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十九話 罪の行方

「はぁ……はぁ」


 血に塗れた剣を地面に下ろし、両断され、吹き飛んだ上半身を見下ろす。即死だったようだ。俺よりもずっと身長が低くなったデイヴィッドの目は、既に光を失っていた。


 ベテラン故の経験値。予測できる行動にはきちんと最適解を選ぶことができ、イレギュラーも最低限の被害に抑えられる。裏を返せば、不測の事態への対応力は下がっている。

 思い返してみると、デイヴィッドはサイコキネシスの奇襲から始まり、不意討ちを全て喰らってはいた。決定打にならなかっただけだ。


 そして、最後の不意討ちは決定打だった。

 それだけの話だ。


「……まともにやり合って倒せるのは、まあB級までかな」


 自分の実力を知れるいい機会だった。おそらく、騎士をほとんど最初に倒していなければ俺は負けていただろう。


 あるいは、ジェイコブの練度がもっと高ければ。

 俺は息を整え、抜き身の剣を提げたまま、ジェイコブに向かってゆっくりと歩く。


「ひっ……く、来るな!」


 ジェイコブは魔法で俺の足を止めようとした。『ウォーターボール』『ウォーターアロー』『ジェットスプラッシュ』……どれも初級魔法だ。精度も低い。

 エルクのものとは比べ物にならないな。

 回避するのも面倒で、全てサイコキネシスで止めた。


「なんだ……なんなんだ、お前の力は!」

「超能力っていうらしい。魔法とはちょっと違うな」

「待て……!俺に手を出せば、ミルガイア卿が黙ってな……」


 剣をひと振り。ジェイコブの首が胴体から切り離される。

 確認するまでもなく、即死だ。


「安心しろよ。そいつもいつか殺す」


 ジェイコブの首が地面に鈍い音を立てて地面に落ちた。


 俺は剣を収め、未だ血が噴き出すジェイコブの身体に近寄り、持ち物を漁っておく。金になりそうなものが多かったので、全てポケットにしまう。やってる事は汚いが、せいぜい有効活用させてもらおう。


「……ん?」


 視線を感じて、炭鉱の奥を見る。まだ誰か居るらしい。

 見られていても面倒だ。始末しに行こうと思ったが―――


「……奴隷。しかも子どもか」


 そこに居たのは、獣人の奴隷だった。

 そういえば、ジェイコブは今日奴隷狩りをしていたと言っていた。

 奴隷は本来犯罪者への罰のための制度なのだが、目の前の彼女は俺よりも年下に見える。とても犯罪を犯したとは思えない。哀れにも捕まってしまっただけだろう。


「……あー、殺さないから安心しろ」


 手を振って、努めて笑顔でそう言う。

 しかし、獣人は怯えたままだ。まあ目の前で十人以上も皆殺しにしたんだから怖くて当然か、と思ったが、よく考えたら獣人は人間と扱う言語が違う。おそらく何を言ったのか伝わってすらないのだろう。

 俺はテレパシーで語りかける。テレパシーは言語を介さないので、直接意味が伝わるはずだ。


『殺さないから安心しろ。お前も行く宛は無いだろ。何とかしてやるから、ちょっと待ってろ』


 獣人の少女はテレパシーの感覚に戸惑いながらも、こくこくと頷いた。俺だって罪もない、しかも被害者の子どもを見られたからといって殺すほど狂気に走ってはいない。

 俺は今でも真人間のつもりだ。


 一応他に誰も居ないことを確認して、炭鉱の入口へ向かう。それにしても遅い。それなりに戦っていたので結構時間は経っているはずだが。


 何かあったのかもしれない。心配だ。

 とりあえず千里眼で探してみるか。

 そう思った瞬間。


 爆発音が響いた。


「な……なんだ!?」


 爆発は人里離れた山の中のようで、ここからは遠い。が、振動はここまで響いてくるほどだ。

 それにこのタイミング。十中八九奴ら絡みだろう。


 エルクが危ない……!


