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孤児で奴隷で女の子  作者: おがわん
第一章 僕の学園生活?
19/45

19.いやぁもうなんだかやぶれかぶれってヤツですかね。

 しばらく身動きも出来ないほどの強い力で振り回されたような感覚で全身が身動きの取れない状態だった。

 といってもごわごわとした布袋に突っ込まれたとか、手足を拘束されたとかいうことはなく単純に何か強力な力が周囲にあるということだけしかわからなかった。


 しばらくするとようやく力の流れがおちついてきたようで、何か硬い地面の上に穂織り出されたようだ。周囲は薄暗くよく見渡せないが、隣の部屋の明かりがこぼれてくるおかげでこの部屋のものもなんとか見通すことができそうだ。


「ユウ! よかったちゃんと呼び寄せられたのね」


 ふらふらする頭をなんとか立て直そうと思った時、僕の背後から姉様の声が聞こえてきた。


「緊急事態とは言えごめんなさいね。ユウに何かあった時用に仕込んでおいたのだけど、まさかこういう場面で使うことになるとは思わなかったわ」


 姉様か受け取ったネックレスには、僕の残り召還時間を知る機能以外にも緊急時の呼び出し召還の機能があるらしい。流石に地球にいる僕を呼び出すことはできないらしいが、これがあるだけで格段に呼び出しやすくなるとのことだ。


「補充前だったから手札は無いし単独での帰還は難しいと思ったのよね。補給も兼ねてユウを呼んだけど、ここから戻るにしてもかなり面倒なのよねぇ」


 単独とは言え「誰でも好きな階層に飛ばせる」って時点で十分変だとは思うんだけど、このへんについてはまた後で考えよう。そこまで重要じゃない。


「ユウの緊急召還を使ってしまったけど、これって結構マズいのよね。残り時間はどれくらいになってる?」


 そう言われてネックレスの残り時間を表示してみる。



  《タイムリミット 03:14》



 ん~丸2日はあったはずなのにもうこれだけかぁ~。残り時間が0になると強制的に元の世界に戻されるらしい。


「あちゃ~、本気で余裕ないのね。ほんとならレベル上げとか色々したかったんだけどなぁ……」


「とにかく現状確認と補充です。今どの階層なのかわかりませんか?」


 といってもこんな薄明かりでは確認できやしない。一応『危機察知』にかかる敵情報はないみたいだからと『明かり』を付けて様子を伺う。


 どうやら通路のど真ん中。それも正面にある大きくて立派な扉は間違いなく……


「うん、階層ボスの目の前。ってことはきっとここは連中の言うとおり50階層の最奥よね」


 中ボスを抜かして大ボスの前に送られたでござる。



----------



「にんにん」


「ちょっとなに言ってるのよユウ。しっかりしてくれないと困るわよ?」


 あっはいすいません。ちょっと現実逃避してました。

 えぇっとつまりボスの前で一応まだ感知される範囲外っぽいってことです。ボスというか階層守護者に挑戦するには扉に触れて開ける必要があるので、扉に触れさえしなければ一応安全です。その階層のザコとの遭遇がなければですが。


「さて、取るべき道筋は2つあるわ」


 フィリー姉様が説明を始めてくれる。周囲の警戒は僕が担当するとわかっているからの行動だろう。警戒を解くわけにはいかないが、重要な相談だということも含めちゃんと聞こう。


「1つは、このまま45階層まで戻って地上へ戻ること。無事戻れる可能性はあまり高くないし、戻ってしまえばまた来るまで随分かかる可能性が高いわ」


 さっきまで27階層にいたのだ。本来の予定なら順調にレベルアップを重ねて、対ボス用のスキルや装備を整えた上で挑むべき相手のはずだ。肝心のボスの情報すらないのだから対策を立てようもない。


「もう一つが、このままボスと対決することね。正直ユウのタイムリミットを考えるとこっちのほうがまだ現実的な気がしてるの」


 このまま強行する。のは僕の問題でしかない。ここまででなくとも45階層まで来れるといって、次にここまで来れるのは姉様一人の可能性があるのだ。僕の再召喚までに姉様のタイムリミットが来てしまう、のかもしれない。そうなると確認すべき点が1つある。


