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四十話 帰るべき場所

 翌日。俺たちはカストロ領の南西、俺たちの新居へと到着した。


「……おお。扉が変わってる」

「綺麗になってるね」

「……おうち!」

「ブヒン!」


 俺たちは四者四様に感想を漏らす。家は、昨日見た時とは大違いだった。

 まず、全体的に綺麗になっている。昨日は外観からして汚い印象だったのだが、壁や塀、雑草の一本に至るまできっちりと手入れされていた。おそらく、中を見ても綺麗になっていることだろう。


 そして、扉。

 塀と建物の両方に扉があるのだが、そのどちらもが簡素な木のものから鋼鉄製の厳重なものに代わっている。重かったろうに、しっかり安全性を確保してくれたようだ。元々煉瓦製の壁なこともあって、かなり厳重だ。


 試しに壁を強めに叩いてみるが、びくともしない。いい強度だ。エルクの強化でより厳重になるなら、相当安全な家だろう。

 よく見ると、窓と煙突にも金属でネットがされていた。安全性にかなり気を使ってくれているらしい。ありがたい話だ。


 あとは、馬小屋と庭。これらはスーベニア専用にする、と伝えてあったので、老朽化していた馬小屋に代わり新しい馬小屋が作られていた。

 庭の周りには厳重かつ強大な囲いがされている。こちらの安全性も抜かりない。

 代わりに多少圧迫感があるが……庭がかなり広いので問題ないだろう。面積だけなら人間の居住地より広い。ついでに牧草も置いてあった。抜け目ない。


「うわー……凄いね、騎士さん。よく一日でこんなに仕上げたなあ……」

「もしかしたらこういう仕事の方がよくやってるのかもな。警備の仕事はそこまでやることもなさそうだし」

「確かにね。よっぽど経験がないとここまで出来ないよ」


「カイン……失礼、カイ()様ご一行ですか」


 エルクと新居について話していると、一人の騎士が近付いてきた。カストロ家の騎士だ。

 カイムというのは俺の偽名。流石にカインという名前を名乗る勇気は無いので、仮でこれを使用している。


「そうだ」

「お待ちしておりました。こちらがこの家の鍵でございます。ピッキングの対策もされておりますので、ご安心ください」

「あ、ああ……ありがとう。なんというか、随分色々とやってくれたんだな」

「この地を改革する要人と聞き及んでおりますので、安全には最大限気を使わせていただいております。……それから、お耳を」


 騎士に要求され、俺は耳を近付ける。騎士は口を近付け、小さな声で俺に伝えた。


「地下に屋敷と直通の通路をご用意させていただいております。もちろんカイム様の方からしか開かないようになっておりますので、有事の際や屋敷をお訪ねの際は、こちらをお使いください」


