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異世界転生したら、世界の敵になりました。  作者: 篠原 凛翔
【第4部】黄昏時

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【4-7-3】

「……ククル? どういう――」


 ミームが言葉を終える前に、ドガンと音が鳴り、彼女は部屋の隅の壁に身体をぶつけた。見るとククルが手を前に突き出していた。


「はぁ〜……。やっとだよ。待ちくたびれちゃうところだった」


 ククルは満面の笑みを浮かべている。その瞳が狂気を映してさえいなければ、花もかくやという美少女なのだが。


「ククル。ありがとね」

「いーよ! 私はなんたってスーニャのお姉ちゃんだから」


 ふんすと胸を張っている姿に思わず苦笑いしてしまう。


 前回ククルに会った時私は彼女にお願いをした。それは、彼女の実の姉を殺すため、その力を貸して欲しいということだ。普通であれば断られて然るべきであるが、彼女は二言も無く力を貸してくれると言ってくれた。


 私の力はまだミームには遠く及ばない。それは戦う前から分かっていた。ならば、どうするか。

 

 ――太古の神々を倒すには、太古の神々をぶつけるしかない。最強には最強を。これが私の結論だった。

 

「あーずっと我慢してたからもう限界。やっと遊べる。ねミームいっぱいいっぱい遊ぼ? 貴方とならいくらでも遊べるものね。なんで今まで気づかなかったんだろう? きっとスッゴイ楽しいよ。早く早く早くハヤクはやく早ク早く」


 ククルはすっかり臨戦体制に入っている。その禍々しさゆえか彼女の周囲は歪んでさえ見えた。


「ほらミーム早く起き――」


 今度はククルの身体が吹き飛ぶ。


「ククルッ!?」


 私は慌ててその姿を追う。今度はククルが壁にぶつけられる。


「……どういうつもりかしら?」


 声が部屋の中に響く。声の主は当然ミームで、身体についた埃を叩きながらに起き上がっていた。


「私達が争う事が許されると思っているの?」


 私と話していた時とは違う、本気の声色だ。


「……それとも、それすら分からない程に気が触れていたのかしら?」


 声に魔素が乗っているのでないかと思うほどに強い圧力を感じる。これだけで死んでしまうものすらいるのではないだろうか。


 ククルはピクリとも動かず俯いているために表情も伺えない。反応を返さないククルにミームは明らかに苛立っている様子だった。


「ねぇククル、聞いているのかしら? 何とか言ったらどうなの?」


 それでもなお反応しないククルに私も少し心配になってしまう。『ククル?』と名前を呼ぶと彼女はようやく顔を上げた。


 その表情にギョッとしてしまう。目は真紅に染まり耳まで届きそうに開いた口元の笑みは、彼女の迫力を一層強めていた。


「……それで?」


 ミームはククルへ促しているのだろう。ただククルが返したのはいつも通りの提言だった。


「――ミーム、遊ぼ?」

 

 ――ここから私は正真正銘、この世界における最強同士の争いを目の当たりにする。


 まず動いたのはククルだった。彼女はとんでもない速さでミームへと近づく。そしてその目の前で止まる。


「話しても無駄そうね」

「早くハヤクハやくハやく早く。――殺し合おう?」

「……仕方のない子ね」


 目と目が触れ合うほどの距離で彼女達は対峙している。そしてミームがククルを蹴り上げる。ククルはその衝撃から宙を舞う。


「貴方には神としての自覚が足りない。導き手としての覚悟が足りない。……少し折檻が必要なようね」


 ミームが何をするでもないのに、ククルの身体が右へ左へと動く。いや動くというよりも何かをぶつけられているのだ。そしてそれはミームの魔素による攻撃に他ならなかった。やがて攻撃は止み、ククルは床へと落ちる。


「さて、どうしたものかしらね?」


 ふむと考え込むような姿勢をとっている。太古の神々同士で争うことなど初めてなのだろう。

 

 しかし、ククルはこともなげに立ち上がる。その様子からはダメージを受けているとは感じ取れなかった。そして今度は彼女は手を上へと掲げる。


「何のつもり?」


 怪訝そうにミームが言葉を発する。


「……私も試してみたんだ。スーニャ達の真似が出来ないかって」


 そして、ククルの手から炎が湧き起こる。


「でもやっぱり、アンジェルやスーニャの方が綺麗だけどね」


 湧き上がるだけだった炎は、やがて斧のような形に収束していく。


「これ、最近のお気に入り。ミームなら死なないでしょ?」


 そしてククルはミームへその刃を振り下ろす。その熱によって壁や床が融解する。私は生じた熱風から目を手で覆いながらに状況を見つめていた。


「ほらほらほら、いっぱい遊ぼ?」


 ククルは何度も何度もミームへと斧を振るう。普通であれば一撃でもひとたまりもないであろう攻撃を、何回も何十回もだ。


 ただ、突如炎が霧散する。


「……熱いわね。些か熱すぎるから、消してくれる?」


 炎の中からミームが現れる。服や髪の毛の一部が焦げ付いている。そして明らかに不快な表情を浮かべていた。


「全く。折角のお気に入りの服が――「――キャハハハハッ!!!」


 笑い声と共にククルがミームへ再度斧を振るう。それをミームは手を向け止めている。


「話を聞かない子ね。――こうかしら?」


 今度はミームの手からパキパキと音を立てて氷の剣が形成されていく。


「こう魔素を使うのは初めてね。効率的とは言えないけど。今の状況には都合がいいかしら」


 急拵えの剣を振るうと床が瞬時に凍りついていく。傍目からみても、その剣にはとんでもないほどの魔素が込められている事が分かった。


「じゃあ続けましょう?」


 待っていたとばかりにククルが炎の斧を振りかぶり、それはミームへ向け振り下ろされる。ミームはその攻撃を先ほどの剣で受け止める。高濃度の魔素同士のぶつかり合い。まるで爆発したのではないかという破裂音が辺りに響く。衝撃が私の肌を突きさし、痛いとすら思う。 


 彼女達の足元の床がその圧力に耐えきれずピシピシと亀裂が走る。それを彼女達は意にも介していない。再度ククルは斧を振りかぶる。私はまた届くであろう衝撃に備える。


 予想した通りに二度目の衝撃が私を襲う。二人は私の事など気にもせず、ただ遊んでいるように見えた。とても、とても楽しそうに。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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(……でないと、力尽きるかもしれません)


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