。あの人が魔術の使い方をしっかり研究していれば面白いことになっていたのかもしれない。


「はい、おっけー。うーん……こんなもんかな?扉は……大丈夫だよねこれ」

「明らかに鋼鉄だからな。ピッキング対策もしてあるらしいし」

「うん。これなら安心して住めるね」


 満足した俺たちは家に入っていった。しっかりと鍵を閉める。

 すると、目を覚ましていたリヴィアが出迎えてくれた。


「おつかれ、ボス。あねさん」

「俺は何もしてないけどな」

「ありがとー、リヴィアちゃん」


 リヴィアがエルクに水を手渡す。うーん、寝起きでも気遣いの出来るやつだ。


「これで、あんしんしてすめる」

「エルクのおかげだよ。今日はもうゆっくり休もう」

「へへ、じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」


 三人揃ってリビングに入っていく。

 こうしていると、帰る家があるというありがたみを感じる。落ち着ける所があるというのは本当にありがたいことだ。


「今日はもう何もしないの?」

「『奴隷の首輪』とかも早くて明日らしいし、別にやることは無い。と思う」

「ボス、ごはん、いつ?」

「まだまだだ。……あ、そうだ。家事の分担でも決めとこうか」


 俺は紙を取り出し、それにそれぞれの名前を書く。

 そして、それぞれの家事分担を書いていく。


「えー、まず料理は俺で確定。自室の掃除はそれぞれやろう」

「うーん、掃除とか洗濯とか洗い物は私がやるのが一番楽で早いよね」

「……じゃあぼくはスーベニアのおせわ」


 あれ?終わった?


