【第十七章】
【第十七章】
いち早く司隷州に入り,防衛を固めつつある戦勝・百家連合であるが、司隷州の南東部・梁県を抜いて侵入した黒無葉津は、西側外関城への隣接後、全力で北上し、河南尹北西部で百家涼藍と激突。この先,西側の外関城を攻めるにあたり後背の憂いを排除しようと考えたのであろう。
そこで、戦勝祈願もこの前線に援軍を派遣した。
司隷州・原武郡の外関城前、魏郡南部の陳留郡との接点、河洛州・河内郡の孟津北部、そして、司隷州・河南尹郡北部。この4つの前線を、戦勝祈願は維持することとなった。
「外関城前は、防衛陣の配置も完了し、陽武の関との間には、まだ西涼軍団が居座っておる。」
「魏郡南部の前線は、まだ虞蓮が具体的な行動を見せていないので、警戒レベルでよかろう。」
「河内郡の孟津北部も、破鉄殿の城を抜かれないように警戒と駐屯でよかろう。」
「重点は司隷州・河南尹北部戦線だな。」
「ここを圧倒され、百家もろともに押し返され孟津を抑えられるような事態に陥れば、司隷州を失う。」
この先、全体戦略がどのように動こうとも、司隷を抑えているという優位は外交上、重要な要素となる。この切り札を失うわけにはいかない。
「幸い、司隷州に本格的に侵入しているのは黒無葉津のみ。鴉はともかく、納富が侵入を始めたら手が回らなくなる。」
「今はなんとしても、河南尹前線を守らねば。」
その頃、老将・昇が、居室に若い武将を集めて説諭をしていた。
「『危急存亡の秋』という言葉がある。とある名軍師が、先君への恩義を述べ、あわせて我が子のように慈しむ若き皇帝に向けて、自らの報恩の決意を述べるべく、提出した『出師表』という名文の中で用いた言葉だ。
一見、落ち着いたように見えるが、今は存立するか滅亡するかという極めて危うい時期である事、滅亡の事態を防ぐために行動して、これまでの恩に報いると。
戦勝祈願にとっても、まさに『危急存亡の秋』である。これまで君主・龍鬼と幹部会が,審議を尽くして進めてきた方策によって、全土でも名高い勢力と評価されてはいるが、決して安泰ではない。ここで均衡を崩されれば、一気に崩壊する事も十分にあるのだ。
そうならないために、誰が行動するのか。
誰か、ではない。自身が、である。戦勝祈願に所属する同盟員の全てが、今こそ、為せることに懸命に取り組み、我が身を挺して、皆のために行動せねばならない。無理をせよ、と言っているのではない。自分にとっての精一杯を、一生懸命に取り組むのだ。
『誰かがやってくれる』という考え方を排除し、皆が,皆の行動によって、皆の為に尽くすのだ。
そうして、努力と苦労と成果と達成感を、全員が共有した時、組織として大きな力を手にできる。どのような結果になったとしても、自分自身が納得できるに違いない。『あの時、ああしておけばよかった。』と悔やむ。これほど惨めな後悔はない。」
「できることを為せ。わかるな。」
話を聞き終えた若者たちの目に、静かな、しかし力強い炎が宿った。
【章末】