 俺は迷わずテレポートを使った。


―――――――――


 現場に到着して、俺の目に入ったのは凄絶な光景だった。

 凄まじい勢いで山の中を蹂躙する濁流。それに飲まれ、流される人間たち。そして、その傍らで息も荒いまま立ち尽くすエルク。


「エルク!大丈夫か!?」

「あ……カイ、ン……」


 俺はエルクに駆け寄り、肩を掴む。エルクは力が抜けたようで、俺に体重を預けた。


「怪我は?」

「違う……違うの、カイン……私、こんなこと……」

「大丈夫、大丈夫だ」

「目が覚めたら、あの人たちに縛られてて……私、怖くて、わけわかんなくなって……」

「エルク!」


 俺はエルクを抱きしめた。

 震えるエルクの身体がびくりと跳ね、そして物理的に止まる。


「大丈夫だ。お前は自分の身を守っただけだ。落ち着け。大丈夫だから。俺はお前が無事でいてくれて嬉しいよ」

「カイン……」

「心配したよ」


 エルクは、人を殺すのが初めてだ。

 俺は特に人殺しに抵抗はなかった。英雄とはそういうものだし、殺そうとして来た奴を殺すことになんの躊躇いもない。実際、先生を殺した騎士の命を奪っても、何の感情も起きなかった。


 けれど、エルクは違う。

 エルクは俺と違って、繊細で優しい。だからきっと、人の命を奪ってしまったことにパニックを起こしているのだろう。

 なら、そのケアは俺がしなければならない。

 必要なら、その罪だって被らなければならない。

 それがエルクを守る方法だというのなら。


「カイ、ン……ごめん。来てくれてありがとう」

「いや、大丈夫だ。来るのが遅れてごめん……とにかくここを離れよう。テレポートするから、捕まって」


 俺はエルクを抱え、そして今も止まることなく、むしろ勢いを増し続ける濁流を横目で見る。

 凄まじい威力だ。

 おそらく、攫われてパニックになった時に使ってしまったのだろう。


 水属性最上級魔法、『神の涙』。


 最上級魔法は規模が大きいとは聞いていたが……まさか、ここまでとは思わなかった。今回はたまたま一般人に被害は出なかったはずだが、これが街中なら大量殺戮になっていただろう。