「いやいや、エルクの負担が大きくないか」

「そう?魔法でやれば一瞬だし別に……むしろ三食料理するの結構大変だと思うよ」

「たぶん、ぼくがいちばんらく」


「そうか?……ああ、まあでもリヴィアが一番楽な構成でいいんじゃないか?」

「そうだね。一人になる時はある程度やってもらわなきゃいけないし」

「……がんばる」


 まあ、全員自分が楽だと思ってるならそれでいいのだろう。

 俺は壁に紙を貼り付けた。


「……じゃ、これでとりあえずいくか。まあそれぞれ出来ない時もあるだろうから、必要なら協力し合おう」

「うん」

「はーい」


 終了。我が家の話し合いはいつも早く終わる。


「……うーん。暇だな」

「まあたまにはいいんじゃない?ここ一ヶ月半くらいはほとんど休み無かったし」

「……あれ?そんなに休んでないっけ?」

「めっちゃいどうして、ボスのいえいって、いどうして、あねさんのいえいって、けんかして、いどうして、いま」

「あ、そうか。ゆっくり出来たの、セントラルシティが最後か」


 それでいくと、いちばん働いてるのはリヴィアとスーベニアだ。なにしろずっと移動しているから。

 俺とエルクは炊事洗濯戦闘やらをやるとしても、その時間馬車の中で座ってるだけなので、負担が段違いだ。戦闘ってあんまり起きないし。


「そうか……リヴィアとスーベニアはお疲れ様だな。しばらくゆっくり休んでくれ」

「またパーティしてくれてもいい」

「あれは今は無理だが……まあでも、落ち着いたら定住記念パーティやりたいな」

「わ、いいね。楽しみ」


 とは言いつつ、こっそりサプライズプレゼントの準備をしていたりする。

 エルクとリヴィア、そして俺のものを1つずつ買ってくるようにシルベリアに言っているのだ。

 プレゼントの内容は俺が選んだ。気に入ってくれるといいけど、どうだろう。


「今日明日は完全に休みにしようか。それで、シルベニアに食料を買ってくるよう言ってるから、明日ささやかだけどパーティをしよう」

「え、ほんと?大丈夫?早いうちにたくさん食べちゃって」

「まあ、多分大丈夫……まあなくなったらシルベリアからちょっと買って、それからまた買いに行ってもらえばいいさ」

「チョコレート、ある!?」

「頼んどいたぞー」

「たのしみ!!」


 リヴィアが手を挙げて喜んでいる。うんうん、やる甲斐がある。


「スラムの探索は明後日から行こうか。リヴィア、一人になるけど大丈夫か?」

「だいじょうぶ。いえからでない」

「絶対出ちゃダメだよ!日帰りだよね?」

「少なくとも最初は日帰りだな。そのうち泊まりで行くこともあるかもだけど」

「ひとり、ひさしぶり。ちょっとたのしみ」

「誰か来ても出ないで、もしなんかあったら地下からシルベリアのところに逃げるんだぞ」

「だいじょうぶ、すぐにげる」


 まあ心配は要らなさそうだ。なんだかんだしっかりしてるし、誰かが襲ってきてもエルクが補強したこの家なら大丈夫だろう。


「うーん……まあやることも無いし、たまには自由時間にするか。リヴィア、外に出たかったら俺とエルクが一緒に出るから、言ってな」

「だいじょうぶ、でない。ぼくはねる」

「夜寝れなくなるぞ」

「だいじょうぶ、よるもねれる」

「まあ、じゃあいいけど……」


 こいつ飯の時以外起きないつもりじゃなかろうな。

 リヴィアは行ってしまったので、リビングには俺とエルクの二人きりになってしまった。


「なんか飲むか?」

「あ、じゃあシルベリアさんからもらったお茶お願い」

「了解。俺もたまにはお茶にしようかな」


 普段は珈琲党の俺だが、紅茶も普通に好きだ。ただ、紅茶は少し茶菓子が欲しくなる。

 ちなみにエルクは紅茶党。珈琲は未だにあまり飲めない。

 リヴィアはどっちでもない。水が一番好きらしい。あいつらしい。


 紅茶を入れるのは久しぶりだが、上手くできているだろうか。若干緊張しながらカップを置いた。


「どうぞ。味は保証しない」

「えー、カインはなんでも上手じゃん。……ほら、美味しいよ」

「そうか、良かった。……やっぱ茶菓子が欲しくなるな」

「シルベリアさん、クッキーもちょっとくれたよ」

「バレたらリヴィアに殺されそうだからやめとく」

「あはは。そうだね」


 リヴィアのお菓子への執念は凄まじい。チョコレートで殺しあったのはいい思い出だ。


「リヴィアちゃんといえば、人間語上手くなったよね」

「ああ、それ俺も思ってた。ちょっと前までは時々テレパシーに頼ってたけど、今はそれもなくなったし」


「そうそう!毎日コツコツ頑張ってるけど、それにしても早いよね!やっぱちっちゃい子だと覚えるの早いのかな?」

「俺たちも獣人語覚えてみるか?スラムには獣人も居るだろうから、覚えてみようと思っててさ」

「……絶対やめてね。リヴィアちゃん可哀想だから」


 う、確かに。俺が一瞬で習得してしまったら凹んで勉強をやめてしまうかもしれない。


「あ、でも何か勉強はしたいかも。ほんとは魔術の勉強が出来たらいいんだけどな〜」

「あればっかりは流石に独学じゃなあ……そのうちクライヴ捕まえて教えて貰えたら一番だな」

「確かに……クライヴどれくらい覚えたんだろ。全部最上級とかだったりして」

「……ありうるな」

「は〜……差つけられてるんだろうな〜……」


 ため息を吐くエルク。俺はそんなエルクの頭をカップで小突いた。


「ま、想像上のクライヴを相手にしても意味ないだろ。状況が違うんだ。あいつが強くなってるんなら、あの時あいつを連れていかなかった俺たちの判断は正解だったってことさ」

「う……まあそうだけどさ。でもやっぱ焦るよ。三人の中で私だけ遅れてる気がする」

「そんな事ないと思うけどな」


 これは何を言ってもダメなモードだ。こういう時は行動で慰めるに限る。

 俺はエルクの頭を撫でる。エルクは「うへへぇ」とだらしない声を出して笑った。


「……クライヴ、今何してるのかな」


 エルクは呟いた。

 俺も、知りたい。ずっと一緒だった、けれど一年以上も会ってない幼馴染のことを。


 クライヴ。

 あいつは今どこで、何をやってるんだろう。

エルクの笑い方に「えへへ」だけは使わないようにしてます。

キャラ的に合うんですが、ぶりっ子になっちゃいそうなので。

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