「……えっと、一つ聞いていいですか?」


「いいわよ? 何?」


「僕の召還の準備にどのくらいかかるんでしょうか?」


「そうね、次は手順が省略できるでしょうから……といっても4・5日かかるのは間違いないわね」


 そうすると二人で攻略できるのは今回が最後ってことになるのか。かなり厳しいなぁ……


「うん、ユウが渋い顔をするのもわかるわ。そんなユウも可愛くて好きなんだけど、今はそういうことしてる場合じゃないのよね」


 か、可愛いってのは、ええっとちょっとうれしいけど違いますねハイ。


「というわけで第三案を実行するのが無難なんだけど、ユウ。呪札の残りはあとどれくらい?」


「はいえっと…… 最上級が20束、伝説級が2束で上級が6束です」


 一束5枚。これ以上纏めると呪札にあまり良い影響が無いらしい。アイテムボックス内や鞄の中等では干渉しないらしい。よくわからないルーリングだとは思う。といってもまとめて100枚とか取り出すこともないはずだし、同じ束は同じ状態で無いといけないのでこんなものなのかもしれない。


「うん、十分ね。回復ポーションの方は?」


「えっと低級しか作ってないんですが、HP回復薬は上級20、最上級が10本。MP回復薬の上級は21本で最上級は12本です」


「ん、ありがと。ってことは一回くらいはここの階層のザコと戦う余裕はありそうね」


 時間が限られているとはいえ、少しくらいは悪あがきをしたほうがいいだろうといいうことだ。多少でもザコ戦を経験すればザコといっても50階層。そこそこレベルアップの恩恵があると踏むべきだろう、ってことらしい。


「少なくともユウのレベルは上がるわ。それだけで十分戦力が見込めるもの」


 僕としては姉様のレベルアップを優先したいのだけど、こんな状況では贅沢を言っていられるはずもない。


「そうですね、わかりました早速行動しましょう。周囲に敵の存在は確認できないので地図埋めも兼ねて動き始めましょうか」


 少ない時間は有効に使わないといけない。ということで早速動き始めたんだけど……


<ゴゴゴゴゴゴゴッ>


 重いものが、石畳を引きずりながら動くような、ゴリゴリを地面を引きずるような音が響く。


「ちょ……わ、私触ってないわよ?」

「僕もです……」


 といっても扉の向こうで待ち構えているであろう相手には通じません。

 もしかして、強制戦闘ですか!?



----------



 扉向こうに一瞬見えたのはきらめくような炎の揺らぎ。でも僕の『危機察知』は最大限の警鐘を鳴らします。といってもここは一直線の通路、身を隠すような場所はありません。


「っ! け、結界石っ!」


 咄嗟に投げた3個の結界石の三重防壁ですが、一瞬の間を持たす程度で消え去りました。

 まるで台風の中吹き飛ばされる看板のように千切れ飛ぶ結界の残骸。結界というのは外からの攻撃に対しては強いですが中からの攻撃には弱いので、あんな風に吹き飛ばされると全く役に立ちません。まるでガラスのように砕け散る様子から守護者の攻撃とみて間違いないでしょう。というかザコがこのレベルの攻撃をしてくるようなら完全に詰みゲーです。


 どうにか初見殺しの攻撃をいなし、攻撃が飛んできたと思われる部屋内に逃げ込むことに成功します。というよりこのまま通路にいては第二波・第三波に対処することができません。間違いなくゲームオーバーです。ゲームじゃないとは思いますが。


 さて、飛び込んだ室内は薄暗く部屋全体を見渡すことはできませんが、その闇の中に先ほどの炎をもたらした主がいると思うと油断できません。


「……っぶなかったぁ! なに? ここの階層って問答無用なの!? ちょっと見てるんでしょ指導責任者!」


 10階層や20階層であった先生と思われる声がありません。少なくとも試験である以上は試験官みたいな人が監視していてもいいはずなのですが。


『なにを呟いておる小娘。この階層を守護するはこのワシのみよ』


 ひときわ大きな声が響いたと思ったら天井付近と思われる場所に大きな炎が燃え上がりました。

 その炎は四方八方に散ったかと思うと周囲を照らす明かりとなってこの大きな部屋全体を浮かび上がらせます。


 全長100mはあるでしょうか? 天井までの高さは10m……いや、20mはあるかもしれないってくらいの広さのドームです。過去にいかなる激戦が繰り広げられていたのか、その地面に残る傷跡から想像するだけでもちょっと怖いくらいです。あんな穴とかどうやって開けたんだろうって直径10cmくらいの穴があったりとか、剣筋?のようにまっすぐ切り裂かれた地面が明らかにここが戦場であることを意識させます。一部分ですがガラス化というんでしょうか?キラキラ光って透明になっている部分もあったりします。どちらにせよちょっとした明かり程度じゃ照らしきれない程の広さのなか、スポットライトを浴びるように部屋の真ん中に声の主が佇んでいました。


