表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/33

二十九話 帰郷

「カイン!」


 エルクの呼ぶ声で、はっと我に返る。


「何してるの、右手見せて!」


 そうだ、こんなところで右手を潰しても何の意味もない。

 俺がやるべきことはそんなことじゃない。

 まずは―――


「二人とも、聞いてくれ。ミルガイア家の騎士たちはもう引き上げる。だからその間は隠れてやり過ごそう」


 エルクが右手を治療してくれている。……こんな八つ当たりの自傷行為を治療させてしまって申し訳ない。

 俺が今すべきことは、そんなことじゃない。


 エルクが治療を終え、恐る恐ると言った調子で尋ねてくる。


「カイン……何があったの?」


 リヴィアは泣いていた。

 俺の形相があまりにも怖かったのだろう。

 よく見ると、エルクも少し震えている。

 安心させるため、抱き寄せようと手を伸ばすと、エルクはびくりと体を震わせた。


 ……そうか。

 俺は、治療された右手の感触を確かめ、座った。

 そして、二人に説明する。

 俺が見た、地獄を。


「ついさっき、レイン・パスファインド……俺の父親が、処刑された」


 エルクの顔に戦慄が走った。


「そん……なん、で」

「多分だけど、俺の罪の……責任を取って、だと思う」

「でも、カインは、だって……」

「……それより今は、馬車を―――」


 言いかけた時、エルクは俺を抱き寄せた。


「ご、めん、なさ……」

「……なんで謝るんだよ」

「だって……わたし、さっき……カインが、一番、辛い時、に……怖、がって……」

「……なんで泣くんだよ」


 俺はエルクの涙を拭った。


「……ありがとう。エルク」


 俺はエルクの腰に手を回し、抱きしめた。

 エルクは、もう怖がってはいなかった。


「……ボス」


 リヴィアが泣き止んで、頭をつつく。

 俺は少し頭痛を感じながらも、テレパシーを使った。


『ボスのパパも、ミルガイア家に殺されたの?』

『……ああ』

『……ぼく、ミルガイア家のこと、許せない』


 リヴィアが拳を握りしめる。


『……でも、ミルガイア家を殺すの、やめてほしい』


 その言葉に、俺の目は見開いた。


「リヴィア……それ、どういう意味だ」


 俺はリヴィアに近付く。少し、声に怒気が混じっている自覚がある。

 リヴィアが「ひっ」と悲鳴をあげた。


 俺が怖いのだろう。わかってる。怒りをリヴィアにぶつけるのはおかしい。そんなことしたいんじゃない。

 それでも、俺の怒りは収まらなかった。

 しかし、リヴィアも引きはしなかった。


『……だって』


 リヴィアは、泣きながらもテレパシーで話し続ける。


『だって、ボス、可哀想……』

『……リヴィア』

『ぼく、これ以上ボスに不幸になってほしくない……ボスも、姐さんも……幸せになってほしい……』

『リヴィア』


 俺はリヴィアの頭を撫でた。そして、心からの謝罪をする。


『怖がらせて、ごめんな。不安にさせて、ごめん』

『……ボス、死なないで……』

『大丈夫だよ。……でもな、俺は、やらなきゃいけないことがあるんだ』


 リヴィアの頭を撫でながら、言う。


『俺は、エルクと、リヴィアと……スーベニアも。皆、幸せになってほしいんだ。そうしたら俺は、幸せなんだよ』

『……ボス』


 リヴィアの顔は曇ったままだ。エルクも泣き止まない。

 大丈夫。俺がみんな、幸せにする。いつか皆が笑って暮らせるようにしてみせる。


 俺はもう、止まらない。


―――――――――


 虫の知らせ以降、俺の超能力は回復に時間を要した。

 テレパシーとサイコメトリー、そして微弱なサイコキネシスは使えるものの、テレポートはもちろん、千里眼などの普段から頼っていた能力もろくに使えなかった。

 これでは安全が確保できず、進めない。


 結局、満足に千里眼が使えるようになるまでに三日を要した。


「……調子はどう?」


 エルクが尋ねる。

 あれ以降、エルクの表情は晴れない。食事の時も、寝ている時すらも、どこか浮かない表情をしている。


「一応、千里眼は使えるようになった……でも、範囲的には……」

「まだ治らない?」

「四里眼ってところかな」


 俺は努めて笑って、おどけるように言った。


「でも、いつまでもここに居るわけにもいかない。四里でも安全確認は取れてるし、行こう」


 そう言うと、エルクは俺の手を取った。


「エルク?」

「……カイン。急にどこかに行ったり、しないよね?」

「……しないよ」


 俺は、エルクの顔を見ずに言った。


 馬車を動かす。久々の移動にスーベニアも喜んでいるようだ。


「ごめんな、スーベニア。しばらく我慢させちゃって」


 ぶひん、と鼻息で返事。なんとなく、「気にするな」と言っているような気がした。


 レビテーションがまだ使えないので、リヴィアを肩車してなんとか鞍に座ってもらう。傍から見るとマヌケだが、これしか方法がないのだから仕方ない。


 そんな苦労を超え、久々の出発を果たした俺たち。

 千里眼はまだ常駐はできないが、こまめに使って索敵をする。頭痛が激しいが、仕方ない。


「カイン、やっぱりまだ休んでた方が……」

「いや……三日も休んだからな。むしろこんな所にいる方が危険だ。もし実家に少しでも居られたら、そこでまた休めるから……」


 エルクは、止めたいけど止め方が分からない、というような顔だ。

