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孤児で奴隷で女の子  作者: おがわん
第一章 僕の学園生活?
20/45

20.普通負けますよね。いや普通勝つんだろうかこの展開だと。

「さて、《貴方が選ぶ相手と戦う》ってことだけど、その相手に《貴方》を選ぶことはできないの?」

「姉様!」


『ほぅ……』


 ドラゴンがにやりと口元を歪める。始めて見せる表情かもしれない。なんかモンスターの表情を理解できるのも妙な感覚ではあるけど。


『ちなみにその意図を聞いても?』


「答えは簡単。《貴方を直接倒して証を立てる》以上に強固な証明はないからよ!」


 正面から堂々と。でも僕には判る。さっきから握り締めている手が小刻みに震えていることを。


『ふむ、確かに我はこの階層の試験官であり最上位の障害としての契約を結んでおる。我に挑むことも可能としてはおるが……それもこの学園の生徒であればの話。我もあまり悪戯に命を摘み取る趣味はないのだが……それでもというか?」


 ドラゴンの目を中心として全身から、重苦しい気配のようなものが打ち放たれる。今更だが僕のことを言っているのだろう。学生ではない僕まで契約対象ではないと言いたいのか、それとも迷宮の仕組みによる助命手段を得られないというところかもしれない。つまりは『死ぬ』と直接言われたようなものだ。明確な死のイメージが沸かなくとも、目の前のドラゴンから発せられるプレッシャーはこれまで見てきたモンスターとは比べようのない大きな重圧を感じさせ、たぶん僕なんかが立ち向かっても即座に押しつぶされる予感しかしない。


 ただの視線、言ってしまえばそれだけの物から感じる、まるで強風に煽られたようにぐらつく体を支えてくれたのはフィリー姉様の手だった。彼女の手のひらから伝わる温かみが僕の心まで温めてくれるようで、少しだけど僕に勇気をくれる。そんな気がするのだ。


「……やります! 僕は姉様のためにここにいるんです。今ここでお役に立てないなんて考えられません!」


 考えるまでもない。僕の意思はとっくに決まっていたんだから。


『ふむ、従魔であるならそうであろうな。だがソレばかりでもないようだ。お主よほど慕われておるのじゃな』

「ユウ……」


 なんだか心配そうな姉様の視線に僕は笑顔で答える。というかここで引き返したら二度とここまで来れない気がするし。というか姉様ならなんとかしてくれそうだし?


『さて、ならば我自ら試練を与えよう。題目はこれまでどおり《我に手傷を負わせる》こととする。いかな小さな傷、と言いたいところだが鱗の一枚も剥ぎ取れぬような軟弱な一撃は無効としよう』


「つまり、どうにかして鱗を剥ぎ取ればいいのね?」


『鱗でもよい。なんならこの角を折ってみるか? 簡単にいえば鱗の表面を撫でるような攻撃は一切認めぬ。明確に手傷と判断できる損害を我に与えることじゃ』


 ドラゴンの鱗は下手な鎧よりも硬いと相場は決まっているものだけど、はたしてどんなものなんだろうか?


「さて、ドラゴンのウロコは金属じゃないから熱して冷ます作戦は通用しないわ。ついでに言うと下手な金属鎧よりも硬いから正面から打ち破るってのはまず無理。そうなればなんとか策を講じてひっぺがすってのが一番アリなんだけど、正直対ドラゴン戦用の用意なんてないのよね」


