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二十四話 サプライズパーティ・当日編

 少し時間が飛んで、次の日の夜。

 俺とエルクは夕食の連絡が来るのを今か今かと待ちわびていた。


「ボス?あねさん?」


 リヴィアが不思議そうにしている。昨日と同じように「腹が減ってな」と誤魔化す。そろそろそれも限界かもしれない。


「お腹空いたなー」

「ほんと、お腹すいたよねー」


「……へん」


 リヴィアの人間語能力は日に日に成長を見せている。起きている間ほとんどの時間勉強しているので、驚くべき吸収速度も当然かもしれない。結局、真面目さがいちばんの才能だということだ。


 そして、念願の呼び鈴が鳴った。

 俺はいつものように覆面を被り、店主を迎えに行く。


「料理の準備が出来ました。隣の部屋に置いてありますので、冷めないうちにお召し上がりください」

「ああ。ありがとう……これは代金と、チップだ」

「ありがとうございます……あの、なんか、怒ってます?」

「いや、楽しみだっただけだ」

「そ、そうですか……」


 店主は怯えながら戻って行った。俺も部屋に戻り、二人にサイコ耳栓をつける。

 そしていつものように嬌声を聞きながら二人の手を引いて……


 ……ん?


『……リヴィア。お前、寝る時とか買い物に行く時、普通にこの部屋出てたよな?』

『うん』

『もしかして、外の声って、聞こえてた?』

『うん……あ、耳栓ってそのため?』

『……すまん』

『別に気にしない。元奴隷的には子守唄』


 それも問題だが、とにかくいらないお世話だったらしい。リヴィアの耳栓を外し、隣の部屋に連れていく。

 扉を開けると。


「わあ!!」


 リヴィアが声を上げた。

 店主は頼んでもないのにパーティ仕様にしてくれていた。部屋は飾り付けられ、部屋の真ん中には大きなケーキ。ステーキを初めとした豪華な食事。そしてさりげなくラッピングされたプレゼントも置いてある。気が利いていることだ。


 店主、仕事できるじゃないか。後でチップを増やしておこう。元は奴の金だが。


「y45mt2_badblj.-v!!!」


『り、リヴィア。嬉しいのはよかったんだが人間語で話してくれ』


 リヴィアは大興奮だった。お菓子と食べることが好きな子だ。夢のような光景だろう。


「喜んでくれてよかったね」


 エルクがこっそりと俺に囁く。


「エルクが提案してくれたおかげだよ。ありがとう」

「えー?へへ、そんな真っ直ぐ言われると照れちゃうな。カインも、色々企画してくれてありがと」


「た、たべて、いい!?」


『好きなだけ食べろ。今日はお前の歓迎会だ』


「わー!」


 「いただきます!」と早口で言って早々に食事を始めるリヴィアが微笑ましくて、俺とエルクは笑いあった。


 俺たちもそれぞれ席について、食べきれないほどの食事に舌鼓を打つ。

 普段の食事も美味いが、いかにも豪華な食事というのも当然美味い。俺たちの好みに合わせて米を用意してくれているのも嬉しいポイントだ。


 色々あったが、いい宿なのは本当だな。


「リヴィアちゃん、そんなに急いだら喉に詰まるよ」


 エルクがリヴィアの口元を拭う。母親のようだ。普段は落ち着いて食べるリヴィアだが、今日は余程興奮しているのか口周りがソースでべちゃべちゃだ。

 まあ、そこまで喜んで貰えると嬉しい。エルクも同じなのか、困ったような口調だがどこか嬉しそうだ。


 料理は大量にあったはずだが、美味い食事は普段よりも進む。特にリヴィアが普段の倍近く食っているので、料理は早々になくなってしまった。


「ケーキも、たべて、いい!?」

「ああ。全部食ってもいいぞー」

「……なんか……いや、うん」


 エルクはちょっと微妙な表情だ。娘に甘い父親のようだと言いたいのだろう。お互い様だ。

 まあいいじゃないか。今日はリヴィアのためのパーティだ。俺たちで存分に甘やかしてやろう。


 リヴィアはケーキ1ホールを全て食べてしまいそうな勢いだったが、そこは良い子。きちんと三等分して俺たちの皿にも分けた。親の躾がきちんとしている。

 おかげで俺たちもケーキにありついた。今は居ないリヴィアの両親に感謝。


 ケーキは生クリームが贅沢に使われていて、非常に美味かった。最近テレパシーで酷使していた脳に染みる。まあ、とはいえここに来るまでの旅路を思えば、この程度対した負担でもない。


