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十八話 人攫い

「エルク!」


 ベッドから跳び起き、窓へと駆け寄るが、男は既に走り去ってしまっていた。

 千里眼でしらみ潰しに捜索しようと思った瞬間、ぞわりと嫌な気配がして、身を躱す。瞬間、何かが窓に向かって飛んでいく。躱しきれなかったようで、頬に斬撃が掠め、血が垂れる。ナイフのようだが……毒の心配は無さそうだ。


「なんだ。起きてんじゃねえか」


 扉から堂々と入ってきたのは、山賊然とした男だった。革のジャケットにポケットの多いズボン、そしてその上から毛皮を被っている。

 男は俺を扉の前に立ち、値踏みするようににやにやと笑いながら俺を見ている。その余裕に無性に腹が立ち、俺は苛立ちを隠そうともせずに言う。


「どけ」

「バカ言うな。こっちはお前を捕まえなきゃ―――」


「どけ!」


 サイコキネシスを全開にして目の前の男を薙ぎ倒す。男は吹っ飛んで壁に強く打ち付けられた。気絶したか、絶命したか。

 どうでもいいな。

 俺は雑に覆面を被り、剣を腰に下げ、部屋を飛び出した。


 一階に降り、店主の胸ぐらを掴んで持ち上げる。


「奴らはどこに行った。知ってるだろ」

「か、勘弁してください。逆らったらこの店が―――」


「ここで死ぬか教えるか選べ!」


 恫喝するが、店主は答えない。時間が惜しい。俺はテレパシーで店主の頭を覗く。


「十虎団……昨日の盗賊のアジトか」

「なっ……」


 俺は店主から手を離した。店主は支えを失い、床に倒れ込む。


「敵と味方は選ぶんだな」


 俺はそう吐き捨て、扉から出た。


 扉を出ると、都合のいい事に人通りは無かった。元々人通りの少ない裏路地だ。こういうこともあるだろう。

 力が湧き出る感覚がある。今ならテレポートが使えるはずだ。俺はまず千里眼で大まかだったアジトの場所を正確に特定し、それからテレポートでそこへ直接飛んだ。


 アジトの目の前には、昨日の男が居た。


「なっ……てめえ、どこから……」

「邪魔だ」


 取り合っている暇はない。サイコキネシスで吹き飛ばし、炭鉱の奥に進む。エルクは……居ないな。早く来すぎて先回りしてしまったらしい。考えてみれば結構遠いので、テレポートを使わなければそれなりに時間がかかるだろう。


 虱潰しに探すのは上手くいけば早いが、リスクが高すぎる。この奥で待っていればすぐに来るはずだ。何より、いずれエルクが来るならこの場所の安全を確保しておく必要がある。


