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二十三話 サプライズパーティ・準備編

 次の日。馬車の依頼に向かって帰ってきたリヴィアは、部屋の中で嬉しそうにクッキーを食べながら勉強に勤しんでいた。


「……カイン」

「ん、どうした?」


 それを見ながらエルクが肘で俺を突っつく。リヴィアはそれに気付き、手でハートマークを作った。いつまでからかうつもりだ。


 エルクは一応、と言って頭をつついた。俺はエルクにテレパシーを繋ぐ。リヴィアに聞こえてはいけない話らしい。リヴィアも単語単位なら分かるかもしれないからな。


『あのさ、リヴィアちゃんの歓迎パーティがしたいんだけど、いいかな』

『歓迎パーティ?』

『うん。もちろん大っきくは出来ないけど……店主さんにお願いして、プレゼントとか買ってきてもらって』


 エルクは思った以上にリヴィアを可愛がっている。

 初日に部屋を分けるとか言ってたし、会話も出来ないので気まずいのかと思っていたが……。


 思えば、エルクは末っ子だ。初めて出来た妹が可愛いのかもしれない。

 俺も末っ子だけど。ちなみにクライヴは長男。


 ……そういや、ギルガルド家の跡継ぎってどうなるんだろ?あいつ単独で爵位貰っちゃったけど。弟とか居たっけ。


『そうだな、もちろんいいけど……ただ、この状況でどうやってサプライズする?俺たち外に出れないぞ』

『そこなんだよね……店主さんにお願いするしかないけど、店主さんに依頼するのもタイミング次第で怪しまれそう』

『まあ、それは食事を持ってくる時でいいんじゃないか?』


 サプライズパーティ。必要なのはプレゼントとケーキ、豪勢な料理とかか?