「あ、え?あ、ありがとう……え?そこまで出来るものなのか?」

「少々頑張らせていただきました」


 シルベリアからは家の整備に二人派遣したと聞いたのだが、この量を二人でやったのだろうか。だとしたら、絶対に建築士に転職するべきだと思う。


「では、私はこれで。是非内装の方もご覧になってください」

「ま、まだ何かやってるのか……?帰りは気をつけてくれ。お前はこの領地の要人だと自覚してくれ」

「ははは、私のような一兵卒に過分な言葉、ありがとうございます」


 そう言って騎士は去っていった。……いや、マジだって。


「さっき、騎士さん何て?」

「地下に屋敷と直通の通路を掘ったらしい」

「この時間で!?」


 崩落とかしないんだろうか。しないんだろうな、多分。何故か妙に信頼感があった。


「……よし、まあ、入ろうか。これ以上何があるのか想像もつかないが」

「なんか、逆に緊張してきた……」

「ぼくは、スーベニアのあんないする」

「ああ、頼む。……あ、これ庭の鍵だ。玄関の鍵は開けとく」

「ありがと」


 よし、じゃあ入るか。

 恐る恐る鍵を入れ、扉を開く。

 すると、目に入ったのは。

 ……まあ、綺麗にはなっているものの、普通の玄関だった。


「おおー……でもぴかぴかだね」

「そうだな。あれだけボロボロだった家とは思えん」


 所々に修復の跡はあるものの、全体的に綺麗な家だ。というか修復痕があるのがむしろ怖い。新品の方がまだ怖くない。

 玄関の靴入れに脱いだ靴を入れ、中へ足を踏み入れる。明かりは一応、各所に行灯が用意されていた。が、堅牢性を重視したためかかなり暗い。


 エルクが無属性魔法『ライティング』を使用する。明かりを灯す魔法だ。持続時間は通常二十四時間。エルクが居ない時は行灯を使おう。

 ……リディアだけの時はどうしよう。行灯に手が届かなそうだ。まあ、後で考えておこう。


「えーっとこっちは……リビングか」


 廊下を真っ直ぐ歩くと、リビングとのこと。……館内図を貰うと、家って感じがしないな。


 入ると、ここも一般的なリビングだった。

 昨日見た時との違いは各所の行灯、そして家具が配置されていること。

 テーブルや椅子、ソファ、食器棚、キッチン。高級そうではないが、一般的に必要そうなものは完備されている。


「凄い。必要そうなものとりあえず付けてくれたんだね」

「この辺は交換する前提って館内図に書いてあるな……でもありがたいな。そうだ、いつか先生の家の家具、貰ってこようか」

「それいいね。先生も一緒みたいで嬉しいな……先生、怒らないよね?」

「物は使ってこそだって言ってたし、いいんじゃないか?」


 ちなみに先生の家の鍵は俺が持っている。取り壊されたりするのかな……。いや、土地は余ってそうだったし、外れにあるから大丈夫だろう。……でも一段落したらさっさと取りに行こう。


「一階はあと風呂場とトイレ、書斎、物置、洗面所……私室は二階なんだな」

「書斎があるんだ。本集めないとね」

「うわ、本も先生の家から持ってきたいな……」


 先生の家から持ってくる荷物は相当な量になりそうだ。……うーん、スーベニアだけで引ける量かな。少なくともあの馬車じゃ無理だな。


 それぞれの部屋を見てみるが、やはりどれも綺麗だった。中でも驚いたのはバスタブだ。

 流石に新品にはなっていなかったものの、パッと見では新品レベルで綺麗だ。どうやってこんなに綺麗にしたのだろうか。あの騎士にとって一日が72時間だったとしてもなお足りない。


 そして、俺たちは二階に上がる。ちょうどそこでリヴィアが合流した。


「お、リヴィア。どうだった?」

「にわは、ていれされてるけど、ふつう。でもスーベニアはよろこんでた」

「それなら良かった」


 リヴィアも連れて二階へ上がる。地味に手すりも増設されていた。どこにそんな時間があったんだろう、というツッコミは最早必要なさそうだ。

 二階には大きめの執務室と応接室、私室が四つ、トイレが一つ。特筆する点はなさそうだ。

 と思っていたが。


「おお……執務室と応接室は豪華だな」


 それぞれ、明らかに質の違うソファと机、そして調度品が並べられていた。

 館内図には、「屋敷で昔使用していたものを搬入しました」と書いてある。なるほど、上質なわけだ。


「うわー……って言っても、お客さんを呼ぶ予定なんか無いよね」

「だな。デスクワークは……するかな?ここの政治関連に手を出し始めたらやることになるかもな」


「どっちにしても相当後だよね」

「うーん……眠らせとくのももったいないな」

「……ふかふか。寝れる」


 ついでに、今の俺達には何もかもデカすぎだった。まあ、将来使うようになる頃にはちょうど良くなってるだろう。


 さて、ではそれぞれの私室だ。

 まず1つ目。


「ここは……なんというか、可愛らしいな」

「犬のぬいぐるみが置いてある。あ、よく見たら布団のドット模様ハートマークだ……これはリヴィアちゃんの部屋かな」

「ぼくのへや!はじめて!」


 私室を持つのは初めてらしい。リヴィアのテンションが上がっている。そういえば、俺も初めてレイク兄様と部屋を分けられた時はテンションが上がったものだ。


「良かったな。ちゃんと綺麗に使うんだぞ」

「わかった!」


 既にベッドにダイブしている。おお、布団も結構ふかふかだ。これは新品っぽいか?

