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二十話 秘めたる決意

 そうして、リヴィアを加えた俺たち三人は元の宿屋に戻った。

 もちろん素顔を見せるわけにもいかないので、(リヴィアも含め)覆面を改めて被る。材料はジェイコブの服を拝借した。真っ赤なアクセントで道行く人も振り返るほどおしゃれに仕上がったと思う。


 困ったことにテレポートはまた使えなくなっていた。仕方ないので人目に気をつけながら、徒歩とレビテーションで帰宅する。結構遠いのでしんどい。あと意外と二人から三人になっているのもきつい。いつか自在に使えるようになるのだろうか。


 今までのことから考えて、おそらく俺の超能力は感情でリミッターが外れる、という仮説が正しいのだろう。

 そして前回、先生を殺された際に千里眼の距離が延びていた。どうやらリミッターは解除のタイミングで少しづつ緩和されていくようだ。

 俺が突然超能力に目覚めたのも、襲われるエルクを見て初めての激怒を経験したからだろう。

 あるいは、殺意か。


 ただ、問題はリミッターが外れてもおそらく、まともにやり合えばA級の騎士一人が限界だということだ。先生は成長とともにエネルギーは増えていくと言っていたが、それでどれだけ伸びるのかは今後の課題だ。


 一時間ほどかけて宿に到着する。エルクとリヴィアにはサイコ耳栓を付けて、先に元々取っていた部屋に向かってもらった。俺が戻るまで何も聞こえない状態になるが、少し我慢してもらおう。

 さて、俺の仕事はこれからだ。


 店主の胸ぐらを掴む。


「さて、今回の落とし前をきっちりつけてもらおうか」

「わ、悪かった!とある貴族に脅されて……」

「ジェイコブ・ペランティだろ。そいつは俺が殺した」


 言葉を失う店主。俺は手を離す。店主は一度転んだものの、すぐに立ち上がって、居住まいを正した。


「あんた、何もんだ。貴族を殺して平気な顔してるなんて……」

「ん……?ジェイコブから聞いてないのか。それなら教えられないな」

「すまねえ……うちの店はペランティ様に」

「その辺はどうでもいい」


 ぴしゃりと店主の言葉を切る。

 店主の置かれた状況などどうでもいい。それよりも大切なのは、俺の利益だ。

 今回のことで被った損害を、どう補填してくれるのかだ。


「大事なのはお前が俺たちに何をしてくれるか、だ」

「な、何でもする!何でもするから命だけは……」

「そんな無茶な要求はしないさ」


 俺は指を三本立てる。店主は死刑宣告でもされたような顔で俺の指を見ている。


「一つ。俺たちのことを誰にも口外しないこと。こんな客が泊まったとか、そういう事を誰にも言うな。お前は俺たちを泊めていない。どころか、見たこともない。いいな?」


 店主はぶんぶんと頷いた。必死だ。


「二つ。しばらく俺たちを無償で泊めろ。防音室はもう一部屋あるか?」

「あ、あります!今のお部屋の隣です!」

「なら今の部屋とその部屋をしばらく貸してもらう。飯も三食付けろ。飯は必ずお前が持ってきて、お前以外誰も部屋に近付けないこと。なに、何ヶ月も居座りはしない。それくらい簡単だろ?」