 いつかの八百屋の時とは違い、周りに俺も先生も居ないから、発作的に出てしまったのかもしれない。


 エルクは今回の件で、自分の力を自覚しただろう。

 なら、その爆弾を起爆しないようにするのは、俺の役目だ。

 それで最も苦しむのは、エルクなのだから。


―――――――――


 エルクを連れてひとまずやって来たのは、先程の炭鉱。十虎団(だっけ?)のアジトであることはそれなりに知れ渡っているようなので、とりあえず人は来ないだろう。


 足を踏み入れ、しばらく進むと、そこには十一の死体があった。

 ジェイコブと十人の騎士たち。あまりの光景にエルクはその中の一人に駆け寄り、そして回復魔法をかけようとして……やめる。


「これ……全部……」

「ああ、死んでる。俺が殺した」


 エルクの足が止まる。俺はエルクに向き直った。


「俺とエルクを奴隷にして、ミルガイア家に売り払うつもりだったらしい。だから、殺した。エルクは俺が悪い奴だと思うか?」

「そんな、こと……」

「なんなら、先生を殺した騎士だって手にかけた。ミルガイア侯爵の両腕だって奪った。でも俺は、それを後悔なんてしていないよ」


 エルクは黙る。

 俺は続ける。


「唯一後悔してるとしたら、エルクを巻き込んだことだ。エルクを巻き込んだのは俺だ」

「違うよ、あれは……」

「だから、エルクがあいつらを殺したことが罪だとするなら、それはエルクの罪じゃない。俺の罪なんだよ」

「違う!」


 エルクは俺の手を取る。

 返り血がついたままの、俺の手を取る。


「違うよ、カイン。巻き込んだのは私なんだよ。だから、これは私の罪なの」

「違う。俺の罪だ」

「……じゃあきっと、二人の罪だよ。だから、自分だけで抱え込まないでよ。一緒に背負っていこう?」


 俺は答えなかった。代わりに、エルクの手を引いてさらに奥へと進む。

 エルクも、何も言わない。代わりに、俺の手を強く握った。


「……それで、エルク。この子なんだけど」


 炭鉱の奥。エルクの手を引いてきたそこに、未だ一人だけ生存者が居た。

 そう、奴隷の少女である。


「この子……奴隷?」

「今回の黒幕……そこに転がってるジェイコブ・ペランティって奴なんだけど、そいつが奴隷狩りをしてたみたいで。多分無理矢理奴隷にされたんだと思う」

「ひどい……」


 言ってしまえば、何の罪もない少女だ。守られるべき、被害者だ。

 しかし、野に放つわけにもいかない理由がある。


「ジェイコブが死んだから、今この子は野良奴隷なんだ」


 奴隷契約は、魔法のかかった首輪により掛けられる。その契約が解ける条件は2つ。所有者が死ぬか、定められた期間を満了するか。このどちらかが満たされれば、奴隷契約は解除され、自由の身となる。

 だが、所有者が死亡した時。一週間以内に誰かが所有者として名乗りを上げると、奴隷はそいつの物になる。その一週間の期間の奴隷を野良奴隷と言う訳だが。


 彼女を放っぽり出した場合、すぐに他の誰かに拾われてそいつの奴隷になるだけだ。それは流石に忍びない。


「……そうだね。それにこの子、獣人だしね……」


 そう、それも問題だ。

 そもそも彼女は人間語が話せないので、超能力を言いふらされる心配はない。一週間だけ保護してから解放してやっても問題はないのだ。


 ただ、獣人は被差別階級だ。

 おそらく彼女一人で生きていくことは難しい。ここから遠い獣人の集落に向かっても、たどり着く前に飢え死ぬか、あるいはまた奴隷狩りに遭うのがオチだろう。

 とはいえ、この厳しい旅に彼女を同行させるのも難しい。エルクや俺でさえギリギリの生活に、幼いこの子が耐えられるとは到底思えない。それに、俺たちにそんな余裕は無い。


「……要は、この子が居ることで私たちの旅が楽になる何かがあればいいんだよね」

「まあ、一応街にこの子だけ向かわせて買い物をさせる、とかは出来るが……」

「うーん……」


 まあ、悩んでも仕方ない。俺は直接彼女に尋ねることにした。


『お前、何か特技はあるか?』

『えっ?えっ?』

『そのまま考えたら俺に伝わるよ』


 そういえばテレパシーの具体的な説明はしていなかった。

 少女は少し考えて、答える。


『……うまにのれるよ』


「それだっ!」


 俺は思わず声に出してしまう。エルクと少女が驚いて体を跳ねさせた。


「その子、なんて?」

「馬に乗れるらしい!だったら馬車が使えるからあんな辛い生活しなくていいし、移動速度も上がる!この子に御者をやってもらって馬車に布をかければバレるリスクも少ない!」

「ほんと!?」


 俺は大興奮で少女にテレパシーで提案する。


『お前、俺たちの御者にならないか?』

『御者?』

『俺たちを馬車で送るんだ。生活の保証はするし、奴隷からも解放してやる。集落まで連れて行けるかは分からないけど……』


 俺の提案に、少女はふるふると首を振った。


『集落には帰らなくていい。パパとママ、奴隷狩りで死んだから』


『……そうか』

『でも、やる。連れて行ってほしい』

『本当か!?助かるよ!』


 俺はエルクに向き直る。


「やってくれるらしい!」

「本当!?そっか、それなら……」


 エルクは笑った。まさにWIN-WINの関係だ。


『そうだ、聞いてなかった。お前、名前は?』


『リヴィア』


 こうして、俺たちの旅に頼れる仲間、リヴィアが新たに加わった。

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