 リヴィアはそのまま寝た。こいつほぼこの部屋しか見てないけどそれでいいのか?


 仕方ないので、エルクと俺だけ隣の部屋へ。


「……空室っぽいな」

「でも、ベッドと明かりと机は用意されてるね」


 いつか使う機会が出来たら、ということだろう。客間かもしれない。

 ……リヴィアの部屋と俺たちの部屋の間を空けているところに作為的なものを感じる。


「次は……おお、女の子の部屋だ。ベッドに天蓋がついてる……これはエルクの部屋かな」

「可愛い!あ、ドレッサーがある!あれ、クローゼットが広い」


 よく見るとドレッサーの前に書置きがあった。シルベリアからのようだ。


『エルク様はお洒落がお好きとお聞きしましたので、クローゼットの広い部屋に致しました。服などは好みがあるかと思いましたので、当家所有のドレッサーをお贈りします。よければお使いください』


「シルベリアさん、ありがとう〜……」


 エルクは感激しているようだ。

 しかし、個人用にちゃんと部屋を作ってくれてるんだな……。いずれカスタマイズしていくだろうが、ちょっと期待してしまう。


「じゃ、最後はカインの部屋だね」

「どんな部屋かちょっと楽しみになってきた」

「私も。なんだろ……訓練用の設備とか?」

「流石に入らないだろ」


 そんな会話をしながら部屋に入る。

 そんな俺の部屋の内装は。


「……シンプルだな。モノトーンだ」

「あ、でも本棚があるね。カイン本好きだもんね」

「ちょっと嬉しいな。あとは……ん?ちょっと広いか?」

「あ、そうかも。ん?ベッドもちょっと広いね」


 本棚を見ると、数冊の本。それにこちらにもシルベリアからの書置きが。


『カイン様は本がお好きと聞きましたので、私室にも本棚をご用意致しました。当家所蔵の本も三冊ほどご用意いたしましたので、お読みになりましたら御気軽に本をお借りにいらしてください。

 また、エルク様と共有することも考え、少し広いお部屋とベッドをご用意しております』


「……ベッド、エルクと一緒に寝ることを想定してるらしい」

「えっ!?え、うー……そっか。まあ、ありがたいね……あ、本も置いてあるんだ」

「みたいだな。読んだら借りに来いって書いてある……あ、でもこれ全部読んだことあるな」

「カインの読書量はおかしいからね……」


 まあ、明日屋敷に行くのでその時についでに借りよう。多分読んでない本もあるだろう。


「これで全部?」

「ぽいな……ああ、あとあれか。地下通路」

「あ、そうだったね。せっかくだから明日使ってみようか」

「そうだな。安全の確認も一応したいし……ふぁ」

「わ、でっかいあくび。……ふぁ。……へへ」


 エルクにも移った。少し恥ずかしそうに笑っている。

 昼間のぽかぽかした陽気にやられたらしい。


「……リヴィアもあれだし、ちょっと寝ようか」

「そうだね。起きてから色々強化してくよ。……あ、リヴィアちゃん玄関の鍵閉めたかな……ついでに『アースシャッター』だけしとこう」


「そうだな……ふぁあ。こっちで寝るか?」

「うん。……あ、先寝てていいよ。すぐ戻ってくるし」

「すぐなら待っとくよ」


 多分スーベニアも今頃庭で眠っていることだろう。……あ、庭はリヴィアしか見てないな。後で見とこう。

 平和な日だ。まさか定住する日が来るとは。

 そうして、俺はリヴィアが帰ってくるのを少し待ち、一時間ほど昼寝をしたのだった。

あ、前回の後書きに書き忘れましたが、この国では貴族にのみ苗字があります。平民は名前だけです。

あと、玄関で靴は通常脱ぎます。例外として、貴族の邸宅などでは脱がないようです。各寝室に玄関がある、ホテルみたいなイメージです。

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