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百鬼徒然  作者: 葛葉龍玄


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送り狼──オクリオオカミ──

「ニホンオオカミがいた?!」

 オカ研の部長の声が聞こえる。

「そう!昨日、家帰る近道で普段通らない雑木林を抜けたんだけど、その時に後ろからヒタ、ヒタ、と足音が……」

 なんとなく怪談口調になっている。

「街灯も無いような所だから、スマホのライトを付けて、後ろを振り向いたのよ!そしたらそこには……っ!!」

「ニホンオオカミがいたと?」

「そうなのよ!私はもうダッシュで逃げたね!何回か転びそうになったけど!」

 狼か。

「転ばなくてよかったね」

 僕はポツリと呟いた。

「え?どういうこと?」


 祖父曰く。

 奴らは基本何もしねぇ。ただ人の後ろをつけてくる物の怪よ。

 それどころか、他の野生動物から守ってくれることすらある。

 しかしな、そいつの前で一度でも転けてみろ。

 人間なんざたちまち奴らのエサさ。


「え、じゃあ私、転んでたらそいつに食べられてたっていうの!?」

「そういうことになるね」


「なるほど。絶滅したはずのニホンオオカミ。もしくは送り狼という妖。どちらにしても捕らえられたらすごいスクープだ!」

 部長はやる気になってカメラやらビデオやらを用意しているが、それは無駄に終わるだろう。


 その晩、僕は暗がりの中で1人の男と待ち合わせをしていた。

 よく嗅がないとわからない程度の獣臭さ。

「いや、昨日は失敗しちゃったよ」

 男が困り顔をしながら現れる。

「うちの大学じゃ、ニホンオオカミが生きてたって、大騒ぎだよ」

 一応の忠告。

「なんせ、狼の姿で人の後をつけるなんて何百年ぶりだったからね」

 送り狼と呼ばれる男は僕の方をみる。

「送り狼なんて、それこそニホンオオカミのことさ。彼らは用心深さと好奇心で人間の後を付けただけ。転んだら食われるのは当たり前さ」

 しかしこの男は本物である。

「ニホンオオカミがいなくなって、偽装できなくなった俺らは狼や犬に偽装することを辞めた」

 そして「人狼になることにしたのさ」

 人に化ける妖怪。

 いったいこの日本にどれだけいるのか、検討もつかないが……。

「安心して。例え転んだとしても取って食べたりはしないから」

「人間に危害を加えることはない、と?」

「そうさ。生き残る術だよ。後を付けるのは昔の名残さ。

 しかし嫌な世の中になったなぁ。人として人を見送るのが楽しみなのに、今はストーカー扱いだよ」

 怪異の暮らしも中々大変なようだ。

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