【4-9-5】
シエル殿が落ち着いた後に『また後で』と言葉を交わしながらに別れた。思ったよりもギリギリになってしまうかもしれない。私はラフェシア城への帰路は可能な限り足早に戻る事にした。
「あ!! レオ将軍!!」
自室に戻りまず耳に入ったのは副官であるアンジュの声だった。彼女の他にも何人か給仕達がいて準備を進めていた。明らかに私を待っていたのであろう状況に、私もまず謝罪からだった。
「アンジュ、みなすまない。少しだけ外すつもりだったんだが――「――もうそんなのいいですから!! 早く準備しないと本当に間に合わなくなりますよ!!」
『すみません。急いで下さい!』と彼女はみなに声を掛ける。『本当にもう……。私だってまだ準備も終わっていないのに……』などとぶつぶつと溢し共に装いを正す。別に私は必要ないと言ったのだがそれは即座に却下された。
慣れないドレスに身を包む。周りは『お綺麗ですよ』なんて声を掛けてくれる。立場柄社交場に出たことも勿論あるが何度見ても着慣れないものだ。
「――ほら準備が終わったら出ますよ!! 皆さんもうお待ちなんですから」
ただ今はそんな事を言っている場合でない事は理解している。私はドレスの裾を引きながら応接の間へと足を向ける。
広間の扉の前に立つ。確かにアンジュが言う通りに皆がすでに集まっているようだった。
「待たせてすまない。では始めようか」
私の合図で待ち構えていた兵士たちは扉を開く。
――今は、この国のこれからへ意識を向けよう。
「――レオ=ガレリオ。前へ」
見知った顔が並んでいる。レナード殿やギルバート達。父であるガレリオ王や先ほど会っていたシエル殿も含むラフェシア傘下の国の代表達。
更にはリーリア殿に、フレイやガリオン、ララノア、ジルベルトといった亜族の顔役達もいる。私はラーデン殿の声に従い前へと進む。
「よろしい。先の争いにおいては、人族、亜族共に血を流す事になった。今我々は大いなる犠牲の上に立っている」
まるであの時のようだ。私は戦場で亜族を助けたことで罪に問われ結果牢屋に幽閉された。
「この犠牲から禍根は生まれ、先々の災禍となろう」
皆が彼の言葉に集中している。目を閉じただ話を聞くもの、涙を流しながらに押し黙っているもの、それぞれが何を考えているかまでは分からない。
「しかしそれはあってはならない。過去から学び、より良い良い世界へと導くことこそが、生き残った我々の使命なのだから」
その通りだ。私達はこれから先この世界を作っていく。過去を踏み越え輝かしい未来を求めて。
「レオよ。どのような世界を望む?」
「――人族、亜族が共に笑い合える世界を」
「よろしい。では、リーリア=フィサリスよ。前に」
彼女は言葉に従い、列を抜けて私の隣へと立つ。
「リーリアよ。其方は、これから先の世界のために、これから生まれる子らのために、何を思う? 何を求める?」
リーリア殿は少しの間沈黙し、そして問いに答える。
「――種族を問わない未来永劫の平和を」
「よろしい」
壇上のラーデン殿は周囲を見回す。その後に頷き、最後の言葉を発する。
「――ラフェシアとマグノリアの意見は合致した。これより、双方の国は同じ腹方となる。レオ、リーリアよ。其方らの合意を持ってこの国が一つになった証左とする」
その言葉と同時に私達は双方へと向き直る。
「――誓いを」
まず私が跪きリーリア殿の手へ口付けをする。そして次にリーリア殿が跪き、同じく私の手へ同様の事をする。これはこの世界伝統の儀式であり、これをもって合意の証明となる。
「――これによって、人族のラフェシア、亜族のマグノリアは一つとなった。この誓いが未来永劫、続くことをここに祈る」
彼の言葉とともに、室内に歓声が上がる。指笛や拍手がまるで雨霰のように辺りを包みこむ。私はリーリア殿をチラリと見る。彼女もまたこちらを見ていたようで目が合う。何とも言えない気持ちにただ笑みを溢す。
こうなる事をいつから夢見ていただろうか? 人族と亜族の違いは何なのか? なぜ共に生きられないのか? 疑問に思いつつもただそれを共に考えるものはいなかった。……いや、そうではない。自分でもそうしようとはしなかったのだ。出来るはずないと。毛頭無理だと。初めから諦めていた。
「……本当に実現出来たのだな」
「ええ。貴方のおかげよ?」
誰にも聞き取れないほどのか細い声だったはずなのに、リーリア殿には届いていたようだ。ただそれは違う。
「……私は何もしていない。アイツのおかげだよ」
「……そうかもしれないわね」
この世界における常識を挙げるとすれば、その一つには太古の神々の存在がいえるだろう。彼女達に挑もうなどと普通であれば考えることすらしない。
しかしアイツは自分を貫き通し、そして目的を成し遂げた。その姿があったからこそ、私もまた未だかつて成し得なかった亜族と人族の融和を図ったのだ。
ただまだ仕事は残っている。騒ぎが落ち着いた頃に、また彼が口を開く。
「レオ=ガレリオよ。村、里、街、国、種族、すべての集まりには代表が必要だ。貴殿はこの国の代表たる資格がある。この国のため、その身を扮する事を誓うか?」
「ええ。この身ある限り、全てはこの国のために」
「よろしい。これにて貴殿はこの国の王だ。貴殿の働きに皆が期待する。皆に向け、その思いを伝えるがよい」
私は後ろへと振り返り、各国の代表達の顔を見る。
「大それた事は言わない。王となったとしても何も変わりはしない。求めるのは言った通り皆の笑顔、それだけだ。我々は一つになった。長らく続いた争いは、即座に忘れられるものではないと知っている。だが、それでもこれからは皆が仲間と思って欲しい。我々は、元はみな同じアヌ神から生まれた家族なのだから」
先ほどまでの喧騒が嘘のように皆が私の声に聞き入っている。
「これから先、私がこの国の王となる。そしてそのためにこの国は変わらなければならない。亜族のマグノリアと、人族のラフェシアが一つになるのだ」
私はフゥと息を吸う。
「――したがって、ここに新たにマグシアの建国を宣言する」
私の声に再度歓声が爆発のように響く。皆が喜びの表情を浮かべている。
誰もが自分と同じ想いを持っているなど、そんな絵空事は私も思ってはいない。
ただそれでも、これから先はそうであると。共に、より良い未来を作っていけるのだと信じたかった。
そしてもう一つ、皆に伝えておく必要がある。
「……ここに至るまでに多くの方々が犠牲となった。その中には太古の神々、ミーム様、ククル様もおられる。これから先、互いの敵は自らの敵と思ってほしい。――特に、彼女らを討ったスーニャなるものは、この国の仇。我がマグシアの怨敵とする」
本当にこれでよかったのか。疑問は最後まで消えなかった。ただ、確かにこれしか手段はなかった。
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