15.単位の取り方って、そういうものなんですね
「曲がり角の先、天井付近に不定形生物1!」
「またウーズね。遠距離から一気に仕留めるわ! 不振な動きをしないか注意してね!」
「はい! フィリー姉様!」
僕らは現在、学園の地下になるという迷宮、通称『学園迷宮』にいた。
いわゆる『ダンジョン教習』というやつで、ここで必要な実習単位を取得することが目的だ。
現在ダンジョンの地下2階。つまりまだまだ序盤といったところだ。出る魔物もスライムっぽいヤツとかゴブリンっぽいヤツとかばっかり。大体はフィリー姉様が魔法で一撃で決めてしまうから出番らしい出番なんてない。
僕としては、お姉様の盾になるようなカッコイイ冒険をしてみたいなぁ~なんて思っているんだけど……
「まったそんな顔して~、言っとくけど前に立っちゃ駄目よ? 私の単位にならないんだから」
とのことで許してもらえないのだ。
モンスターを倒す、貴重な宝を得る、階層守護者を倒すといった行動が集計され一定の評価を下される。それが実践単位として集計されるんだそうだ。
集計方法も簡単でここのモンスターの仕組み、というかダンジョンの仕組みとしてあらかじめ組み込まれているらしい。倒した数の誤魔化しが一切効かないシビアな方法だそうだがそれでも抜け道はあるそうで。お姉様の迷惑にならない範囲での助力ということで索敵や罠警戒を中心に行っている。
いやぁ危機察知って便利だわぁ。基本的にモンスターってのは悪意の塊なのでこちらを認識していなくても「敵」であるために真っ赤っ赤。必ずといっていいくらい危機察知に引っかかってくれる。待ち伏せする系統なんかバレバレだから一方的にこっちが好き放題できちゃうのだ。
「といっても待ち伏せを見破れるからであって、ウーズなんかに奇襲されたらちょっとシャレにならないのよね」
ウーズというのはスライムの一種。外界では主に洞窟内に生息し、天井等にはりついて獲物を待ち伏せる狩りのプロフェッショナルだ。薄暗い洞窟のさらに暗い天井から体を覆い隠すように落ちてくるこいつを避けるのは非常に困難だろう。一旦取り込まれると肉をゆっくり解かされる感触を死ぬまで味わうことができちゃう。文字通りの意味で。
といってもそこは学園管理の迷宮。こんな浅い階層で致死性の高いモンスターが出てくる訳もない。だがある程度の痛みも無ければ覚えない、というわけでこのへんに出る調整済みウーズはエロゲかっ!と言いたくなるような特徴…… つまり服だけ溶かすという能力に置き換えられている。
死ぬような危険もなく、防御をしっかりすれば大した相手ではないが、剣や棍棒等での物理攻撃はあまり効果的ではなく、魔法を当てるにしても奇襲を見破るくらいの観察力が無いと話にならないのであまり好かれるモンスターではない。まぁフィリー姉様からすればただの雑魚なんだけどね。
「ユウが教えてくれるからほんと助かるわ~、索敵系スキル取ってないから結構面倒なのよねアレ」
奇襲さえ防げれば、そして十分な威力の攻撃魔法が準備できればこその余裕といえるんだろう。一応お姉様の呪札でもできなくはないらしいけど、色々難しかったようだ。
「そりゃそうよ。索敵に警戒に戦闘。現在位置の把握と階層構造の把握から隠し部屋の推測と行動限界に合わせての探索時間の見切りもつけるなんてこと考えてたら一人でできることなんてタカが知れてるのよ」
いくらある程度の安全は保障されているとはいえ事故はいつでも起こるもの。最低限の安全マージンとか考えてたらいつまでたっても必要単位なんて揃わないし、ある程度の冒険も必要になってくる。そもそもソロ攻略を前提に作られていないんだから無茶にも程があるってものだ。
「だからユウには感謝してるのよ? 迷宮内でこんなおいしい食事が取れるなんて、今までならありえないもの」
現在地は通路奥に見つけたちょっとした広さ(20m四方?それくらいな感じ)の部屋の中だ。流石に迷宮内の通路上でご飯とはあんまり考えたくないしね。罠とか隠し通路とかが無いことも確認済み。こんな低階層でそこまでしなくてもと思うけどたま~にあるらしいよ。