 そう判断して奥へ進む。すると、暗い炭鉱の中、朧気に椅子に座った人影が見えた。

 少しづつ近づき、その姿がはっきりと認識できるようになってくる。奥に居たのは、昼食を持ってきた店員だった。


「お前は……馬鹿な、早すぎる!」

「お前……そうか、お前か」


 馬鹿だった。テレパシーでこいつの頭も読んでおくべきだった。


 食事にはサイコメトリーをかけたはずだが、何も検出されなかった……おそらく食器の方に睡眠薬が盛られていたのだろう。

 それを持ってくるついでに俺たちを確認し、眠らせて攫おうとしたってところか。……くそ。警戒が足りなかった。


「何故俺たちを攫おうとする?奴隷狩りなら別の奴でいいだろ」

「ハッ、お前のその覆面の下に用があるんだよ」


 男はこの状況で、それでも不敵に俺を指さした。


「お前、カイン・パスファインドだろ?覆面被ったって、ガキの二人組ってだけでバレバレだよ」

「……素性が分かってるなら、仕方ないな」


 俺は覆面を外した。男は髪の色を見て少し訝しんだが、俺の顔が手配書の顔と一致することを確認すると、嬉しそうに手を叩く。


「ひゃはは!こりゃお手柄だ!お前を奴隷にしてミルガイア家に売り飛ばせば、僕の小遣いも増える!」


 いきなり出てきた忌まわしい名前に眉が釣り上がるのを自覚する。

……またミルガイアか。いつまで逆恨みし続けるつもりだ。


「お前、ミルガイア家と繋がりがあるのか」

「ん?ああ……自己紹介がまだだったな。僕の名前はジェイコブ・ペランティ。ペランティ伯爵家の三男さ」


 ペランティ。確かミルガイア家と懇意な中級貴族だったな。

 なるほど、俺とエルクを突き出せばペランティ家の株が上がる。そのきっかけを作り出せば家の中での株が上がるってことか。……くだらない。

 少なくとも、俺とエルクの価値には釣り合わない。俺とエルクを敵に回す危険とは、釣り合わない。


「そういえば昔エディ王子から聞いた覚えがあるな。奴隷狩りで儲けてる家だっけか」

「奴隷狩り?違うね、汚い獣人で牧場経営してるだけだ」


 男―――ジェイコブはいっそ誇るように言う。ミルガイア関連はどいつもこいつも悪人ばかりだ。


「まあそれはいい。それで?なんでお前はそんなに余裕なんだ?」

「強がるなよ。お前がE級だという情報は入っている。僕一人でも十分勝てる。が……美しい貴族である僕は兎一匹を狩るのにも容赦はしない。……来い」


 ジェイコブが気取った風に指を鳴らすと、炭鉱のさらに奥から甲冑を着た騎士たちが現れた。数は十名。よく訓練されているようで、一斉に剣を抜き、構える姿は敵ながら勇猛にすら見える。


「今日の僕は奴隷狩りをしていた帰りでねえ。護衛の騎士たちを連れているんだ……精鋭だぞ?最低でもB級。A級の騎士も交じったベテラン部隊だ。彼」


 ジェイコブの言葉が轟音によって遮られる。

 十人の騎士部隊は、俺の全力のサイコキネシスを叩きつけられ、吹き飛んだ。


 どんな力を持っていても、どんなベテランでも。

 知らない力で不意討ちされれば、防げるやつはなかなか居ない。


 驚愕するジェイコブが椅子から崩れ落ちる。俺はそれを見下ろす。ジェイコブは震えながら俺を見る。何が起きているのかすら、わからないようだ。


「もう終わりか?」

「ば……馬鹿な。E級が、何故こんな力を……」


「俺の素性を知ってる。俺の力を見た。ミルガイア家との繋がりがある。奴隷狩りのクズ野郎。そして……エルクに手を出した」


 俺は、指を折って一つずつ数えた。

 目の前の男を、殺す理由を。


「従ってる騎士どもも同罪だ。お前ら、生きて帰れると思うなよ」


「……なんだ、今の攻撃は……」

「デイヴ!」


 ジェイコブを殺そうとしていると、叩きつけられた騎士の中から声が聞こえた。

 見ると、壁に叩きつけられたはずだが、まるで少し転んだかのように平気で立ち上がる男が居た。


「生きているのか。骨がある奴も居るな」

「お前がやったのか……ジェイコブ様、お下がりください」

「デイヴ……頼むぞ!」

「はい、お任せを。……おい小僧」


 デイヴと呼ばれた騎士が歩いて俺の前に立ち、剣を抜く。ジェイコブはその間に炭鉱の奥へ逃げ込んだ。

 デイヴとやらは仲間をやられ、怒っているようだ。気持ちはわからなくもないが、エルクを攫った奴らだと思うと、どうしても冷ややかな目を向けてしまう。


「仲間達を倒された恨み、ジェイコブ様への不敬、そしてミルガイア卿の両腕を奪った罪……このデイヴィッドが後悔させてやるぞ」


「……ちょうどいい。エルクが来るまでの暇つぶしに遊んでやるよ」


 そう嘯きながらも、俺の頭はフル回転していた。

 不意討ちのサイコキネシスを食らってピンピンしている耐久力。兜で髪は見えないが、十中八九土属性だろう。先程ジェイコブが言っていたベテランというのもおそらくこいつを指している。A級だというなら他の属性も使えるかもしれない。


 A級で高耐久のベテラン騎士。強敵だ。今の俺に勝てるか……?


「行くぞ!」


 ご丁寧に宣言してから斬り掛かるデイヴ。騎士道とかいうやつか。

 しかしやはり腕は確かなようだ。その剣戟は速く、真正面から剣で受ける羽目になった。


 重い……!


 押し合いの末、力負けし少しだけ俺の身体が下がる。

 サイコキネシスで補助して何とか防いだものの、単純な膂力で勝ち目はなさそうだ。

 しかしそれは剣へのダメージも意味する。向こうの剣が僅かに刃こぼれした。デイヴは一度剣を引き、欠けた刃をしげしげと見つめた。


「ほう、子どもの癖に良い剣を持っているな」

「先生からのプレゼントでね。特別製なんだ」


 向こうが剣を引いた隙にサイコキネシスによる擬似身体強化で懐に潜り込む。身体が小さい分小回りはこっちの方が上だ。


 そして剣を振りかぶり、渾身の一撃を……


「『スワンプ』!」


「なっ……」


 踏み込んだ瞬間、沼に足を取られ、滑る。見ると、ジェイコブが小さな杖を構えていた。

 サイコキネシスで強引に体を戻し、なんとか転ぶことは回避した。

 後ろに引いて体勢を立て直し、再度デイヴと向かい合う。


「ナイスです、ジェイコブ様」

「サポートは任せておけ!」


 ジェイコブの魔法。水属性の初級魔法、『スワンプ』。指定した地面を沼に変える魔法だ。単体で強い魔法ではないが、サポートに使うと厄介。


 シンプルに強いデイヴと、嫌がらせをするジェイコブ。面倒な組み合わせだ。本来ならあと九人も騎士の相手をしなきゃならなかったと思うと、最初の不意討ちは英断だったようだ。

 思考を読んで対処したいが、テレパシーの対象は一人……どっちを読む?