「は、はい……」


 店主はやや不満そうだったが、もとより飲まない選択肢はない。結局は頷いた。


「あと、部屋に侵入した時に使ったマスターキー。あるんだろ。出せ」

「はい!」


 店主が懐から鍵束を取り出し、俺に手渡す。

 俺はそれを奪うように受け取り、店主をぎろりと睨んだ。


「……舐めてるのか?もう一つあるだろう。持ってこい」

「! はっ、はい!申し訳ありません!」


 店主は走って裏へと向かい、数秒後に鍵束を持って現れた。それを再度俺に手渡す。運動不足か、はたまた俺を恐れてか、店主は激しく息切れしていた。

 これで全てのようだ。俺は頷いて、鍵束を受け取り懐にしまった。


「最後、三つ目だ。この店が持つ現金を全て俺に渡せ」

「ぜ、全部ですか!?それではこの店が運営できなくなって、私どころか従業員一同路頭に迷います!」

「現金じゃない資産くらいあるだろ」

「無くはないですが、結局サービスが継続できなくなってしまいます!そうなれば、この店は終わりです!」


 無理か。まあいい、最初に吹っかけるのは有利な交渉の基本だ。

 通ればラッキー、通らなければ下げてしまえばそれが通りやすくなる。


「じゃ、七割だ。これ以上はナシだ」

「さ、三割しか……いえ、わかりました」

「言っとくが、全部の三割だぞ。地下の隠し金庫の中身もだ」

「はっ、はい!」


 テレパシーはこういう時便利だ。後ろ暗いことをしている人間はどうしてもそれを頭に思い浮かべるからな。


「よし、じゃあ約束だ。これらの約束を違えれば、お前を殺す。無論、部屋やら飯やらに妙な真似をしたら、その時も殺す。今日は油断したが、一回やられた以上二度と油断はしない。徹底的に全て調査するからな。いいな」

「はい……」

「分かったら、まずはもう一つの防音室と夕食を用意しろ」

「は、はい!」


 凄まじい速さで立ち去る店主。俺は近くにあった椅子に倒れ込み、息を吐く。

 ……疲れた。あれだけハードな戦闘の後に交渉とは、今日は大変な一日だ。甘い物が欲しくなる。


 ……おっと、いかんいかん。エルクとリヴィアの耳栓を外してやらなければ。

 俺は急いで部屋に戻った。


「おかえり、カイン」

『おかえり、ボス』


 部屋に入ると、二人が出迎えてくれた。俺は二人の耳栓を外す。


「ごめんな、不自由だっただろ」

「全然。私とリヴィアちゃん、そもそも会話できないし……」

『気まずかった』

「ああ、そうか。それもなんとかしないとな……」


 前途多難だ。

 とりあえず最低限の意思疎通手段として、単語だけでも早めに教えたいな……。教本でも買ってくるか。


「それで、どうだった?」

「ここともう一部屋の滞在権と食事はぶんどってきたよ」


 あと現金の七割。

 これは言わないでおく。エルクの好感度低下が怖いから。


「そっか!よかった」

「そうだな。じゃあ二部屋あることだし、俺は今日から向こうで寝るから」

「え?」

「え?」


 エルクが驚いた顔で聞き返す。それに俺が驚いて聞き返す。部屋は奇妙な雰囲気に包まれた。

 ……二部屋欲しいと言われたから、普通に考えて男女で部屋を分けたいんだと思っていたんだが。


「違うのか?」

「いや、てっきり私とカインが同じ部屋だとばっかり……」

「なんで?」


「なんでって、そりゃ……その、私とカインは狙われてるけどリヴィアちゃんは狙われてないし、リヴィアちゃんもせっかく解放されたのに知らない人二人と同室じゃ気が休まらないだろうし……」

