16.第10階層。っていったら何か出ますよねやっぱり。
あれから3時間くらい経過。召還期限を知らせてくれる魔道具は意外にも時計みたいな役目をしてくれている。なんだかちょっと便利だね。
さて、その3時間くらいで第10階層まで到達できた。早いのか遅いのかは知らないけど、姉様は27階層まで進んでいたそうなのでまだまだ余裕って感じだった。僕? 僕はついてくだけだからなんってことはないよ。
9階層か降りてくるとまず長い廊下がまっすぐと進んでいた。幅3mほどの狭い通路だがここが待機部屋も兼ねているらしい。
奥に進むと目に入ってくるのは高さが5mはあろうかという巨大な門。いかにも中に誰かいますよ~的なアレである。やっぱこういうのってドキドキするよね、男の子?的な意味で。ダンジョン過渡期だと順番待ちが発生することもあるそうだが今はそこまで混んでいないようだ。というか今頃挑戦している人のほうが少ない、もっと奥に進まないとライバル?といえる人とも出会えないような階層らしい。まぁ姉様がダンジョン内で他人と会いたくないって言ってたから避けてたんだけどね。
「さぁ、いよいよ階層守護者戦よ。準備はいい?」
「はいフィリー姉様!」
姉様もちょっと興奮気味?なんだろうか、普段よりちょっと声のテンションも高めな感じだ。
どうやって開けるんだろうってくらいバカデカイ扉だけど、手を触れるだけで左右に動き始めた。
「他に誰も挑戦していなければこうやって開くのよ。逆に誰かがいた場合は何をやっても開かないの」
途中から乱入して戦果を奪っていくようなヤツはいないってことらしい。
さて、中は予想したようにダンジョン内よりも明るく、それでいて広々とした空間になっていた。これだけ障害物がないとちょっと怖いな。何か用意できないか今のうちにかんがえておかなきゃ。
『おや、この時期に誰かと思いましたがファニシエール君じゃないですか。こんな階層で単位稼ぎですか? 既に撃破済みのフロアマスターにそこまで大きな単位は期待できませんよ?』
フロアに入ったところで部屋全体に響くような大きな声が聞こえてきた。これがフロアマスターなのか?
「……どうやら今日の担当はベナウレス先生だったようですね……」
なんだか心底いやそうな声が聞こえてくる。僕としてはもうそれどころじゃないんだけど、どこかから監視をしている先生?がいるみたいだ。
『私だってこんなことをしていたくはありませんが、教員としての義務ですならね。まぁこんなことを君に説明する必要は無いとは思いますが……義務なので聞いておきますが、説明はいりますかね? どうやら初めての人がいるようですし。っと、所属は……奴隷? 君がそんな手を使ってくるとは正直予想外でしたが、まぁ学院内では社会的立場とは無縁に扱うべきとのことですからね。面倒ですが説明を求めるなら答えましょう。これも教員の義務ですからね』
う~ん、なんだかめんどくさい感じだなぁ……
「あの、なんだかわからないんですが、これから守護者みたいのが出てきて、倒せば通れるってことでいいんですかね?」
「そうよ、一応受験者のこれまでの行動や特性を判断して、許可された範囲の強さを調整・出場させるのがあのベナウレス先生の仕事ね」
なるほど、守護者というか試験監督なんだね。
『一応補足しておきますと、ダンジョン内で取得したこれまでの単位を元に強さや得意技といった傾向が判定され私の手元に資料としてまとめられたものが、っと来ましたね。えっと……戦闘はほとんどファニシエール君が行っていてそこの奴隷の子は索敵や補助担当のようですね。う~ん、一応二人一組用のリミッターまで解除できますが、いささか強すぎますかね。戦闘力的に期待できるような面はありそうもありませんし』
真面目に考えているようなセリフではあるけど、さっきから感じる微妙な気配ははんだろう? どうにもいやな感じしかしない。
『まぁ実力的に問題ないでしょうから適当なヤツでいいでしょ。その方がファニシエール君も楽ですからね。私もそんなに時間をとられたくもありませんし。それでいいですよね?』
なんだろう、いかにも恩着せがましいというか、自分のおかげで楽ができちゃうぞみたいな雰囲気。そんなことを言われて喜ぶとは……
「何をおっしゃっているんですか、私の受ける試験に手抜きなどされては迷惑です。現状許される限りの手段での判定をお願いしますわ!」
右手を大上段に構えて人差し指を正面に突き立てて、まるで貴様の安い挑発など正面から打ち破ってくれるわっとか言いたげな態度ですよ!?