「いやー、これ、太るなー……でも美味しいなー……」

「大丈夫、明日からの旅路でどうせ痩せるよ」

「う……今そんなテンション下がること言わないでよ……」


「太るのは違うのか」

「太ることは幸せでもあるんだよ」


 女心はなんて難しいんだ。

 かなり大きかったけれど、ケーキも完食してしまった。部屋に入った時は食べきれないだろうと思ったが、終わってしまえばぺろりだ。


「ボスと、あねさんときて、よかった……」


 リヴィアはそんな感想を呟く。寝転がっているが、腹は明らかに膨らんでいる。胃がパンパンのようだ。……まあ、幸せならいい。


「まだあるぞ」

「も、もう……たべれない……」

「いや、プレゼントだ」

「プレゼント!」

「って言っても実用品だけどな」


 部屋の隅に置かれた包みをリヴィアに渡す。リヴィアはわくわくしながら包みを豪快に破いて開けた。

 ……そういえば、昔プレゼントの包みを丁寧に開けたら父様が少し残念そうにしていたな。破ってほしかったのかもしれない。少し気持ちがわかった。


「おー!かっこいい!」

「ナックルダスターだ。ここに指を通して……」

「こう?」

「そうそう。明日からの旅は危ないから、何かあったらそれで身を守るんだぞ」


「だいじにする!」

「いや、必要なら躊躇わずに使ってくれ……」


 早速装着して構えるリヴィア。

 微笑ましい反面、俺は少し冷や汗をかいていた。


「ねえ、カイン」

「……あ、エルクも思った?」

「うん……選んでる時は良さそうって思ったけどさ」

「ファンシーなラッピングに入った物々しい武器を付けて幼女が喜んでる姿は不気味だな……」


 ま、まあ喜んでるんだからいいとする。が、俺としては早くエルクのプレゼントに行って欲しかった。

 ちなみに、俺の予備の分はラッピングされたものとは別に置いてあった。ひとつは俺のだと伝えたことを忘れていなかったらしい。


「じゃあはい、リヴィアちゃん。こっちが私から」


 エルクがもうひとつの、少し小さい包みを渡す。リヴィアはわくわくしながらそれを開けた。


「はーと!」

「そう。リヴィアちゃんがよくやるハートマーク」


 出てきたのは、ハートのネックレスだった。


「えっと……」

「付けてあげるから、向こう向いて」

「うん!」


 エルクがネックレスを受け取って、リヴィアに付けてやる。微笑ましい光景だ。


「どう!?」

「うん、似合ってるよ!かわいい!」

「♡」


 リヴィアがこっちを向いて見せてきた。が、……うーん。


「エルク、これどうなんだ?ツナギにあのネックレスって正直……」

「合ってないね。でもいいんだよ、可愛いから」

「そんなもんか?」


「あれくらいの子は可愛いものを持ってて付けてるっていうのが大事なんだよ。

それに、リヴィアちゃんって馬に乗るわけだからあれに帽子に手袋に乗馬ブーツでしょ?おしゃれする隙のない格好なんだから、ちょっと無理にでも可愛いもの付けないとね」


 そんなもんか。実際にその年代の少女だったエルクが言うなら間違いないだろう。

 ちなみに、俺たちくらいの下級貴族はともかく、上級貴族はアクセサリーなんかを贈るセンスがまったくなかったりする。専門のスタイリストが居るので、自分では調べないからだ。


 ……エディ王子にセンスが無かったらちょっとやだな。


「ボス。あねさん」


 リヴィアがこっちを向いて話しかけてくる。


「どうした?」

「えーっと……えっと」


 リヴィアは頭をつついた。俺はテレパシーを使う。


『二人とも、ありがとう。ボスは最初、騎士の人たちを薙ぎ倒してて怖かったけど、助けてくれたし、優しくしてくれたし、すごくぼくのことを考えてくれてた。嬉しかったよ』

「リヴィア……」


 俺はリヴィアの頭を撫でる。まっすぐ感謝を伝えられる機会というのは、少し歳をとるとなかなかない。……特に今の立場だと。

 そんなに喜んでくれたなら、やった甲斐があった。


『姐さんは、最初ボスと二人なのをぼくが奪っちゃったから、ぼくのこと邪魔に思ってるかなって思ってたけど、すごく優しくて、大事にしてくれてた。ママみたいだった。ありがとう』

