塗り壁──ヌリカベ──
大学に行く途中の電車の中。
高校生らが話していた噂話。
ちょっと意識を傾けて聞いていると、歩いていたら全く知らない場所に出た、とのこと。
何時間も覚えのない街の中を走り周って、やっと見知った場所に出た。
他の友達たちは「方向音痴すぎだろ」とか話していたが、体験談を話す男子は真剣そのものだった。
数日経ち、僕もそんな話をすっかり忘れ去っていた頃。
帰り道の角を曲がったところ、見覚えのない街に出た。
街は昼間だと言うのに薄暗く、一切の物音がしない。
人の声も車の音も、虫や鳥の鳴き声も。
ただ自分の耳鳴りだけが頭に響いていた。
道はなぜか住宅街で、道は複雑に入り組んでいる。
明らかに怪異の仕業だが、その正体がわからない。
訳がわからないまま延々と続く街を歩き続ける。
時間の感覚もわからない。
チャイムを鳴らしても人は出てこない。
祖父曰く。
妖怪だ怪異だってのは、なにも人を怖がらせるだけじゃねえ。
からかって遊ぶやつもいる。
中でも意外と厄介なのは、孤独な奴さ。
寂しくて苦しくて。
誰でもいいから相手して欲しいのさ。
この怪異の本質はなんだ?
確かに恐怖はある。しかし害や敵意といったものは感じない。
ここに迷い込んだという高校生も、無事に現実に戻ってきた。
なぜだ。
僕と少年の違うところはなんだ?
この、能力、か?
僕は目を閉じて意識を集中する。
どこか先の方に光が見える。
それは心地よいものではなく、悲しい色だ。
僕はその光の下に向かうことにした。
その通路は行き止まり。
しかし、壁の真ん中には人がいた。
厳密には、人だった遺骸、だ。
白骨化したその遺体は壁に塗り込まれるようにして、 上半身と腕だけ壁から出ている。
これは。
ヌリカベ。
そうだ、塗壁だ。
御大のアニメでは味方で頼もしいキャラだが、昔話では目に見えない壁だったり、こうして人を取り込んだりする妖し。
僕は足元にあった棒を拾い、一見なんの変哲もない(遺体を除いて)壁の足元を払う。
塗壁の対処法だ。
しばらく視界が暗転する。まるで水の中に入ったような感覚があり、目を開けると僕の住む街の一角だった。
そこに、死体があるのは除いて。
僕は警察に電話をして、すぐに来てもらうことになった。
行方不明になっていた、若い男の子の死体。
彼は塗壁に囚われた後、誰かに気づいてほしくて、怪異を起こしていたのかもしれない。