で、レジャーシートのように布を敷いてのランチタイム。周囲は生活魔術の[光明]で照らし、どこでも簡単に食べられるようにとサンドイッチを用意。あ、パンはいいのを用意しました。がんばれば作れるもんなんですね。主にスキルとかけたMP分の成果といえるかもしれません。
アイテムボックスから程よい感じに入れた紅茶を取り出してお姉様に一杯。場所の殺風景さを除けば本当にのんびりできていい感じ。
こんなのんびりできるのも危機察知のおかげだろうと思う。一応集中すれば察知する範囲や対象を拡大することもできるみたいだけど、流石にやりすぎだと思うのでやめておく。そこまで切羽詰まってるわけでもないしね。
フィリー姉様が休憩中の間に僕は成果物を確認中だ。アイテムボックスから取り出したのは先ほどのウーズやなんやを倒した後に残る小さな石。透き通った青い石という外見のこれは『コア』と言われる魔術アイテムだ。
学園迷宮は学園で管理されている迷宮。つまり出現するモンスターもすべて学園側で管理されている。つまり学園側の誰かが作り出すなり生産指示なりをしている魔法生物、または従魔みたいなものだと思ってくれるとわかりやすいかもしれない。
低階層は特に弱い魔物、ということで大量に召還できるよわっちぃ魔法生物が中心らしい。魔法生物として作り出される際の核になるものがこのコア。正式名称は『魔道制御コア』というらしい。今手にしているのは低位のものでしかないが、回収して学園に提出することで一定の報酬を得ることができる。まぁお小遣い程度なのはお察しだそうだけどね。他にも使い道があったりするから侮れない。
で、実践単位とは別にこうした副収入を設定することで装備を充実させてさらに高い難易度の場所へと向かうよう促進するのがここの仕組み。ちなみに『コア』でしか購入できない学園迷宮ならではの品もあるそうだ。
つまり多量に手に入れることも可能。ってことで問答無用でアイテムボックスに放り込もうとしたんだけど、そのままだと「汚れた低位魔道制御コア」とか「かなり汚れた低位魔道制御コア」とかいう名称でリストに登場してきたのだ。コアだけでページが埋まるとか意味わかんなくなりそうな展開になる前に試しに磨いてみたら普通の『低位魔道制御コア』として登録された。これ以上細かな分類が無いのは正直助かった。
というわけでとりあえず突っ込んでいたコア達を、管理しやすくするために磨いて汚れを落としているのだ。面倒だろうって? いやいやいや、こういうのって気になるんだよね。纏められるならその方がいいし。
「さっきから何してるの?」
なんて重いながら磨いていたらのんびりとした姉様の声がした。
「はい。コアを磨いて汚れを落としてます」
聞かれたことだし素直に答える。別に秘密でもなんでもないし。
「コアを磨いたってなんにもないでしょ? 別にランクが上がるわけでもないし」
低位のコアは磨いても低位のままだ。きれいになるだけ。それはそうなんだけどね。
「そうですけど、アイテムボックス内での管理がしやすくなるんですよ。『ちょっと汚いコア』とか『すごく汚いコア』ってだけでリストを埋められるのはなんだか気になりますし」
「あぁそういうことね。でも今やらなくてもいいんじゃないの? 警戒は必要だし、なにより私だけ休憩している気がしてなんだか悪いわ」
従魔にしといて何を今更、というのもアレだね。
「いいんですよフィリー姉様。今のところ戦闘でお役に立てないのですから姉様の休憩中や、何かの事態に備えるべき時に備えておくほうが間違いありませんよ」
迷宮内では何が起こるかわからないだろうし、アイテムボックスのリストが見にくいから確認できませんでした~では役立たずもいいところなのだ。戦闘以外でちゃんと役に立てるように備えるべきときに備えておきたい。アイテムボックスの使い勝手がもうちょっと良ければいいんだけどね。リスト表示は実物を見ないでも出し入れできる点は便利だけど、常に一覧表示なので見にくいことこの上ないのだ。
「ん~そこまでしなくてもいい気はするのだけどね。ユウのやりたいようにやりなさい」
さて、休憩時間もそろそろ終わり。今日の目標は第5階層ってことだしもうちょっとがんばりましょう!