「リヴィアちゃん……」


 俺が代わりに伝える。……少し恥ずかしいけど、伝えない訳にはいかない。すると、エルクはリヴィアを抱きしめた。


 昨日の夜、エルクは俺に「ちゃんと優しくできてるかな」と相談してきた。末っ子で、初めてできた妹を可愛がりたいけれど、それが空回りしてないか不安だったのだろう。

 伝わっていてよかった。


『明日からの旅は危ないかもしれないけど、ぼくが頑張って馬に乗るから、二人はちょっとでも楽をしてね。

 ……二人に拾われてよかった』


 そう言うと。

 リヴィアは俺の頬にキスをした。


「ちょっ……リヴィアちゃ……」


 エルクがすごい目で俺を見てくる。

 何が言いたげながらも空気を読もうと葛藤しているエルクだったが、リヴィアはエルクの頬にもキスをした。


「えへへ〜リヴィアちゃ〜ん」


 エルクはそれだけででろでろに喜んでリヴィアを抱きしめていた。単純な奴め。


『もしかして、人間は感謝でキスしない?』

『まあ、あんまり一般的ではないな』

『そっか。じゃあ控える』

「私にはやってくれていいよぉ〜!」


 エルクはでろでろのままだった。

 ……キャラが崩壊している。


―――――――――


 夜も更けて。

 俺とエルクは元の部屋に戻ってきていた。


 せっかくだし今日くらい三人で寝ようかと思ったのだが、リヴィアが『明日からはどうせ三人で寝ることになるから、今日くらいは二人で寝て欲しい』と辞退した。

 ……まあ、若干複雑だが、せっかくの気遣いなので大人しく受け取っておく。


「リヴィアちゃん可愛かったねぇ〜」

「まだ溶けてるのか」

「もう治んないかも〜」


 よほど嬉しかったらしい。

 ……まあ、俺も嬉しかった。感謝の気持ちを伝えてもらうというのは、いいものだ。


 ……そういえば。

 先生にも、クライヴにも、ありがとうって言えなかったな。

 突然のことだったとはいえ、あの二人にはどれだけ感謝してもし足りないくらいだ。


 ……ならせめて。


「エル」


 エルクに普段の感謝を伝えようとして、振り向いた瞬間。

 俺の口は、塞がれた。


「……え」


 エルクと俺の唇が、重なっている。

 エルクは驚いて、目を見開いている。俺も多分、同じ顔をしている。


「……」


 そのまま。

 しばしの沈黙。


 状況を受け入れるのにかかった時間は、体感時間で一分ほど。

 その間、俺たちは唇を重ねたまま、動けなかった。


「……ぷはっ」


 呼吸を止めていたらしいエルクが、堪えきれなくなって唇を離した。その瞬間、エルクの顔は見る間に真っ赤に染まる。


「あ、の……い、やや、ちがっ、ちが、くて」


 エルクはベッドにへたり込み、顔を真っ赤にしたまま顔の前で手をぱたぱたと振る。


「あの、リヴィアちゃんが、感謝のしるしって言ってたから、ほっぺたにね?しようとしたんだけど、あの、ほら、急に、振り向く、から……」

「エルク」


 へたり込んだエルクに近づき、俺は顔を寄せ。

 唇を重ねた。

 しっかり、狙って。


「……え、か、カイ……」

「……リヴィアも、どこにするとは言ってなかったから。その……感謝のしるし」


 恥ずかしくて、顔を逸らしてしまう。今俺はどんな顔をしているのだろう。

 真っ赤なのはわかってるから、せめて、ニヤけてなければいいな、と思った。


「エルク。いつもありがとう。エルクが居てくれるおかげで、毎日幸せだよ」

「カイン……私も、カインが居てくれるから、今、幸せだよ」


 しっかり、言葉でも感謝を伝え合う。

 そして、俺たちはいつものように抱き合って眠った。

 お互いの感触を、お互いの存在を、確かめあいながら眠った。

こいつらどこまで進む気なんだろうってハラハラしながら書いていました

まだキスなんてさせるつもりはなかったのに、こいつら……!


昨日、初めてポイントをつけていただいたことに気付きました。

以前ブックマークしていただいたのもそうですが、とても嬉しいです。

これからも『カインの英雄物語』よろしくお願いいたします。

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