『なにやら小虫が舞い込んだと思えば煩く喚きおる。お主は小鬼の類か?』


 眼前に現れたのは巨大なドラゴン。

 白い鱗を全身に纏い、青く煌く瞳を輝かせ僕らを見つめる巨大な龍そのものでした。


「……私はファニシエール・エードルクツヴェン。ここの階層主を倒すためにやってきたわ。貴方がここの主なの?」


 大きく息を飲み込みながらも姉様は眼前のドラゴンに声をかけます。僕なら縮こまって声をかけるどころではないでしょう。


『……ほう……我を前に臆することなく声を発するか。いやいやレベルが低過ぎて相手にするまでもないと思っておったが……これは考えを改める必要がありそうだ」


 ドラゴンの表情を見る機会は無いのですが、目の前の白いドラゴンはとても面白そうに答えます。


『いやすまなかった、あの炎を受けて逃げ帰ると思っていたのだが、お主らを見くびっておったようだ』


 あの炎は一種の試金石だったようです。とりあえず門前払いは無いと見ていいのかもしれません。


「そう、それで、私達に貴方に挑む資格はあるのかしら?」


 相変わらず毅然とした態度で姉様は続けます。


『ふむ、とはいってもな、根本でレベルの差はどうにもならん。我も許された範囲以下の手加減など面倒は起こしたくも無い』


「では、どうしろというのですか?」


『ふむ……、そうじゃな。2つ、選択肢をやろう』


 ドラゴンが起用に前足?を伸ばし指を立てる。


『1つ。ワシの召還する魔獣を仕留めよ。どんなものを呼び出すかは答えられん』


 呼び寄せるというのだから少なくとも主よりは弱いんでしょう。勝つ可能性は対ドラゴン戦よりはマシなはずだけど。


『2つ。このまま引き返せ。たぶんに事故であろうから今回は見逃そう。少なくとも将来有望な若人の道を阻むつもりはない』


 このまま引き返しても見逃してもらえるということでしょう。ただし道は自分で切り開く必要があるんだろうけど。


『なに、順調にレベルアップして、そうだな、40を超える頃には十分だろう。その程度の強さじゃ』


 どんな魔獣を呼び出すとは言わないけど、どれくらいのレベルが必要かを教えてはくれるらしい。妙なところで親切なドラゴンだなぁ。


『お前なともかくそちらの小さな娘には酷であろう。しかもその特殊な契約条件ではせっかくのダンジョンでの恩恵も得られない。無駄に命を散らすこともあるまいて』


 どいやら僕のことらしいけど、どういうことなんだろう?


「ユウは……そうね。確かにユウの安全を考えたら……」


「フィリー姉様、どういうことなんでしょうか?」


 深く考えなかったけど、このダンジョンには色々仕掛けがあるんだろう。だけど僕だけ「恩恵を得られない」ってのはどういうことなんだろうか?


「このダンジョンは学園の生徒のレベルアップを目的に調整されたダンジョンよ。学園の生徒はこの中で致命的なダメージを受けたと判断されると、どんな状態であれとりあえずダンジョン入り口まで送り返され、そのまま医療を受けることができるわ」


 学生を育てるためのダンジョンなのだから、学生を殺すような仕組みを許すわけにはいかないのかな。


「でもユウ。貴方は私の従魔。つまり学園の生徒ではないわ。だから致命的なダメージを受けても入り口に転送されることはない。それってどういうことかわかる?」


 ……う~ん。仮に僕と姉様が同時に致命的なダメージを追った場合、僕だけここに取り残されるってこと?


「その考えで間違って無いわ。その上で聞くけど、ユウはどうしたい?」


 僕はフィリー姉様の従魔。つまり奴隷みたいなもんだ。奴隷は主人の言うことを素直に聞いていればいいんだろう。でも姉様は僕の意見を聞いてくれる。


 僕の意見。僕の望み。僕にやりたいこと。


 そんなものは決まっている。僕のやりたいことは、姉様のお役に立つことだ。

 決して逃げることじゃない。


「姉様。僕、姉様のお役に立ちたいです」


「……ごめんなさい」


 一瞬、姉様の表情に影が差す。こんなことに命をかけさせることに罪悪感を感じているのかもしれない。でも僕は姉様の手を握って、そして笑うんだ。


「姉様。さぁ、最後の関門です。ここさえ通り過ぎてしまえがとりあえずの目標は達成できるんです。がんばりましょう!」


「ユウ……」


 僕はこんなに献身的名人間だったんだろうか?という疑問がわきあがるが、姉様の驚きながらもうれしそうな笑顔の前にそんなのどうでもいいかと思えてしまうのでした。


誤字訂正:×ペンダント → ○ネックレス。

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