【4-7-2】
椅子を降りこちらへと近づいてくる。彼女はただ愉快そうにしているだけで、それがまた私を苛々とさせる。
「貴方は本当に面白い。本気で言っているのね」
目の前に来て私を見つめている。
「……冗談だと思った?」
「ふふっ。いえ失礼。それなら私もちゃんと相手をしてあげないといけないわね」
くるりと周り少し私との距離を取る。そして両手を広げた。
「……さて、どこからでもどうぞ?」
さも自分を倒すことなど出来ないと言いたげな、その余裕そうな態度に腹が立つ。
「……スーニャ?」
近くにいたククルが私の服の端を引いてくる。
「ククル。ちょっとだけ待っててくれるかな?」
私の言葉にコクリと頷く。最初会った時とは雲泥の差だ。あの時は随分と不安定な様子だったが、今は空気も読める見た目相応の少女といった様子だった。
私はミームへと改めて向き直り、手から炎を出す。
「ああ、それが不死鳥の炎かしら?」
「……聞いてたの?」
「ええ。ククルからね」
「……えーと?」
私がその言葉でククルを見る。そうするとククルは輝いた目でこちらを見てきた。
「スーニャのこといっぱい話しておいたの! スーニャは凄いって! それにスーニャが来るはずだからって、私もここまで着いてきたの!
」
前言撤回だ。まだ情報の機微までは読み取れないようだ。褒めて褒めて、といった様子で見てくる彼女に苦笑する。
「……まあいっか。どうせバレたところで何か変わるわけでもないし」
ククルが褒めてくれないの? という顔をしていたので『これから戦うんだから、話しちゃダメな事もあるでしょー?』と言うと、ハッと口を覆い気まずそうな表情に変わる。
「いーよ。じゃあ仕切り直そうか」
「ええ。どうぞ? 不死鳥の炎を浴びるのは初めてね」
「……精々ご期待に沿えるようにしますよ」
私はミームへと炎を放つ。彼女の身体が炎に包まれる。ククルは横で『うわー! 綺麗ー!』なんて言っていた。
「……ああ、熱いわ。とっても」
ミームの声が炎の中から聞こえる。
「でも些か足りないかもしれないわね」
炎が一瞬で霧散する。その中心には当然ながらミームが立っていて、とても攻撃を受けたとは思えない様子だった。
私は今度は剣を抜き、彼女へと切り掛かる。
「随分珍しい剣を扱うのね?」
彼女はヒラヒラと攻撃を躱わす。ふいに剣ごと掴み止められる。
「ちょっと見せてくれない?」
当然抵抗するが、いくら力を込めてもびくともしない。むしろ彼女が力を込めた事で私は振り払われ、剣を奪われてしまう。
「ふむ? 何かの骨を加工したものかしら?」
そういえばククルにもアンジェルの骨を加工したものであるとは伝えてなかった。
「美しい剣ね。誰が作ったのかしら?」
「……さてね」
ミームは手で剣を弄びながらに聞いてくるが、まさかリムさんに作って貰ったとは言えまい。
「あらつれないわね。まあでもいいわ。続けましょう?」
『これも返すわ』とヒョイッと剣を投げて返してくる。
「……敵にそんな簡単に武器を返していいわけ?」
「……敵?」
キョトンとした表情を浮かべる。そしてしばらくした後に合点がいったように頷いた。
「失礼。確かにそうよね。貴方は私の敵だわ」
その態度に私は自分の頭に血が昇るのを感じた。コイツはここに来て、まだ私の事を敵とすら認識していなかったと。
「……じゃあ続けようか」
「ええ。どこからでもどうぞ?」
私はミームへ手を向ける。そして魔素を彼女へと放つ。
「キャッ。ああ、魔素をぶつけられるとこうなるのね?」
まるで風が吹いた程度の様子だが、普通の人なら吹き飛ぶくらいの強さで魔素を飛ばしたはずだ。それが彼女にはこの程度の影響しかないのか。
それでも一時的に体を止めることには役立つはずと、魔素でミームの身体に圧力をかける。
「ああ、こんな使い方もあるのね」
彼女に効果がどの程度あるのかは分からない。ただ私にはこの隙を狙う他なかった。
魔素で体を強化し再度剣を振るう。しかしその身体はまるで鋼鉄で出来ているのかと思うほどに硬く、その皮を裂くことすらできない。
「いい組み合わせね。私の身体に触れたものなんていつ以来かしら?」
……白々しい。彼女は動き避けられたはずだ。それくらいの余裕はあった。あえて攻撃を受けたのだ。
「さて、次は何を見せてくれるのかしら?」
彼女は変わらず笑みを浮かべていた。私の手札が減りつうある事に気付いているのだろう。その言い方に愉悦が込められている。
この場で魔法を放っても良いのだが、建物ごと崩れてしまう。そうなると戦いどころではない。ではと、再度身体に魔素を強く込める。
身体中の力を集中させ、一撃にかける。掛け値なしの全力。この攻撃は先ほどガブリエットへ攻撃したものと同一だ。
「あら凄い量の魔素ね?」
相変わらず余裕そうにしている。ただ逆をいえば、今であれば攻撃は避けられる事なく喰らわせられるに違いない。
私はその場を蹴りミームへと迫る。剣先は真っ直ぐと彼女の首元へと向けている。彼女は予想通りに、動く様子はなかった。
ミームの首元へ剣が突き刺さる。が、先ほどと同様に切先がその身体を貫く事はない。
ただ、少なくとも効果はあったようだ。
「……驚いたわ。血を流すなんて」
ミームの首元には確かに血が流れていた。
「貴方、面白いわね。ガブリエットが負けたというのは信じられなかったけれど、納得できたわ」
ミームは自分の血を触り手、の指で引き伸ばしと遊んでいる。
「お褒めどーも。……もっと重傷を負ってくれてもよかったんだけど?」
「ふふっ。まだ楽しませてくれるんでしょう?」
期待を込めた目でこちらを見てくる。ただ今のでもう一旦は打ち止めだ。
「残念だけど、ご期待には沿えないかな」
私の言葉に怪訝そうな表情を浮かべる。そして、待たせていた彼女へと声をかける。
「――ククル、手を貸してくれる?」
「うん! 待ってたよー!」
ここからはククルと二人でミームと戦う。
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