三十二話 星の下で
結局、その日はもう遅いからとパスファインド家に泊まった。
夕食は豪華だった。やはり貴族の家なんだと思い直す。
……久々に帰ってくると、兄姉のキャラがなんか変わっていた気がする。この一年で変化したのか、それとも父様の言葉で変わったのか。
後者だったらいいな。と思う。
夕食後、腹ごなしがてらスーベニアのブラッシングをしに外に出た。最近我慢させてたから、こういう時はしっかり綺麗にしてやらないとな。
ブラシを持って、水を使いながらしっかり全身を擦ってやる。気持ちよさそうにあくびをしていて、つられて俺もあくびが出た。あくびって人間同士じゃなくてもうつるものなのか。
「……なあ、スーベニア」
俺はブラシを動かしたまま、スーベニアに話しかける。
「俺、近いうちにミルガイア家と戦うよ」
スーベニアは返事をしない。ただ、少し身体を揺らすだけだ。
先程まで気持ちよさそうにしていた顔は、少し変化してどこかつまらなさそうな表情に見えた。
「多分、勝てないと思う。でも勝てなくていいと思ってる。……それでも、そうすればエルクとリヴィアはきっと幸せになる。あいつらならきっと幸せになれる」
スーベニアは面白くなさそうに鼻息を鳴らした。
「でも、お前は……きっと、復讐がしたいと思う。主人を殺した相手が憎くて忘れられないと思う。……俺と同じで、殺したい相手が居ると思う」
スーベニアに水をかけてやった。少し不快そうにする。
「……本当は、誰も巻き込まないつもりだった。エルクも、リヴィアも。でも、お前はもしかしたら来るかもしれないと思った。だから、お前を誘う。……一緒に来るか?」
スーベニアはぶふん、と鼻息を鳴らし、俺に頭を差し出した。
合図だと思ってサイコメトリーをした。
見えたのは、以前と同じ―――いや、更新された、俺たちとの旅の記憶。
「……そっか」
なんだかんだ、今の生活が気に入ってるらしい。それなら、無理に巻き込む気はない。
俺はスーベニアの頭から手を離し、ブラシを片付けた。
「変な事聞いたな。忘れてくれ。……ほら、綺麗になったぞ」
「ブヒン、ブヒン」
「な、なんだお前」
スーベニアが頭を擦り付けて来る。なんだ、じゃれつきたいのか?こんな可愛いとこあったかこいつ。
「しょうがねえな、遊んでやるよ!」
「ブヒヒン、ブヒヒヒン」
そうしてスーベニアと遊んでいると。
何故か、エルクが来た。
「あれ、エルク?どうした?」
「あ……いや、えっと、その……スーベニアのお手入れしようと思って」
「ああ、それなら今やっといたよ」
ツヤツヤになったスーベニアを見せる。「そっか……」とエルクは呟いて、どこか所在なさげにしている。やろうと思ってたことがなくなったからだろうか。
「あ、あのっ!カイン!」
しばらく黙っていたと思ったら、今度は突然やけに大声でエルクが話し出した。
キーンとする耳を押さえる。
「……?な、なんだ?」
「あの……お、おしゃべり、しない?」
「え?別にいいけど……」
俺は庭のベンチに座った。エルクはその隣に座る。なにやら普段の距離より微妙に遠い気がする。
「な、なんか、ご飯の時からちょっと元気だね」
「ん、そうだ。言ってなかったな。久しぶりに会った人がいてさ。ほら、エルクとリヴィアが母さんに捕まってた時」
「え?誰?」
「エディ王子。……あー、と。……父様の件で来てたらしい」
「あ……」
黙り込むエルク。……こんな空気にしたかったんじゃないんだけどな。
「……どんなこと話したの?」
「ん……まあ、色々。父様が例の事件の真相をほとんど解き明かしてたとか、今後どうするかとかって」
もちろん、話せないところは省いておく。が、少しエルクにも隠し事の匂いが伝わったらしい。少しだけ沈んだ顔をした。
「……あ、あと超能力もちょっと戻った。豪華な食事も摂ったし、今日しっかり寝たら大分戻りそうだよ」
「そっか……よかった」
「……明日は……」
エルクの実家に行こうか。
その言葉が、少しつっかえる。
行きたくない理由が、ある。
けれど、行かなきゃいけない理由もある。行くしか、ないんだ。
「明日?」
「……うん、明日はリヴィアの実家に行こうかなと思ってさ」
「あ、そっか……なんか緊張してきた」
「なんでだよ。人んちだからむしろ俺が緊張するよ」
……なんか、ずっとエルクの元気が無いというか……もじもじしている。何か言いたいことでもあるんだろうか?
下手に話振らずに黙ってた方がいいかな、と思っていると、エルクが「あのっ!」とまた大きな声で言った。
「あの……す、好き?」
「ん?何が?」
「あ、の…………たし」
「へ?」
「あの……わ、私のこと、好き?」
突然の質問に、俺は意味がわからず硬直した。
……え、何?ドッキリ?
好きって言ったら後ろから母様が出てきて捕獲されんの?
そして婚姻届とか書かされるの?
「あ、いや……まあ、うん。好きだよ」
しどろもどろになりながらも、素直に言った。
「ほんと!?へへ、私も好き」
「あ、お、うん、どうも……」
「結婚、するよね?」
「まあ、婚約者だしな」
「手、広げて」
「は?」
言われた通りに手を広げる。すると、思い切り抱きつかれた。
……あの、エルクさん。ここ庭なんですけど。家の中から皆会話止めて見てるんですけど。
「こっち向いて」
「こうか?」
「ん……」
唇が重なる。
え?キス?って……セントラルシティ以来?え?そんな軽くキスする間柄だっけ俺ら?
屋敷からヒューッとからかう声が聞こえた。エルクには聞こえてないのこれ?
しかも、何回も何回もする。いや、嬉しいけど……正直戸惑いが勝つ。
「え、エルク?」
「カイン。今幸せ?」
「え……うん、まあ」
「私も、今幸せ。カインが居てくれるから」
またキスされた。
「だから、ずっと一緒に居ようね」
ずっと、一緒に。
それは……。
一瞬言い淀んだ。
けれど、俺は立ち上がって、エルクの頭に手を乗せ、言う。
「……うん。ずっと一緒に居ような」
もし、いつか。
一緒に居られるようになって。
それで、エルクがまた求めてくれたなら。
エルクを抱き寄せる。
が、俺の手は空を切った。
「……ん?」
見ると、エルクは少し離れたところで涙を浮かべていた。
「……昔はもっと、当たり前みたいに言ってくれたのに。なんでこれだけ……」
「え?ちょ、エルク?」
「うるさいっ!カインなんて、しらないっ!!カインのバカーー!!うぇぇぇぇん!!」
「えっ?エルク!?……俺何が悪かった?えー!?」
兄様たちの爆笑が聞こえてきた。めっちゃムカつく。
母様が近付いてきた。流石に気まずくてちょっと無視。
しかし母様は無視すらも無視してきて、俺の隣に座った。
「……ごめんなさい」
「え?何が?」
「いや、その……」
「え?何?」
「お願い、エルクちゃんの気持ちも分かってあげて……」
「母様!?え!?泣いてる!?ちょ、兄様!兄様ー!?」
この夜の一件は、俺以外全員酔ってたのかなってことで俺の中で落ち着いた。
……エルクは翌朝もまだ怒ってたけど。
「……あねさん……けなげ」
なんか、リヴィアの涙まじりの声が聞こえてきた。
この話のキャラは勝手に動いては困らせてくるので困ります
エルクはまさかそんなことになるとは思ってなかった