 表面的には冷静に、いつ始まってもおかしくはない戦闘に備えて僕と姉様との相談は続く。



-----



「フィリー姉様、ご質問があります」


「何?」


「この場でボーナスポイントを使いスキルを取得してはいけませんか?」


 せっかくのレベルアップ。この場で生きるスキルがあるなら是非取りたい。


「……わかった。ただし確認して有用なものがあればよ」


「はい!」


 早速スキルの取得をしようとステータスを確認する。

 どれが有用なのかわからないが、姉様の作戦との兼ね合いから考えていくしかないだろう。


「宝箱とかドロップ品に大盾みたいなものはないから《盾術》は無しね。これがあればかなり有利だったんだけど」


 盾術はレベル次第でドラゴンのブレスすら防ぐらしい。がんばって探しておくんだった。


「えと……《剣術》とかダメですか?」


「ダメね。ユウのステータスじゃ大して意味ないもの。剣だってロクなもの拾ってないし」


 20階層程度では良くて中級レベルの装備しか拾えていない。そのほとんどはアイテムボックスにしまい込んでいるが、メインのドロップは結界石なので数も無いうえに質も良くないものばかりだ。一応使えなくはないだろうが、重過ぎて着るのが無理そうなフルプレートの金属鎧とか、大きいけれど切れ味の悪そうな大きな鉄の剣とかくらい。スキルを取得したとしても重過ぎて持ち上がらない大きな戦槌とかもあるにはある。本当に重過ぎてアイテムボックスに入れるのも苦労した。

 こうなったら方向性を変えて考えるしかないかな?


「いっそのこと《回復魔術》を取得して支援強化をしましょうか?」


「それもアリっちゃアリなんだけど、ドラゴンの攻撃を受けて生き残れる自信はあまり無いわね。一撃を耐える程度の耐久力なんて期待できないもの」


 即座に蘇生なんて手が使えるなら別だろうけど、僕が死んでは意味がない。


「いっそのこと、レアスキルでも取れれば別だけど……」


「ボーナスポイントは45なのでちょっと無理です……」


 そう、あと1レベル分ほど足りないのだ。普通の人なら5レベル分なんだろうけどどっちにしろ足りない。


「あんまり有用そうなものはないのよね……、あ、これ取りなさい」


 姉様の指し示したものは上位スキルの《直感》。

 危機察知の上位に位置するスキルらしい。危機察知がLv5になっていたので開放されていたようだ。


「これがあればかなりの確立で安全に立ち回れるわ。《閃き》と合わせればかなり有用なんだけど……」


「そうなんで……あ、ありますよ」


「え? うそ? んじゃそれも取って。これ以上は無駄だと思う。しかしここまで恵まれたスキルは見たこと無いわ。うん。」


 早速スキルを取得。Lvは1で十分らしい。上位スキルではないから5ポイントで済むし。これで残りは35ポイント。

 有効化したとたんに僕の《直感》だか《閃き》だかが知らせてくる。結界石を上手く使わないと生き残れないと。といってもこのままでは全く意味はない。姉様次第だがお願いするしかないだろう。


「姉様、僕の結界石を姉様の呪札で強化することはできますか?」


 結界石単体ではまるで役に立たなかったけど、強化をすれば少しくらい持ちこたえる可能性がある。


「結論を言えば可能だけどあまり期待はしないで。それこそ品質にもよるし、強化が続くのは一時的なものだから」


「それで結構です。僕の用意できた結界石は10個。うち2つについて《伝説級》の呪札を使って欲しいんです」



「それって……」


「残りは一般品で構いません。まずは普通に強化された場合どのように働くかを調べるのに使います。効果があれば伝説級の呪札は文字通りの切り札になりますし」


 瞬間的にしか役に立たないかもしれないが、一撃をしのぐだけなら一瞬でも十分だ。その間に姉様が体制を建て直し反撃してくれるのだから。


「……わかったわ、ちょっと待って」


 姉様が呪札の一部を取り出して準備を始める。予め用意してあった一般品のものはともかく、前準備をしていない伝説級の呪札にはその場で簡易的な呪文の転写を行う必要があるんだ。一定時間で効果が切れ、呪札本体も効力を失う効率の悪い方法なのだが今は仕方がないよね。


「はいこれ。危なくなったらちゃんと使うのよ?」


「任せてください姉様!」


~~~


強化の呪札(呪術補助具・消耗品)


対象に貼り付け、札を触りながら決められたコマンドワードを唱えることで発動する。コマンドワードは「強化」。

一般品 :強化率/3倍 効果時間/60秒

伝説級品:強化率/10倍 効果時間/10秒


