13.早速ダンジョンに! と思ったらそうでもないようです。
さて、微妙に暴走していたり赤面していたことはすっかり忘れて(頂いて)、僕とフィリー姉様とで必要アイテムの購入に来ていました。今日一日は準備に宛てて明日以降をバッチリ探索に当てようってことらしいです。
「そもそも十分な準備ナシにダンジョンに行こうだなんて考えてる方がおかしいわ。必要な下準備を的確に行うことが成果を持ち帰ることの一番の早道よ!」
と仰っているが、ソロなので何一つ油断できなかったからというのが実情らしい。普通なら必要最低限の荷物に収まるよう、ダンジョン内で泊まり込みみたいな真似は極力せずに済ますそうだ。
ダンジョン内部の話についてはその時にする方がいいってことで、とりあえず前準備に集中しよう。
「といってもユウがいてくれれば大げさでなく大体平気なのよね♪ ほんと助かるわ~」
そういう意味で[アイテムボックス]ってのは重要だったらしい。MPを使用しないスキルとしては破格の性能らしいけど、レベル3まで取らないとあまり有用でもないそうだ。レベル5まで行くと完全な[時間停止]まで上がるらしく、どうせならここまで目指したいところではある。間違いなく便利なスキルだしね。
「そ~はいってもやっぱり限界はあるから注意しないとね。あぁリストから引き出せるのは便利かも。ごちゃごちゃした納屋から物を探し出すなんてあまり考えたくないものね」
特に戦闘中に回復薬を取り出したいときなんかは間違いなくミスる自信がある。リストからの選択式ならまだ迷う率が減りそう。後で練習しとかないとダメかも? というか使いたくてうずうずしてる自分がいるのはやっぱりどうしようもないかもしれない。
「そうでなくても荷物持ちとしてとても便利よね~、やっぱりユウを召喚できたのはラッキーだったわ♪」
まぁ、役に立つと思ってもらえるなら嬉しいんだけどね。誰かに必要とされたことなんて数えるほどにも……あったかなぁ?
「さてさて、とりあえずはユウのスキル強化、及び私達の物資調達、そして簡単な金策よ!」
……えっと、何か稼げるスキルとか取るんでしょうか?
「やだ、ユウなら顔を見せるだけでもお金がもらえるお店だって……って冗談よ! そんなもったいないことしないから安心なさい。スキルも磨けてレベルも上がってお金も儲かるとっても素敵な事よ♪」
……なんだか疲れそうなことには間違いなさそうだ。
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買い物をとっとと済ませ戻ってきた訳ですが、今僕は自分に宛がわれた作業部屋のような所に居ます。といってもほとんど空き部屋で、何か物品の詰まっている木箱や紙の束等がどかどかと積んである程度ですけど。ちなみにこの荷物は僕が運びました。アイテムボックスってすごいね。本当に重くないんだから。ちょっと自分の体重が増えてそうで怖かったのはナイショでした。まぁそれはともかく。
「さって、まずは基礎的な技量の確認と反復練習ね。今日一日やって1レベルでも上がればラッキ~って言うところなんだけど、ユウの場合はレアスキルの恩恵でレベルアップが早いってのは間違いないと思うの。だから早速試してみましょう」
そう言って部屋に積み上げられた「紙の束」に手をかける。これをスキルでどうにかしろってことらしい。話の流れからそれくらいしかないのはわかる。けどただの紙をどうにかできるスキルなんて……ってあれかな?
「そうそう。まずは[術具作成]で『呪印紙』を作ってもらいましょうか。材料はこの紙とあとMPだけでいいはず。えっと、作成系スキルの補助をする魔法陣も仕入れてあるから、これをこうして壁にかけてっと……」
掛け軸のような巻物を取り出すと僕の目の前の壁にかけはじめた。円と四角を組み合わせた模様で、見ていると目がクラクラしてきそうな程に精密な模様が描かれている。って普通こういうのって地面に敷いてとかするんじゃないんだろうか?