「♡」

「ちょ、リヴィアちゃん!」


 リヴィアは手でハートマークを作っていた。微妙に意思疎通が取れてきてやがる。


『ボスと姐さん、ラブラブ』


 リヴィアは何故か俺のことをボス、エルクのことを姐さんと呼ぶ。何故かと聞いたら、俺は雇い主で上司だから。エルクは上司の奥さんだからということだ。

 否定しても変えてくれないのでそのままにした。当面は俺しか聞こえないし。リヴィアに寝室を分けたい旨を伝えると、こくりと頷いた。


『リヴィアはそれでいいのか?何もないとは思うが……』

『人の恋路を邪魔するほど野暮じゃない。あと、普通に一人部屋が欲しい。憧れ』

『あ、そう……』


 というわけで、俺とエルクが同室、リヴィアは一人部屋ということになった。

 意味がわからないが、まあ二人とも満足しているのでこれでいいのだろう。


「……カインは私と部屋が分かれるの、寂しくないの?」

「いや、まあ、そりゃ寂しかったけど……」


 訂正。三人とも満足しています。


 とりあえずそこまで決まったところで、夕食が運ばれてきた。俺は覆面を被り、部屋の外に出る。


「で、金は用意できたか?」

「はい、こちらになります」


 出てきたのは、想定を遥かに超えた大金だった。積み上がっている。思ったより溜め込んでいたようだ。

 ……これはちょっと隠せそうにないかもしれない。どうしようかなこれ。馬車どころか家が買えるぞ。


 店主も嘘を吐いている様子はないので、とりあえず夕食を受け取り、金は外から見えないバッグに入れて隣の部屋に置いておくよう伝えた。

 ついでにリヴィアのために獣人のための人間語の教本を買ってくるよう指示しておく。何も無いより確実に習得が早まるはずだ。


 夕食を持って部屋に入る。夕食のメニューは焼き魚に野菜の炒め物、ぶどうのジュース、そして米だ。


「わ、お米だ!」

「さっき米をリクエストしておいたんだ。やっぱり頑張った後はこれじゃないとな」

『……おいしそう』


 リヴィアの口から涎が垂れている。こいつも今までろくな飯食えてなかったんだろうな……

 少し涙腺が緩む。が、唾液腺の緩みの方が重要だ。俺とエルクは同時に手を合わせた。


「いただきます」

「いただきます」

「……?イタダキマス」


 俺たちの習慣を見て、リヴィアが真似する。とりあえず真似から入るのは良い心がけだ。案外言葉も早く覚えるかもしれないな。


 一口食べると、リヴィアは声にならない声を上げていた。


『おいしい。こんな美味しいもの初めて食べた。昨日までは豚の餌だった』

『やっぱろくなもの食べさせられてなかったんだな……残飯とかか?』

『いや、比喩じゃなくて文字通り豚の餌』


 俺の表情が固まった。どんな反応をすればいいのか分からない。


『え……それは、具体的には、どんな……』

『なんか、よくわからない。どろどろの液体』

『……味は?』

『なんだろ……牛乳を拭いたあとの雑巾を食べて吐いたゲロ?』


『……魚、やるよ』

『いい。食べきれない』


 奴隷生活は想像以上に悲惨だったらしい。……また涙腺が。


『これからはたくさん食わせてやるからな……』

『嬉しい。でもぼくはあんまり仕事なかったから楽な方だった』

『そうなのか?』

『将来美人になるって捕まったから。現時点では何もなかった』


 良かった……のか?

 いつその日が来るかと怯えながら豚の餌を楽しみに生きる生活は十分地獄だと思うが。


『まあ、俺たちにとっては馬に乗るのと買い物だけしてくれれば十分すぎるくらいだ。欲しいものがあったらなんでも言ってくれ』

『わかった。……そういえば、馬車を持ってるようには見えない。買えるくらいお金あるの?』


 やべ。やぶ蛇だった。


『……リヴィア。お前には教えとくんだけど、実は俺この宿屋が持ってる現金の七割を脅し取ったんだ』

『すごい。悪人』

『いや、違くて……』


「ね、なんの話?私にも通訳してよー」


 エルクがつまらなさそうに入ってきた。やばい、最悪のタイミングだ。


「¥」

「ん?なに?お金?お金の話?……あ、そういえば、馬車を買うお金ってどうするの?そんなに手持ちあったっけ?」


 こいつ……!

