【4-7-4】
「キャハハハハハハハハハハッ」
ククルは周りの様子など意にも介さずにミームへ攻撃を続けている。そのたびにこちらまで衝撃がくるのだから、たまったものではない。
「そろそろこちらからもいいかしら?」
今まで攻撃を受けていただけだったミームが、今度はククルへとその剣を振るう。
「あら?」
――ッ!? 私は慌てて頭を下げる。斬撃が自分の髪の毛を掠め、後ろにある壁に痕が作られる。
ミームはただ横に剣を振っただけなのに、その魔素は部屋の隅まで届くのか。
「なるほど。コントロールが難しいわね」
慣れない様子のままにその剣を上下左右に振っている。ただそれは部屋の至るところに刃先が向くことを意味する。私は自分に当たらぬよう身を躱わす事で精一杯だった。
「まあやりながらに慣れるでしょう。さ、ククル続けましょう?」
待ってましたとばかりにククルは攻撃を再開する。彼女の斧が床を叩き風穴を開ける。部屋の中に炎が延焼していく。
そしてミームが自分の剣を振りかぶる。
「こうかしら?」
その剣がククルへと振り下ろされる。
ククルは避けるでもなく、受け止めるでもなく、ただその剣を眺め、そしてその身に受けた。
「ククルッ!?」
私は思わず声をあげてしまう。なぜ受けたのか。避けられたはずだ。ククルはペタリと床に尻餅を付く。ミームの剣は彼女の身体を縦に切り裂いた。血がポタポタと流れている。
ククルは傷口をなぞり、手に付着した自分の血を不思議そうに眺めていた。
「いつ以来だろ?」
ククルがポツリと呟く。
「――私が怪我をするのって」
この世界において彼女達太古の神々はその存在自体が超越無比だ。傷を負う事、ましてや出血などそれこそ稀だろう。
「……ククル、私たちの体はアヌお母様から預けられた大切なものなの。それをそんな風に扱っては駄目よ?」
ミームがククルに近づきその傷口に触れようとする。この光景だけを見ればそれはお転婆な妹を嗜める姉のそれだ。
――だが彼女達は違う。彼女達を普通の人と同列になど出来やしない。
突如ミームの身体を炎が貫く。それは斧の形はしていないものの先ほどまでククルが扱っていた炎だ。今それは炎柱となりミームの腹を貫いていた。
「ッッ!!」
ミームが堪らず苦悶の表情を浮かべる。私にとっては初めて見る表情。いや、もしかしたらこの世界の誰も見たことがない姿なのではないだろうか。
自分の手を眺めていたククルもまた顔を上げる。彼女は自分の手に付いた血を自らの顔に塗りたくり笑っていた。
その表情は今まで見た事がないほどに嬉しそうなもので、そしてそれが彼女の異常性を一層表現していた。
「ねえねえねえミーム!! 痛いね! 痛いって熱いんだね! 苦しいんだね! 初めて知ったよ! ね! もっともっともっと知りたいな! もっともっともっともっと味合わせてよ!」
ミームに突き刺さっていた炎が勢いを増す。ミームは苦痛の声を上げる。
「……いい加減にしなさい」
ミームはククルへと手を向けて彼女の体を吹き飛ばす。
「ゴホッ。ちょっと油断したわね」
彼女が油断するのも致し方ないだろう。そもそもが彼女達は、自分を確かに傷つける事が出来る相手と争った機会が皆無なのだ。まさか自分の身を貫かれるなど夢にも思わないはずだ。
「……ああでも、少し貴方の気持ちも理解できたわ」
そしてミームもまた笑みを浮かべる。
「――殺し合いましょうか」
ミームがククルへ追い打ちをかける。ククルはそれを防御もせずにその身に受ける。
「あはははははッ!! 痛い痛い痛い!!!」
そして今度はククルがミームへ炎の斧を振り下ろす。
「ふふっ。はは。アハハハ。痛い。痛いわ」
双方が一撃必殺と言っていいほどの攻撃を相手に与え続けている。太古の神々でなければ、とても耐えられない攻撃。仮に他の種族が喰らえば一撃で絶命することは間違いない。それはたとえ私であったもしても。
「「アハハハハハハハハハッッ!!!!」」
二人の笑い声が響く。双方が全力の攻撃をぶつけ合う。自らの身体が傷つく事なんてお構いなしだ。彼女達にとって自分の全力を出せる初めての経験なのだ。今の喜び争う姿は、どこか子供同士のじゃれあいのようにも見えた。
「ほらァもっともっとモットモッとモット!!!!」
「ふふっ。ククル。いいわよ。続けましょう?」
彼女達の攻撃が衝突する度、部屋の亀裂が加速していく。
「私こんなに楽しいの初めて!!! もっと早くこうすればよかった!! ね!! ミーム、貴方を殺してみたい!!」
「……奇遇ね。私も貴方を殺してしまいたいわ。ククル」
双方の渾身の攻撃がぶつかり合う。衝撃により広がった亀裂はやがて臨界点に達し、塔の崩落が始まった。
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