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「というわけでここが中継ポータル。次からここから再開可能になるから覚えておいてね」
5階層ごとに設置されている安全エリア。普通はこういったところで休憩するのが常なのだけど、他の学生の目もあって姉様はあまり好きではないようだ。なのでわざわざ迷宮内の比較的安全と思えるところで休憩するようにしている。
話がそれたか。えっと5階層ごとの安全エリア内には目印みたいに床に模様が描かれている。いわゆるワープポイントみたいなもので、ここまで到達すると部屋に登録される。以後ここと入り口にある似た部屋から直接の行き来が可能になるんだ。
パーティーメンバーの誰かがいれば一番深いところまで……とはいかないのが面倒なところで、メンバーの全員が到達した階までしか進めない。それは従魔や奴隷でも例外ではないらしい。小動物程度なら例外だったそうだけど、僕の場合間違いなく人間扱いなのでそういった抜け道は通れないそうだ。なので地道に進むしかない。ほんと面倒だよ。
「さて、とりあえず第一目的まで到達したけど、どうだった? 思ったより疲れたんじゃないかしら?」
戦闘はほとんどおまかせ。僕は索敵やフォローに徹していたからそこまで疲れていないと思っていたんだけど、やっぱり始めてのダンジョン探索はそれなりに疲れているような気はする。でもあまり時間もないんだよね。うん。まだ大丈夫。HPとか減ってないし。MPもそこそこ使ったけど100も減ってない。
「大丈夫ですフィリー姉様。というか僕のステータスを見ればそこまで酷くもないことはわかるんでしょ?」
姉様からは僕のステータスは常時確認できるらしい。状態異常とかもわかるそうだから今どうなっているかなんて実は僕より詳しくわかるんじゃないかと思う。なんて思ってたら少し困ったように微笑みながら言葉を続けてくれた。
「ユウは、そうね~。我慢しちゃう子だからね。ステータスで出てこない疲労みたいなものとかもあるから、そういうのってちゃんと自覚しないと後々面倒なことになったりするのよ。これは貴方のためというより私のためでもあるの。私はこの程度の階層なら慣れてるから平気だけど、ユウが突然倒れでもしたら私が抱えて戻らないといけなくなるじゃない? そういう負担はなるべく背負いたくないの」
ん~平気だと思うけど、やっぱり変に心配かけちゃうんだろうか? 確かに色々感じるものはあったかなぁ。魔法生物とはいえ、攻撃を受ければ血は飛び散るし断末魔に叫びだってする。正直僕が直接手を出していたらもっと疲労?みたいなものが出てたと思う。でも横で見てるだけだし、匂いだって[消臭]で抑えてるし、途中適度に休憩もしてるしで今のところ順調そのものだからね。
「大丈夫ですフィリー姉様。もし本当にダメだと思ったら姉様の判断で帰りましょう。でも時間が無いのも事実なんですから、今日はいけるところまでいくべきだと思うんですよ」
まぁ本当に平気か?と聞かれたら厳しいけど、精一杯の空元気で笑って見せる。僕の役目は姉様のお役に立つことなんだから。
「わかったわよもう。それじゃ時間もあるしもう少し行くわよ」
なんだからはにかんだように笑う姉様を一緒に歩き始める。
無理の無い範囲でがんばりましょう。そのうちイヤでも無理しなきゃいけないしね。