 ケーキと料理は(リヴィアが)寝る時しか使ってない隣の部屋に用意してもらって、時が来たらそっちに呼べば……


 あれ、いけそうだな。そのプランをエルクに伝えると、『それいいじゃん!』と喜んだ。


『じゃあ、むしろ問題はプレゼントだね』

『プレゼントって言われてもな……あいつがほしいものって、俺はお菓子しか思いつかないぞ』


『私も……あ、そうだ。服買った時とか、結構可愛いものに反応してなかった?女の子だし!』

『反応してたけど……あいつこの間スライムの絵見て「可愛い」って言ってたぞ』

『……ちょっとわかんないかも』


 スライムはポピュラーな魔物だ。無色透明で、分裂しながら襲ってくる魔物。

 擬音を付けるなら「うじゅるうじゅる」って感じ。


 ちなみに相手をする場合、すごくよく見ると分かる核を全部壊せば死ぬ。一回クライヴが狩っているのを見たことがある。

 重量が無いので今のエルクなら水魔法で流すのが一番面倒がないかもしれない。


『そういえばあいつ、結構実用重視なところないか?最初に欲しいもの聞いた時出てきたの「服」だし』

『確かに。絶対必要なものだし、デザインも「どうせなら可愛い方が」って感じだったよね。あの本も喜んでたし』

『ってなると、実用性の高いもの……うーん』


 何故かこういう時は考えても具体的に出てこないものだ。


『こういう時、やっぱ実物を見ながら考えられれば一番なんだけどな……』

『うーん、外に出れないからねー……あ、そうだ!』


 エルクがなにか思いついたらしい。


『千里眼でお店を見るのはどうかな?』

『あー……確かに。いいなそれ。店主に頼む時も「どこどこに売ってるあれ」って言えるし』


 物は試しとやってみる。まずは店からだ。


 表通りの適当な所に千里眼を使って、そこを起点に擬似的に歩き回っていこう。


『さて、まず近くに店は……』

「ぶっ」

『うん?どうしたの?なんかいいお店あった?』

『……いや、何も……』


 とりあえず最初に見つけた店は、えっちなお姉さんがえっちなサービスをする感じの店だった。……いいお店といえばいいお店だが、こんなもんプレゼントできるか。


『えーと……まずは……服屋だな』

『新しい服買うのはいいかもね。あれも可愛いけど1着だけっていうのも微妙だし』

『それで言うなら俺たちも一着だけなんだけどな……』


 ちなみに、現在は毎日風呂に入る度エルクが逐一洗濯している。

 当たり前みたいに俺の下着を触っているわけなので、出来れば自分で洗濯したい。


『あそこは……薬屋か』

『薬かー……万が一の傷薬とかはあってもいいかもだけど、プレゼントって感じでもないよね』

『そうだな……ん?プレゼントにって書いてある薬があるな』


『え、ほんと?どんなの?』

『えーと……あ、いや。見間違いだった』


 なんか、パートナーに夜中に飲ませるような薬だった。そんなものはリヴィアはおろか、俺たちにも必要ない。


『ここは……スクロール屋か』

『あ、いいんじゃない?リヴィアちゃん魔法使ってみたいって言ってたんでしょ?』

『いや、スクロールは起動に魔力が要るから、そもそも魔力を持たない獣人やE級は使えないんだよ』

『あ、そうなんだ……うーん、そしたら要らないね』


 いい店というのはあまりないようだ。いや、いい店自体はあるがリヴィアが欲しがりそうなものが無いのか。

 その後も色々見ていったものの、喜びそうなのは馬具店くらいだった。実用性や特技から考えてこれ以上ないのだが、残念ながら既に買うことが決まってしまっている。


『んー……あ、武器屋があるな』

『武器屋いいじゃん!最低限自衛は出来て欲しいし、実用性もバッチリだし』

『でも俺たちがこんだけ良い武器持ってて普通のを買うのも気が引けるな……』


『それは私たちが異端なだけで、貰うことが大事だし嬉しいと思うよ?私達だって、先生がくれたのがこんなに良いものじゃなくても嬉しかったと思うし』

『まあ、それはそうか……ちょっと中も見てみようか』


 俺は世間話を装いつつリヴィアに尋ねてみた。


『リヴィア、そういえばお前戦闘は出来るのか?』

『んー……微妙。獣人とはいえ年齢的にそこまで身体能力も高くないし、武器の扱いもいまいち』


『武器か。何か使ってた武器とかあるか?』

『体が小さいから、消去法でナイフを使ってた。上手くはないけど』


 ということだった。じゃあナイフを買ってやるのが一番いいかな……


「プ、レ、ゼ、ン、ト」

「!!」

「……?」


 リヴィアがそんなことを呟くので俺たちは背筋が凍ったが、勉強している単語の発音練習をしているだけのようだった。異常なタイミングの良さだ。


『あ、焦ったー……』

『ほんとだよ……それでリヴィアちゃん、何て?』

『ああ、そうそう。自信はないけど、ナイフを使ってたらしい』

『ナイフかー。良いのありそう?』

『んー、武器としてそんなに需要ないからなー……あ、でもいくつかあるな。初心者向けのやつと、予備用の小さいやつと……これはドラゴンの骨から削り出したやつか』


『え、そんな高そうなのあるんだ』

『いや、ナイフは刀の余りの材料で作れたりするから……まあ高いっちゃ高いけど、質はそんなに良くないことが多いんだよな』

『なるほど……品質はどう?』

『触らないとわかんないけど、正直そこまで良くなさそうかな……』


 ん?