~~~


 効果時間が犠牲になるが、強化率が恐ろしいことになっている。流石は伝説級というところかな。早速いくつかの結界石に呪札を貼り付ける。ノリもないのによく付くなこれ。


「あとよく聞いて。呪札の強化は《使用者の望むもの》を強化する。剣なら切れ味を。盾なら防御力を。受けた攻撃をそらすために《受け流す》力を伸ばすこともできる。単純な強化じゃないことに注意して」


 単純なパワーアップというわけではなく、望む能力を強化するってことか。結構面倒なんだな。

 手順が増えるのはうれしくないが、いくつかは予め設置しておくなりしておければ問題ないだろう。


 姉様がMPポーションをガブ飲みしながら呪札に魔力を刻み込んでいく。よほど高度な魔術なのだろうか、あれだけあったはずのポーションがガンガン減っていく。お腹がタプタプになりそうな見た目だけど、魔力として還元されれば液体本体は消滅してしまい仕様らしい。僕も良く飲んだのでわかるけどあれはへんな感覚だ。


 僕は僕で手を止めたりしない。やはり同じようにMPポーションを使いまくり、結界石の準備を進めていた。

 これらが終わるのを待って姉様が話し始めた。


「……あんまりやりたくはないけど、ホントウにやりたくないけど、これしか思いつかないから。だからよく聞いて」


 額から滴り落ちる汗を拭いながら姉様は言葉を続ける。


「なんとか時間を稼いで。呪札を3回使う時間が欲しいの。それができれば……たぶんあのドラゴンに一泡吹かせてやれるわ」


 決意というのだろうか。僕を見つめる姉様の視線は痛いほど強く、強いからこそ僕を惹きつける。


「問題は私が完全に無防備になること。呪札の残りもちょっと心もとないけど、ここで出し惜しみは無しよ」


 姉様の目に点る輝きが教えてくれる。細いけど間違いなく見出した勝機。ならばそれに賭ける。


「はい。がんばってこの試練を乗り越えましょう。今日はご馳走ですからね!」


「ふふ、なら余計に負けられないわね」


 お互いを見つめあいながらなんとなく微笑みがこぼれだす。これから戦いだというのに大した余裕だと思われそうだ。


『……そろそろ良いか?』


 うん、戦う相手に気を使わせちゃあんまりだよね。


「えぇ、行きましょうか」

「はい!」


『では、善戦を期待しよう!』


 室内を照らす明かりが一気に強まる。本来なら大きく広く感じるはずのこの空間が、まるでギュギュッと狭くなったかのような錯覚を受ける。でもこれは明かりのせいなんかじゃない。ドラゴンの放つ気配が変わったからだ。

 先ほどまでの威圧感を先生や母親の示す笑みのようなものだとすると、今放たれている気配はまるで別物。必殺の刃をのど元に突きつけられているような、動いただけ、触れただけで即死しかねないような危うい鋭さを僕の周囲の空気全体が放っているように感じるほどの濃密で攻撃的な気配。


 そう、今までのアレは本気どころか攻撃ですらなかった。そう言いたげな態度でドラゴンはこちらを睨む。


 無謀な挑戦と罵るのだろうか。僕の選択が姉様の行く末を暗い物にしてしまったんだろうか。自問する暇もなくドラゴンから漂う気配はその大きさを増していく。


 不意に頬を撫でる手。突然感じる暖かさに、僕の体が凍えているかのようにガチガチに固まっていたことを自覚する。

 姉様の手は確かに暖かい。安心感を与えてくれるやさしい手。でもその手は震えを止めることができずにいる。そんな状態なのに僕のことを気遣ってくれるんだ。


 添えられた手を僕も握り返す。


「……ユウ……」


 微笑んでくれる姉様へとぎこちなくとも笑うことができただろうか。今の僕は姉様のお役に立つためにいる。そのために僕のできる最高手を使おう。


「……いきます!」


 握り締めた手を振り払い僕は前に出る。

 今の僕の手札は結界石が10個。あとは少々のポーションと、役に立つのか判らない初心者用の木の棒だ。


 後で思うと、この時の僕は『いかに姉様の役に立つか?』しか考えていなかった。この思考の不自然さについて何も思うことが無かったんだろう。自分の命がかかった戦いだってことの自覚もなく『ただ主人を勝たせる』それだけのために突き進める心境に。

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