 俺は渇いた笑いをしながら誤魔化す。


「あー、うん、実は最初にこの宿に来た時にたまたま安くしてくれる業者があって……」

「へえ、凄い偶然だね。それって表通りの業者?どうやって知り合ったの?」


「……裏路地にしては安いとこなんだけど、ほら。俺たちお金使ってないから結構残ってて」

「へえ。でもこの宿取るのにも結構使ってたよね?」


「……その分は返ってきたんだ。お詫びにって」

「ふーん、そうなんだ。それはなんでさっき言わなかったの?」


「……いや、その」

「カイン、なんか隠してない?」


『姐さん、こわい』


 エルクの笑顔に気圧され、俺は全てを話した。

 現金の七割を脅し取ったこと。最初は全部と吹っかけたこと。貰った金は家が軽く買えるほどあること。

 そしてその金は今隣室にバッグに入れて置いてあること。


「……まあ、納得してるならいいんじゃない?元は向こうが悪いわけだしね」


 言ってみると思ったより怒られなかった。リヴィアも強く、逞しくなったものだ。

 怒られなかったが、隠し事をしていたことについては本当に悲しそうな顔をされた。正直、怒られるよりも効くので二度と隠し事はするまいと思った。


『ボスが悪い』


 うるさい。半分はお前のせいだぞ。


―――――――――


 リヴィアは部屋に帰って眠ってしまった。飄々としているものの、流石に疲れていたらしい。

 本人は平気そうにしているが、おそらく精神的な疲労もあるだろう。突然来た男が自分の主人含む十一人を殺して、その男のもとで働くことになる。文字で書くだけでも普通の人は体験しないような、大変な出来事だ。


 リヴィアには、出来れば強制ではなく望んで働いてほしいと思う。そして、不幸にされた分幸せになってほしい。そのために何かが必要ならなんでも言ってほしい。


 念の為リヴィアを隣の部屋まで送り、部屋からは出ないことを厳命しておく。リヴィアはこくりと頷き、部屋に入っていった。聞き分けのいい子だ。

 部屋に戻りベッドに座ると、エルクは隣に座った。肩が触れ合うような距離感。俺たちのいつもの距離だ。


「二人に戻ったね」

「一旦な」


 朝、二人でここに来て。

 昼過ぎに目覚めたら、一人になっていて。

 夕方に三人で戻ってきて。

 そして、夜にまた二人になった。


「……もう、一人は懲り懲りだよ」

「……私も」


 目覚めたらエルクが居なくなっていた。そんな体験はもうしたくない。

 あの時、目覚めるのが遅れていたら。

 きっとそれでも盗賊団を壊滅させてエルクは戻ってきただろうけど、きっと今の何倍も傷ついていただろう。

 そして傷ついたまま、無理をして次の場所へと向かっていただろう。

 そんなのはごめんだ。結果的にしばらくここに居られることになったのはありがたいが、一歩間違えば最悪の事態だって有り得た。


 二度とこんな気持ちにはなりたくない。

 エルクには、エルクにだけは、幸せになって欲しい。

 例え、エルクが少しだけ傷つくことになっても。


 例え、その結果、俺が永遠に不幸になっても。


「……リヴィアちゃんだけ隣の部屋に居てもらう理由、さ。もちろん、さっき言ったのも嘘じゃないけど」

「うん?」

「こういう姿、見られたくなくて」


 エルクは俺を引っ張り、二人でベッドに寝転んだ。

 そして、エルクは俺の胸に顔を埋める。


「ずっとカインと一緒に寝てたから、もうこうじゃないと寝れなくなっちゃった」


 俺に抱きついて、嬉しそうにするエルクは本当に可愛い。

 大切だ。大切にしたい。

 俺はエルクを優しく抱き寄せる。お疲れ様、ありがとう、ごめん。それぞれの意味を込めて。


「エルク、しばらくはちょっとだけ休憩しようか。もちろん出発する準備はしながらだけど、少しゆっくり準備しよう」

「そうだね。やっぱりちょっと疲れてたし……」

「それで、その後。次の目的地だけどさ」

「うん」


「一度、帰ってみないか?俺の実家と、それからエルクの実家に」


 抱き合っているから、顔は見えていないはずだ。けれど、俺が微かに震えていることにエルクは気付いたようだ。きっと何か勘違いしたのだろう。エルクは俺に抱きつく手の力を、少しだけ強めた。

 ごめん、エルク。隠し事、まだあるんだ。


「そうだね。……私も、お父様たちに会いたいし」

「決まりだな」


 俺はエルクを幸せにする。

 例え、二度とエルクと会えなくなっても。

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