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義戦之武  作者: 昇龍翁
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【第三十六章】

【第三十六章】

 その頃、戦勝祈願が抱えていた戦場は、司隷州・孟津、穎川州・穎川、陽阿の関、谷遠の関。この4つであった。陽阿の関及び谷遠の関は、国内から選ばれた精鋭30将が、それぞれ4部隊ほどを出して機動的に守っていた。その守りは硬く、特に陽阿の関などは敵が城を隣接させて、何度も攻めかかってきたが、傷一つつけさせることなく、守り抜いている。その防衛軍が、昼は谷遠の関も守っているのだから、この30将の武功たるや計り知れない。

 激戦区となっている孟津と穎川で、その他の諸将が戦っているが、厄介なのが放浪軍。彼らの多くは戦勝祈願と戦って敗れた者たち。全体の戦略を考えて敵方に加勢しているものの、その心の底には戦勝祈願への恨みがある。

 ここに来て放浪軍が、河洛州・魏郡へ侵入を目論んでいた。魏郡は、戦勝祈願の多くの将が主城をおき、徴兵に影響する資源地をその周りに保っていた。

「殿。放浪軍との大量の臨敵が予想される事態ですが、どのように対応されますか。」

「ふむ。感情を捨てて理で考えると。」

「理ですか。」

「そなたは儂のためにとても尽くしてくれるが、月の俸禄が、酒1本じゃったらどうする。」

「え。それだけですか?今の俸禄に加えて酒一本ではなく?」

「そうじゃ。俸禄が酒一本じゃ。頑張れるか。」

「殿には恩義がありますが、わたくしも生きてゆかねばなりませぬゆえ、俸禄が無くば、残念ながら、殿の元を離れ、稼ぎを得なければなりません。」

「そうじゃろ。奴らも生きる為には収入が必要じゃ。放浪軍は、部隊を襲って輜重から資源を得るか、城を襲って倉庫から資源を奪わねばならぬ。領地から安定した収入を得ることはできぬ。じゃからの、苦労して襲った城の倉庫が空であったり、待てど暮らせど襲うべき部隊が来なかったりすれば、奴らは疲れるだけ疲れて、飢えていくのじゃ。」

「なるほど。」

「奴らは大きな城を持たぬから資源を貯めるにも限界がある。じゃで、それらを金に変えて持ち歩く。奴らを倒した時、金が多く手に入るじゃろ。それじゃ。」

「そうされたら、いずれ飢えてしまう。襲うのが虚しくなりますな。」

「うむ。『干殺し』という。放浪軍が居るとわかった道は通らず、城に攻めてこられたら部隊は全て出陣させて空城として資源は使い切って倉庫を空にしてしまえば良い。土地が残っていれば資源は再び手に入る。資源の丸剥がしをされたら辛いがな。」

「冷徹な。資源の丸剥がしなどされたら、殿はどうされますか。」

「冷徹じゃな。資源収入がなくなったら、儂も部隊を引き連れて放浪するわい。」

「理に徹するなら、そういう戦略が最善なのですね。」

「うむ。じゃが、それを理解する儂とて、友の城が焼かれたら、それは悲しい。焼け出されてしばらくは貧しい思いをするでな。皆が、『干殺しをしてやった』と割り切って、喜んで城を計略の餌にしていれば、気持ちも少しは楽じゃがな。」


 そう言いながら、朝廷が放浪軍を認める前の時代を、昇は懐かしそうに思い出していた。

「さて、儂も兵が揃ったら出陣する。もし、放浪軍が攻めてきたら、『干殺し』にせよ。」

 そう告げて、昇は軋む体に甲冑を着込み、部屋を後にした。


【章末】


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