 わかってる。無理をしているのはわかってるが、仕方ない。


 事実、さっさと実家に着いてしまった方が安全だ。

 もし匿ってくれるなら少しは安全に過ごせる。無理ならすぐに出て、エルクの実家に行く。

 そうして、自分の甘えを取り返したかった。

 もう甘えてなんて、いられない。


 予想通り、一日程で到着した。念の為覆面を被って、門の前に立つ。

 エルクとリヴィアは緊張した面持ちだ。俺も緊張していた。


 ノッカーを握る。

 ガン、ガンと叩くと、中から出てきたのは。


「……ケイト」


 あの頃と変わらない、家政婦のケイトだった。

 いや、変わった。なんというか、老けた気がする。

 ……心配かけたな。

 ケイトは覆面姿の俺たちを見て訝しむ。


「子ども……?失礼ですが、どちら様ですか……?」

「ああ、すまない。分からないよな」


 俺は覆面を外す。すると。


「お坊……ちゃま……?カインお坊ちゃまですか!?」

「うん。心配かけたな」

「お坊ちゃま……よく、よくご無事で……」


 ケイトは泣き崩れてしまった。

 この一年、たくさん心配かけてしまっただろう。

 久々の帰郷だ。少しは心配が晴れたなら、嬉しい。


 ……もちろん。

 歓迎されるとは、あまり思っていない。


「皆は?」

「執務室にいらっしゃるかと……あ……いえ、坊っちゃま、お伝えしなければならないことが……」

「父様の事だろ。知ってるよ」


 俺は言葉を失うケイトを置いて足早に執務室へ向かう。

 エルクとリヴィアも無言で後から着いてきた。

 ノックもせずに執務室の扉を開ける。


「あなた……カイン……!?」

「カイン、カインか!?」


「うん……ただいま」


 俺に対する反応は様々だ。

 目を疑うような反応の母様。

 素直に喜ぶノイン兄様。

 表情の読めないレイラ姉様。

 そして、レイク兄様とレオン兄様は、あまり歓迎していないムードだ。


 その良くないムードを察してか、ノイン兄様がいつものように場を明るくしようとする。


「……生きててよかったよ!みんな心配して」

「それより、伝えなきゃいけないことがあるだろ」

「……レオン兄様」


 レオン兄様。現、パスファインド家の当主だ。

 兄様は真面目な性格で、父様を本当に尊敬していた。

 ……許せないだろう。俺のことを。


「父様のこと、だよね」

「お前……」

「知ってる。父様の言う通りだよ。……俺は本当に、見ていたんだ」


 レオン兄様は立ち上がり、俺の胸ぐらを掴んだ。


「お前……どうやって!」

「それは言えない。けど、本当に見ていたんだ。……父様の言葉も、聞いてた」


「お前……それ知ってて、なんで帰ってきたんだよ!!」


 どきりとした。

 覚悟はしていたものの、実際に言われるとやっぱり傷つく。


「おい、レオン兄!そんな言い方……」

「いや、わかってる。今更帰ってきても歓迎されるとは思ってない」

「待てカイン!レオン兄もそんなつもりじゃ」

「いいよノイン兄様。……自分自身わかってる」


 仲裁してくれようとするノイン兄様を制する。

 みんなの気持ちはわかる。でも、今は分かってもらおうとする時じゃない。


 理解されなくても、受け入れて貰えなくても、やらなきゃいけないことがある。


「わかってる。本当に処刑されるべきは俺だっ」


 て。と言い終わる前に。

 ばしん、と頬を叩かれた。

 サイコキネシスも無い俺は、躱せずにもろに喰らって地面に転がされる。


 見上げると、手を振り下ろした状態で母様が立っていた。

 荒い息のまま、涙の溜まった目で俺を睨んでいる。


「あなた……父様の言うこと聞いてたんじゃないの!?」


「母、様……」

「父様がなんて言ってたか覚えてたらそんな事言えないはずよ!大体あなた……」

「母さん、落ち着いて……」

「そもそもレオン兄があんな言い方するからだろ!」


「え……何、どういうこと?皆俺を恨んでるんじゃないの?」


「恨んでねえよ!」


 兄達の総ツッコミ。

 俺が状況を掴めずにぽかんとしていると、ノイン兄様が手を貸してくれた。体を起こし、改めて向き直る。


「俺たちはみんな、お前が悪くないって知ってるよ」


 ノイン兄様はこともなげにそう言った。

 後ろからレオン兄様がため息を吐く。


「……悪い。言い方が悪かったよ。俺が言いたかったのは、なんでこの……ミルガイア家の騎士があちこちに居る状況でここに来たのかってことだ」

「あ……と、それは本当に偶然なんだ。ちょっと色々言えないんだけど……」

「そうか……まあ、お前は昔から間の悪いやつだったからな。そういうこともあるか」


「あら、もしかしてそっちはエルクちゃん!?」

「あっ、はい。ご無沙汰してます、お義母様」

「あら可愛くなって〜!大変だったでしょ?今まで」

「それはもう、カイン……君がなんとかしてくれて……」

「あら、それでそっちの可愛い子は誰?」

「えっ、あの、ぼく、リヴィア……」


「……母さんは完全にオカンになってるな」


 レオン兄様が溜息を着く。なんだか苦労人オーラが増している。当主になったからか?


「本当は母さんから話してほしかったんだが、仕方ない」


 レオン兄様が俺に鍵を手渡した。これは……書斎の鍵?


「今、うちに客が来てる。……多分、お前も知ってる奴だ。父さんに何があったかは、そいつから聞いてこい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