「フィリー姉様! こんな低位の階層で姉様の実力が測れると思われても困りますよ! なんかベナなんとか先生への嫌がらせみたいじゃないですかっ!」
「いいのよユウ。あの先生は一度自分の理論と立場を省みるべきなの。基礎的なこともおろそかにして大事な研究が大成するわけがないじゃない。フロアマスターの選定だってそう。ちゃんと生徒の実力を見て生徒に相応しい『壁』を用意できることに教員としての器も測られているという事実に気がついていないのだから」
明らかにいい事いったって感じのドヤ顔ですホントウにありがとうございました。
う~ん、まぁ最初のフロアマスターなら大したことないんじゃないかなぁ多分。
『それでは行きましょう! 貴方達へ送る第10階層のフロアマスターはこれです!』
天井に黒い穴が開いたと思ったら何か大きなものが落ちてきた。
それは鈍い光を放つ巨大な人型。右手に自分の身長ほどの棍棒を携えてどっしりと構えていた。
「ミ、ミスリルゴーレム……」
『貴方達二人の課題は物理攻撃力と防御力! 対魔属性に優れるこのヒュージミスリルゴーレムを撃破できますかな!?』
やべ、この先生マジで大人気ない……
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「いいからユウは下がってなさい! 棒術Lv1程度じゃ防御できても意味なんて無いわ!」
ヒュージの名が表すように規格外のサイズを持った巨大ゴーレム。ミスリルの特性から対魔力に優れ、姉様のメイン火力である魔術による攻撃が決定打にならないときた。さっきっから姉様がゴーレムの正面に出て呪札を飛ばしているけど当たり前のように決定打になっていない。
……焦る。
何もできないってことがこんなに怖いなんて。自分が打たれるならまだ我慢もできる。でも姉様が僕をかばって傷つくのはなんかいやだ。僕が正面に立っても何もできないのはわかるけど……わかるんだけどっ
なんと避け続けてもう5分くらい。お互い決定打を与えていないとはいえ疲れを感じさせないゴーレムと生身の姉様とでは戦闘の継続可能時間が違いすぎる。ゴーレムの動きが遅く、攻撃手段が巨大な棍棒を大降りすることしかしないからこそ対応ができているのだろう。だが掠りでもすればどうなるかは、巻き上がる土煙と吹き飛ばされる瓦礫の渦をみれば明らかだ。
こんな強力なボスが最初の障害として登場するのは明らかにおかしい。そう思わせるほどの強さを見せている。
『……ふむ、やはり限界まで防魔にポイントを振り分けたせいで攻撃はいささかお粗末ではありますね。多少なりとも特殊な攻撃方法を習得させておくべきでしたかな。今後の課題として検討しておきましょう』
戦闘が始まってから一言も発しなかったのは観察に費やしていたからかもしれない。
「……硬すぎなのよ! ここまで叩き込んで傷1つ付かないとか意味わかんないわ。対魔特化だとしてもこの階層では許されない強さのはずよ!」
先ほどから飛ばす呪札がほとんど効かないことに不信感を持っているのだろう。確かに変だとしか言いようが無い。対魔属性を高めたといっても完全無効化かそれに近い能力持ちに見える。こんなの攻撃手段が魔術に限られてたら攻略不可能じゃないか。
『確かに貴方一人でしたらこんな守護者は登場させられませんよ? でもほら、奴隷を一人連れているでしょ? 魔法職ではない、物理攻撃スキルを持つチームメイトがね』
……僕!?
確かに物理攻撃というか魔法攻撃自体ができないけどっ、って棒術ってあんなゴーレムに対抗できるスキルなの!?
「……明らかに越権行為ですわっ! 後で厳重に抗議させて頂きますっ!」
言い返している間にもゴーレムの手は緩まない。姉様も避けながら攻撃を繰り広げてはいるがこのままじゃジリ貧だ。
「こんな卑怯者に、負けてなんかやらないわよっ!」
と言いつつもフィリー姉様の表情に余裕は無い。汗で髪がはりついてやりにくそうだ。
「いい加減にしなさいっ!」
形勢逆転を図ったのだろう。一度に大量の呪札を使うことで威力不足を補おうって考えだと思う。でもそれが悪手だった。
一度に放たれた大量の呪札は周囲の瓦礫を巻き込んで大量の土煙を上げた。視界が防がれ動きがとめられたのは放ったフィリー姉様の方。
「あっ!」
そして視界の効かないところに降り注いだ大量の小石や欠片が彼女の足元にも散らかった。そう、少しではあるがバランスを崩す程度に。
そこを狙い済ましたかのように降り注ぐゴーレムの太い腕。僕にはもうこれしか手段が残っていなかった。
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「ユウ!」
<パリンッ!>
何かが砕けるような乾いた音が鳴り響く。
僕の目の前、Lv1程度のつたない技術では到底とめられそうにない威力だがなんとか押しとどめることはできた。
「姉様! 今のうちに早くっ!」
目の前で起こった事実に呆けている姉様になんとかしてもらわないと、続けて放たれた二撃目も眼前でぎりぎり受け止める。もうそろそろ限界っ!