「何を迷っている!」


 考えている隙にデイヴが剣を振りかぶった。相変わらず大振りだな!

 嫌がらせのタイミングを特定したいところだが、やはりメインで対処すべきはこっちだ。俺はデイヴの思考を読むことにする。


『足払い』


 脚狙いかよ!?大振りの剣術に反して狙いはクレバーだ。

 だが、分かっていれば対処は可能だ。俺はパイロキネシスでデイヴの剣に熱を集めた。


「あつっ……」


 瞬間的に焼けた鉄板のようになる剣。いくら手甲をしていようが、持ってはいられないだろう。まして、振り抜くことなど。

 剣を離せば丸腰。そうなれば圧倒的に有利になる。そう思っての行動だったが……


「うおっ!?」


 デイヴは関係なく、予定通りに脚を薙ぎ払ってきた。慌ててジャンプで避ける。なんて根性だよ!?


「空中で逃げ場はなかろう!」

「それはっ……どうかな!?」


 足払いの勢いのまま一回転し、跳んだ俺に再度斬撃を放つデイヴ。それを読んで俺はサイコキネシスで自分を持ち上げ、さらに上空へと逃げた。


「な……」


 ありえない動きに絶句するデイヴ。思わず身体が硬直したようだ。だが重そうな剣に付いた慣性はその一瞬の間も振り抜いた勢いを維持し続けようとする。

 身体が引っ張られ、一瞬だったはずのデイヴの隙は結果的に何倍にも膨れ上がった。

 チャンス!


「喰らえ!」


 剣を下に突き出し、デイヴの真上から落下の勢いを使って刺突。これなら膂力の差もカバー出来るはずだ……!

 だが、デイヴのガードはぎりぎりで間に合った。


「ぐっ……」


 デイヴは剣を持たない左腕をかざした。

 十分な勢いのもと真っ直ぐに突き出された名剣は、纏った手甲ごとデイヴの腕を貫いたが、しかしそれでそのエネルギーのほとんどを殺され、兜にこつんと弾かれ、停止した。

 デイヴは驚異的な執念で腕に刺さった剣ごと俺を地面に叩き付けようとする。が、俺は剣を離し、空中で体勢を立て直して着地した。


「……ふん。ヴェルク・ヘーパイストスの作か。確かに名剣……いや、魔剣だな」


 デイヴは左腕から剣を引き抜き、一瞥してからそれを後ろに放り投げた。

 ガラン、と重い金属の音が炭鉱に響き渡る。


「だが、どんな名剣も手に握らねば使えない。剣から手を離してはならないというのは、騎士が一番始めに習うことだ。……素質は認めるが、経験の差が出たな。小僧」

「ゼェ……さてな。何か、狙いがあっての、事かも……ハァ、しれないぜ?」


「子どもゆえ体力にも乏しいか……安心しろ、殺しはせん。奴隷にしてミルガイア卿に引き渡すだけだ……もっとも、その後どうなるかは知らんがな」


 大剣が振りかぶられる。よく言うよ、子ども相手にそんな大層なもん振り回しといて。

 俺はテレパシーで行動を読む。


『脳天に柄で一撃』


 剣が振り下ろされた。

 俺はサイコキネシスで強引に体を動かし、一撃を躱して再度懐に入り込む。頭上からデイヴの舌打ちが聞こえた。


「往生際の悪い……!だが、剣もないのに何が出来る!」


 デイヴの言う通りだ。俺の攻撃は届く。けれど、全力のサイコキネシスで死なない相手に、俺の拳じゃ到底ダメージなんて与えられない。

 こうして腕を振りかぶったって、無駄でしかない。


 だから、()()()()


「来いっ!」


 デイヴの背後に投げられた、俺の剣。

 それを俺は、()()()()()()()()()()

 瞬時に手の中に剣が握られる。あとは、それを力のままに振り切るだけだ。


「『スワンプ』!」

「それも、()()()()


 足元の土が沼に変えられる。が、俺はそれを()()()()()()()()()()()。十分な強度を取り戻した土は、俺の体重を十分に支えてくれる。

 いきなり俺の手の中に現れた剣にデイヴは驚愕した。今までの経験上ありえない一撃に備え、デイヴの身体が自然と丸まる。けれど、それは俺の剣の勢いをむしろ強めるだけに過ぎなかった。


「馬鹿な、そんな魔法、あるわけが―――」


「最後に経験の差が出たな、デイヴィッド!」


 剣が胴体を薙ぎ払う。

 振り切った頃、デイヴの身体は両断されていた。

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