 少し気になるものを見つけた。


『へえ、こんなのあるのか……予備に俺も持っとくべきかな』

『何かあった?』

『いわゆるナックルダスターってやつだな』


 ナックルダスター。簡単に言うと、パンチの威力を上げる武器だ。

 正直なところ、メインで使う武器ではない。剣や槍に比べると、圧倒的にリーチが短いし、威力も大きく劣る。


 けれど、素手よりは圧倒的に強いし、携帯しやすい。そして何より、非常に使いやすい。

 訓練しなくても使えて、素手より強い、携帯武器。なんだかんだ訓練が必要なナイフを持つより余程使いやすいかもしれない。


『クリーンヒットすれば人の骨くらいは砕けるし、ついでに買っとこうかな……』

『……それいいんじゃない?リヴィアちゃん、武器がそもそも苦手なんでしょ?獣人の身体能力だったら下手に武器持って重くなるよりいいと思う。そもそもリヴィアちゃんが戦闘してる時点で……だし』


『……言われてみればそうだな。そんなに重くないやつでしっかり強そうなやつ……って、あんまり種類がないな。これでいいか。自分用にもひとつ買っとこう』

『防具は?』

『防具はサイズ合わせないと意味ないからなあ……っていうか、俺たちのが欲しい』


 とりあえず1つは決まった。リヴィアのは予備も含め二セット買っておく。


『もうひとつくらい要るかな』

『私からとカインからのでふたつ欲しい気持ちはあるね……あ、じゃあさっきの服屋さんで、こんなのあるかな』


 エルクには案があるらしい。俺からするとよく分からないものだったが、オシャレの部分はエルクに任せよう。


 というわけで、プレゼントの内容が決まった。あとは店主に注文するだけだ。


「……?」


 俺たちはそわそわしているのが隠せていないらしく、リヴィアは俺たちを見ながら怪訝そうな顔をしていた。


「いちゃいちゃ?」

「違う」


 なんでそんな単語が載ってるんだその本。


『お腹が空いたんだ。早く食事が来ないかなと思って』

『なるほど。ぼくもお腹すいた』

『まあもうすぐだと思うけどな』


 そう話していると、呼び鈴が鳴った。

 俺は覆面を被り、扉を出る。普段よりずっと早い対応に店主は驚いていた。


「お食事です」

「いつもすまない。あと頼みがあるんだが」

「……なんです?」


 うわ、露骨に嫌な顔。いつも無理言ってるからな……今回はそんな無理なことではないのでそんな顔をしないでほしい。


「いや、ここに書いてあるものを買ってきてほしいんだ。金は出すから」

「ああ、なんだそんなことですか……」


 ほっと胸を撫で下ろす店主。

 しかし、受け取った紙の内容を読んで絶句する。


「め……メリケンサック……三セット……?あ、あの、流石に、人殺しの加担は私は……」

「い、いや、待ってくれ。違うんだ。それはプレゼントで」

「プレゼントにそんな物々しい道具渡す奴は居ませんよ!」


 おかしい、信じてくれない。本当のことを言っているだけなのに。


「い、いや待て。俺たちは普段旅をしてるんだ。あの小さいのが居るだろう?」

「全員小さいように見えますが」

「いちばん小さいやつだよ。あいつに護身用の武器を渡しておきたいんだ。武器に慣れてないみたいだから使いやすいのをと思ってな」


「あ、ああ、なるほど、そういう……しかし、予備も含めて二セットはわかりますが、三セットも必要なんでしょうか?」

「いや、ひとつは俺のだ」

「やっぱり人を殺す気じゃないですか!」

「違う……違うんだよ……」


 暴れる店主をなだめるのに苦労したが、なんとか約束を取り付け、ついでに二日後に出ていくことも伝えた。露骨に嬉しそうな顔をしやがるので、ちょっとムカつく。


 ……そうか、言うなればこのパーティは俺たちの出立祭でもあるのか。


 また一日、近付いたな。

 でも、できるだけ今を大事に生きよう。


 食事を持って部屋に入る。エルクが頭をつつくので、テレパシーを繋いだ。


『随分かかったね。何か問題があった?』

『……メリケンサックの中にひとつだけ可愛らしいものが紛れているのが逆に怖いと言われた』

『あっ……ごめん、私も武器にしとけばよかったかな』

『いいんだ……俺もリヴィアに喜んで欲しいから……』

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