「……動きがなければこっちのもんよ。取っておきを食らわせてやるわっ!」
なんとか体制を整えたフィリー姉様が取り出したのは一枚の輝く呪札。あれは伝説級の一枚?
「対魔能力が優れていようとこれを食らって無事で済むと思わないことねっ!」
放たれた呪札はゴーレムに向かってゆっくりと近づいていく。攻撃の反動が抜け切らないせいか先ほどよりもさらに動きは鈍く、呪札の到達を防ぐことはできなかった。
ピタリと張り付いた呪札は、最初淡い光を放ってジリッと音を立てて消滅しただけだった。だが数秒もしないうちに空気が変わった。着弾点からゴーレムの全身を覆うように亀裂のように霜が走る。間違いない、凍結の呪札だろう。目の前なのでここまで冷気が伝わってくる。
一呼吸おいてもう一枚札が投げられる。今度は札から巻き散らかすように炎が吹き荒れた。ごぉっ!っという音を上げ、炎が渦を描きながらゴーレムの全身をくまなく包み込むが、ゴーレム自体に対したダメージは無いように見えた。
『……魔術でそのゴーレムを倒そうだなんて無謀ですよ。魔力文字でも探す方がよっぽど建設的というものです。というよりも魔術的に倒すためにとるべき義務でしょう』
どんなに激しい炎であろうとも、対魔特性に優れたミスリルゴーレムには何ら影響はないだろう。温度差と物質の膨張を利用した戦法なんだろうけど、対魔能力の高すぎる相手には「魔法で作り出した温度差」はまるで意味がないように思えた。
「そうね、普通なら効かないわね。でも、もう終わりなのよっ!」
右手を深く懐に捻り込む様子はまるで内側に力を集約させる渦のようなイメージをもたらした。このタメ動作の間の完全な隙にもゴーレムは反応を示さない。 そう、外見的に何のダメージも負っているように見えなかったのだが、確実に影響を及ぼしているようだ。
『なななななんでっ! なんで呪札ごときでミスリルゴーレムが影響を受ける!? ありえんだ! いったいどんな手をつかいおった』
吐き出される気合と共に姉様の拳が僕の目の前を走り抜ける。呪札で強化された身体能力ゆえか、まるで残像が駆け抜けるような速度で叩きつけられ、拳の打ちつけられたゴーレムの左足には小さくヒビが刻まれた。
「……ヒビ…? だと? もはやミスリルの体にヒビを付けるとは、貴方が格闘系にも秀でていることは理解しておりましたが、まさか素手でその攻撃力とはいやはや恐れ入りましたよ! しかしそのヒビ程度で私が合格を言い渡すだなんて信じていませんよねぇ? ゲートキーパーの撃退こそがここを通り抜ける義務なぁのですよ!」
だがフィリー姉様の笑みは崩れない。
収めた拳の残したヒビを確認、そして続けざまにこういった。
「ユウ。あのゴーレムを倒しなさい。目印はアレよ?」
「……えぇ!?」
「いいからっ、棒で叩くくらいできんでしょ!」
なんかじと~っと睨みつけられつつも、いわれた通りにゴーレムの前に進み出る。
ってなんで動かないのこの金属?
「は~や~く~!」
「はぃいっ!」
へぽことは言えそこは流石に棒術Lv1。そこそこ微妙な構えからコツンと音を立てつつゴーレムのヒビマークに一撃を加えることには成功した。
「……あれ?」
いや、こういう時ってびしばしがらがら~って崩れていったりするもんじゃないの?
「ユウ!」
「はい!」
「ちょっとこっち来てっ」
なんだか手招きされるので慌てて移動する。なんだかもう戦闘中って緊張感がまったく無いんだけどどういうことだろう? さっきっからゴーレム動かないし。
「お、お待たせしました。どうしたんですか?」
「うん、あそこいたら危ないしね」
<ビシッ!>
背後から響き始めた炸裂音。先ほど言われてつっついた?ところから大きなひび割れが現れた。少しずつ、少しずつその長さを伸ばしていきながらそのヒビは樹木のように枝分かれしつつ、分岐を増すごとに加速を増してやがて全身がひび割れたかと思うと、ガラスの砕けるような音を響かせて粉々に砕け散った。
「う、うわぁ……」
「ほら、綺麗でしょ?」
「は、はい、姉様……」
『なんてことを! こんなことは起こりえない! どんな小細工を仕込んだのですかファニシエール君!!』
明らかに激昂した声が響く。間違いなく勝てないと踏んでいたんだろうけど、どう考えても相手が悪い。
「それが見抜けないから貴方は無能なのよ」
砕けたゴーレムの欠片がまるで降り注ぐ光の雨のようにも見えたけど、そんな光景を背にした姉様の表情はとてもにこやかな笑顔だった。




