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異世界転生したら、世界の敵になりました。  作者: 篠原 凛翔
【第4部】黄昏時

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【4-9-4】

『俺はこれで』とレナード殿が去っていく。


「ごめんなさい。お話ししていたのでしょう?」

「構いませんよ。ちょうど一区切りついたところでしたので」


それでも申し訳なさそうにしている姿は、あの人とは似ても似つかない。シエル殿は目の前の墓碑を見つめる。そこには彼女の娘の名前も刻まれていた。


「――ガブリエット」


 私がシエル殿を呼び立てたのは、ガブリエット殿が亡くなった理由の一端が私にあるからだ。


「申し訳ありません」


 彼女に頭を下げる。ただシエル殿は不思議そうにしていた。


「……何故貴方が謝るの?」

「ガブリエット殿が亡くなったのは私の責任でもあるのです。ですからそれを謝りたかった」 


 許されるものではないことは分かっている。どんな非難も受け入れよう。ただ彼女の反応は想像していたものとは違った。


「よく分からないけど、ふふっ。あの子のことで謝られるのは二回目ね」

「……二回目とは?」

「貴方の前にある人が謝りに来たの。その人はこう言っていたわ。……自分がガブリエットを殺したと」


 いやまさか。しかし、ガブリエット殿を殺したとと言うなんて、思いつくのは一人しかいなかった。


「その人はこうも言っていたわ。だから、貴方は自分の事を殺してもいい。その権利があると」


 その話を言いながらにシエル殿は笑い始めた。私は彼女の様子にただ戸惑ってしまう。


「ごめんなさい。でも、そんな事突然言われても困ってしまうだけだったわ。それに理由を聞いても頑なに答えようとしない。でね自分でも驚くのだけれども、私頭に血が登ってしまって、その人の頬を叩いちゃったの」


 シエル殿はとても手を上げるような印象ではない。驚く私の反応に、彼女は満足そうな恥ずかしそうな表情を浮かべていた。


「だって自分の娘が亡くなった事でただでさえ混乱していて、……それにその人だって親や友達がいるはずでしょう? 簡単にそんな事言わないで! って」


 確かに殺されたもの殺したもの、双方に家族や仲間達はいる。しかし果たして殺された側がこのように反応が出来るだろうか。


 私はカイリに諭されたからスーニャの事を恨む事をやめた。だが手塩に掛けた娘が殺されて、同じ気持ちになれるものがどれほどいるか。


「……その人はどう反応してたんですか?」

「目を丸くしてたわ。それに、ごめんなさいって」


 その回答に私も笑ってしまう。確かにそれはその人にとっては何よりも痛い、身に染みる説教だろう。


 私の様子を見て彼女は不思議そうな顔をしていたが、慌てて取り繕う。シエル殿もそれ以上追求してくることはなく、ただ墓碑を見つめていた。


「……ガブリエットは、いつかこうなるんじゃないかとも思っていたの」


 シエル殿がポツリと溢す。


「それは、いつか亡くなってしまうと?」

「だってあの子、いつからか私の知らない部分の方が多くなってきてしまって……。フラッといなくなってはすぐに帰ってきてはいたけれど、いつかいなくなってしまうんじゃないかって思ってた」


『こんなこと親としては情けないのだけどね』と彼女は自嘲する。


「それは私達にも一緒でしたよ。どこか踏み込ませない部分がありました。特にご自身のことに関してですが」


 事実彼女から自分の話を聞いたことはほとんどない。ごく僅かに戦いの前に話したが、それくらいだ。


「……なんであの子は最後にあんな書き置きをしたんでしょうね」

「それはシェスカの王指名の事ですか?」

「勿論。なんで、あの子は私を選んだのでしょうね」


 ガブリエット殿が亡くなったことが知れ渡った後、問題になったのは次のシェスカの王を誰にするかだ。かつてはガブリエット殿がその席についていた。とはいっても名前だけ貸していたに過ぎず、実態はその国の有力な貴族であったりが政治を回していたのだとか。


 そんな中ガブリエット殿の自室から、唯一遺言状らしきものが見つかった。そこに書いてあったのがシエル殿を次の王とする、との一文だ。他には何も書いておらずただそれだけというのはガブリエット殿らしくもあった。


「ガブリエット殿の意図は私などでは推し量ることは出来ません。ただ貴方のような人が王ならば、きっとシェスカは良い国になるとそう思ってます」

「そんな……」

「本心です。それに私も協力は惜しみませんよ」

「……ありがとう、ございます」 


 頭を下げられるが、そんなこととんでもない。私が頭を下げられるいわれなどない。これからの私の役割は不幸や不平をなくす事、平和な世界を築いていく事なのだから。


「ではそろそろ戻りましょうか」

「ええそうしましょうか。――あ、やだ」 


 シエル殿は最後にまた墓碑を眺めて、そして慌てて目元を拭う。


「……ごめんなさい。こんなつもりではなかったんだけど」 


 それは収まらないようで、何度も手拭いを当てていた。


「……ああごめんなさい。あの子に怒られちゃうわね。すぐに止まるから、もう少しだけ」

「……いいんですよ。いつまでも待ってますから」


 気丈に振る舞ってはいるが彼女の環境はこの少しの間に大きく変わった。ショックがなかったはずがない。辛くないはずがない。


 私は、彼女のその背中の震えが収まるのをただ何も言わずに見守っていた。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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(……でないと、力尽きるかもしれません)


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