「だって汚れたら困るでしょ? 液体とか扱う人だっているんだし。そもそもこの魔法陣には、周囲の空間を整えて集中しやすくする効果があるって言う話。成功率が+10%って代物だから結構優秀なのよ」
10%は確かにデカイ。ってそんな確率までわかってるっていうのも凄いなぁ。
さて、[術具作成]と[調合]の補助のおかげだと思うけど、特にレシピとか考えなくても作りたいものを意識するだけでなんとなくだけどやり方みたいなものがわかってきた。
まず目の前に紙を置く、そして必要なMP量を指定して『術具作成・呪印紙』と念じるだけであとは自動処理らしい。全く簡単だ。いやなんだそれってくらい。早速試してみよう。MPは10くらいでいいらしいけど、使えば使う程良いものができる率が上がるようだ。とりあえず倍……いや、せっかくだし5倍の50で行ってみよう。MPなんてすぐ回復するしね!
確認した手順で作業を進めると、突然僕の体が光り始めた。まるで漂うように光のモヤが紙に吸い込まれるようにしみ込んでいく。その過程で紙そのものが別のものに生まれ変わっていくのがわかる。例えるならわら半紙がコピーペーパーになっていく感じに。1分程発光が継続したが何事も無く光は消えていった。うまくいっていればこれで完了のはず。
出来上がった紙を取り上げお姉様に差し出す。
「こ、これでどうですか?」
ちょっと震えている気がするけど気にしない。僕も初めてなんだからこれで成功するとはあまり思っていない。でも成功してくれるといいなぁ。だって役に立てるかがこれでわかるんだし。
「……ユウ……」
真っ白な染みひとつない紙を見てフィリー姉様の手が震える。ちょっと表情がわかりにくいのがなんだか怖い。もしかして……失敗……?
「ちょっと教えて? これ作るのにMPはいくつ使ったの?」
いつもより少しトーンが低い感じ。何かやっちゃったんだろうか。
「え、えっと50くらいで……すけど、だ、ダメでした?」
本当はもっと必要なんだろうか? 100とか言われると確かに紙の束をまとめてやったし、でも3回くらいしかできないから結構効率悪い気がするんだけどなぁ……
「だ、ダメって、ダメって……」
ぶるぶると手が震えて止まらない。僕はちょっと気持ち悪い汗が出始めている気がする。いやほんとなんだこれ?
「ダメな訳ないでしょ~~! 何よこれっ! ちょっと自分で[鑑定]してみなさいっ! 多分間違いないからっ!」
と顔を真っ赤にして大興奮のご様子です。あれ? 逆!?
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呪印紙:呪紙魔術を行使する際に消費する触媒の一つ。あらかじめ魔術刻印を行う必要がある。(現在は未登録)。
品質:最上級品(行使する魔術のレベル+2・消費MP-30%・成功確率+50%)
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あ、とんでもないわ。そういえば見てフィリー姉様の使っていた呪印紙って小さい上にちょっと濁った色してたっけか。
「私の使ってるヤツは一般品。いわゆる普及品だから確かに安いんだけど、MP低減なんてとんでも効果なんて無いし、成功確率+50%!? どんだけめちゃくちゃなの! これ、この1シートだけでどんだけの価値が出るかわかったもんじゃないわ! 1万ゼニーくらいぶんどれそうじゃない。元手なんて一束で千ゼニーよ? 一束36枚で千ゼニー! って売るのはダメね。どこからユウのことを付け狙うバカつか湧きそうだし。まぁ万が一にも誘拐されたって私が既に主人として契約してるから奪われる心配なんて無いんだけど、それでも契約破棄とか強要されたりしたら困るしね……」
なかなか酷いことらしいです。流石にレベル3スキルはハンパないってことでしょうかね。おまけで取った[調合]もいい仕事してくれたような気がします。
「多分だけど、MPが多かったってのが一つ。普通10くらいでしょ? それが5倍ならそりゃぁ凄いことにって、ユウってMP回復強化取ってたのよね! それじゃぁそれぐらい使っても平気な訳だわ」
まぁ予想通りMPで強引に引き上げたクオリティだったようで。
「といってもこれだけじゃないわ。まず間違いなく一番の原因はユウのLUKの高さよ!」
LUK16ってのはかなり高い数値らしい。記録されている最高値は17だそうで。そりゃまぁ確かにそうなんでしょうけど、あとDEXも多少関係するそうだけど、LUKほどじゃないらしい。つまり僕は生産系に向いているらしい。
「といってもMPを50も使うとあんまり練習に……えっとユウ? MPはどれくらい回復してる?」
というので確認してみる。……あれ? 5分もたってないのに5くらい回復してるような……マジか?
「ふふ~~ん、結構いい感じね。だとしたら、調合と並行して鍛えればいい具合になりそうじゃない。じゃぁ次は『低級MP回復薬』にいってみましょうか」
えっと、集魔草というなんだかゼンマイに似た物と蒸留水、あと触媒として塩を少々ってことみたいです。う~ん、あんまり自信ないんだけどなぁ……
「いいから早く早く! 『女は度胸』ってものよ!」
いや、それ、使い方として……最近間違ってない気がするからなんとも言えないなぁ……
MP回復薬にはMPを消費しませんでした。その代りなんか妙に疲れます。何か隠しステータスみたいなものがあるんじゃないかと思うんですけどどうなんでしょうね? 眠気とかステータスに表示されませんし。とりあえず失敗せずに作ることはできました。用意してないのにビンに詰まった状態で出てくるのが不思議です。
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低級MP回復薬:服用、もしくは体に振りかけることでMP回復を促進する魔法薬。
品質:上級品(MP回復量 50~80)
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「よっし! 行けるわ! 呪印紙を作ってMPを消費したらMP回復薬を作ってその場で回復♪ その繰り返しね。さぁ、材料はたっぷりあるんだからじゃんじゃか作りなさい!」
僕の顔がとんでもなく青くなったことは誰でも解ってくれると思う。
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あれから5時間程経ちました。
もう寝たいです。あ、ゴハンも食べたいです。
ダンボール6箱分くらいありそうな真っ白な紙の束。品質ごとに整理して使いやすいようにとしておきました。結局MP回復薬は余りました。途中から品質が良くなったせいで回復量が増えたおかげです。最初の頃はたま~に下級品というのが出ました。1個しかない貴重品でしたけど。
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低級MP回復薬:服用、もしくは体に振りかけることでMP回復を促進する魔法薬。
品質:下級品(MP回復量 10~30)
一般品(MP回復量 30~50)
上級品(MP回復量 50~80)
最上級品(MP回復量 80~100)
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一般品は10本。上級品は32本。最上級品はちょっと少なくて17本。十分な在庫だって言ってもらえました。
問題は呪印紙。最上級品の上があるなんて思ってみませんでした。
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呪印紙:呪紙魔術を行使する際に消費する触媒の一つ。あらかじめ魔術刻印を行う必要がある。(現在は未登録)。
品質:伝説級品(行使する魔術のレベル+5・消費MP-50%・成功確率+100%)
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3束しかありませんが、それでもできてしまいました。伝説級品。
つやつやとした紙の表面が時折金色に輝く様子は間違いなく「これは普通と違う」と知らしめるに十分なクオリティです。最初は何かの冗談かと思いました。
ちなみに最上級品が32束。上級品が19束でした。レベル3から始めたおかげでこれ以下ができないという異常な結果です。
「もうあのクソ親父から呪印紙を買う必要が無いのね! っていうか使い放題なのね! しかも上級品がっ! ほんとありがとうユウ! 私貴方が来てくれて本当にうれしいわ!」
いやその、抱き付いてこないでください…… 恥ずかしいけど嬉しいですけど!
この結果は単純に僕の『ステータス』と『スキルのレベル』のおかげだということは自覚してた。本当の自分ってのがよくわからないし、こちらの世界で僕がどうなるかなんてさっぱりだった。
でも、借りものの力だったとしても、目の前の女の人をこれだけ喜ばせることができる力ならこれからも借りていていいんじゃないかな。そんな風に思っちゃったのはダメでしょうか?




