79話:乱入
ちょっといろんなことをやっていました。
極めて誠実に表現させて頂くと、サボっていました。
申し開きは無いっす!
リング状の港湾に銃声が響き続けている。
会場正門側の敵機を片付けても、まだ推定200機が暴れているはずだ。
さて、どうしたものかな。正直、俺にはいまいちやる気が無いのが問題だ。
50機も倒しておいてなんだが、この茶番劇に付き合うつもりはないんだよな。メリットないし。
テオドール卿とアルマとヒルダの二人を確保出来れば、さっさと撤退しても良い。
しかし、脱出する船とかの確保をしているわけでも無さそうだし、他面々の動向も不明だ。
タコ野郎は──まぁいいか。放置しててもくたばらないだろう。どっか勝手に行っちゃった。
「しかし先に聞いていた話と違う。異常に数が多い。もっと小規模だったはずじゃないか?」
ごめん、俺その話聞いてないのよ。
何がどういう経緯でこうなったか本当に誰も話してくれないんだよな。
「誰も話さなかったのか? おかしいな、社長が説明するって言ってたからてっきり──」
まぁ~たタコ野郎の策略かよ。勘弁してくれよ。
辟易とした気持ちで周囲を観察していると、"湖の中から"一機のギアが登ってくるのを見た。
敵機か──? いや、あれは海賊略奪同盟のギアだな。
海賊略奪同盟で多用される伝統的な左腕の機械槍と電磁針銃、そして肩に"推進器"を装備した、水陸両用型の二脚機だ。
水陸両用型。
これはギアのバリエーションのひとつで、その名の通り水の中に潜れる機体群のことを指す。
ギアは気密性にかなり致命的な問題を抱えている。
俺の【オンボロ】とか顕著で、外の火薬の匂いを嗅ぎわけることが出来る程度に隙間が空いている構造をしていた。
陸上で戦う分には浸水被害はそんなに考える必要がないが、ギアにとって――
いや、"中身"である知的生命体にとって水は大敵だ。
浸水したら、"中身"が溺れる。息が出来なくなるのはどうしようもない。
なので湖上都市に持ち込むのならば気密性の高い構造にしているAGか、一定の気密性を持つ鎧機。
そして海賊略奪同盟で用いられている水陸両用型でなければ、水に落ちるのはそのまま死を意味することに繋がる。
【バグベア】はその異常に堅牢なコックピットに対策が施されており、一応要件を満たした機体だ。
だから湖上都市の上で用いることが出来る点では、【ケンタウロス】には無い優位性といえる。
だから一応量産する意義は──
いや、でも浸水対策した【ハッチポッチ】のほうが絶対強いし安いな──
観察していたら水陸両用機からの通信が入ってきた。
「おう、ヴァレリア卿とセドリック卿か。こちら海賊略奪同盟のハンサムだ。今はギリ味方だよ」
今は、ってなんだよ。敵にまわるのか?
「いや、状況掴めなくてよ。30機程度って話だったけど何だよこの数。内戦じゃねえか。聞いてねえぞ」
予定の7〜8倍じゃねえか。あまりにも信用ならない情報だなぁ。
狙いはミード氏と、なぜか俺らしいんだが、なんだか敵の方針がふわっとしてるんだよな。
襲撃成功に伴い、ついでにミード氏を確保して、政治的優位性を確保したいのはわかる。
だが、俺に交渉を持ちかけたいか何かしたいんだろうが、そこまで重要な人物とは思えない。
攻撃目標としてはだいぶオマケだと思うんだが、しっかり敵方ではターゲット像が共有されているんだよな。
本当に理由不明だが、襲撃の目的として確実に組み込まれているらしい。
「なんか会場に居たときと口調が違うな──そっちが素か?」
あ、やっべ。演技忘れてた。
まぁいいや。ことこの場になって取り繕う必要も無いだろ。
そうだよ、俺はこういうのが素の荒くれ傭兵さ。
「いいね、そっちのほうが好ましい。正直、会場だと違和感すごかったぜ。
トンデモねぇバケモンがしかめっ面で飯食ってるもんだから、いつ爆発するのかと警戒してたくらいだ」
ぁ"あ"ん? こんならぶりーぷりちー美少女をバケモンとはいい度胸だな。おおん? バトるか?
「そういうところじゃないのか?」
セドリックが俺の言動にツッコミを入れた。
ええい今回はいいんだ。ドレス着込んでまでくっだらないパーティに参加したのに、飲み食いにまだ満足できてないんだ。
しかも意味不明な戦いに巻き込まれて、フラストレーション溜まりきってるんだよ。
暴れさせろ~!
そうやって愚痴を吐いていたら、ざぱり、と湖中から再び機影が上がってきた。
「暴れ足りないと申したな。ならば我らに付き合って頂こう。堕ちた【天使】よ」
数は三機。
知らない機体の姿だ。
しかし、そのシルエット。
機種は──騎竜型──
視認した瞬間、産毛が逆立つような気配を感じ、俺の脳は瞬時に戦闘態勢に移行。
直感に従い、その場から飛び退いた。
直後にその場にギア用の投擲ナイフが投げ込まれ、地面へと突き刺さっていった。
投げる挙動は一切目視出来なかった。高速で接近する一機に気を取られた。
緩く弧を描くような曲線の物理ブレードを装備した赤いドラグーンが迫ってきている。
「おら、行くぜ!」
大きい。中型――いや大型機サイズのドラグーンだ。
体格差から、この一撃を受け止められる気配が無い。
しかし先程の投擲ナイフの回避挙動は咄嗟の判断だった。
着地地点にまで気を配る余裕は無く、足場の選定にミスっていた。
倉庫街の建築資材に足を滑らせ、態勢を崩した。
まずっ──
荒々しく追撃してきた一機が背負っていた長物の武器をその膂力と共に解放する。
その両手で保持しながら、肩で構えていたその一撃を、俺に向けて振り下ろしてきた。
「させるか!」
突然の襲撃、しかしセドリックが素早く応対し横からレーザーブレードで弾き飛ばした。
対レーザーコーティング特有の輝く閃光がバチバチと拡散し、戦場を一瞬白く染め弾けた。
斥力により両者は弱く引き離され、地面を擦りながら間合いを取ることに成功。
──セドリック、ナイス割り込み! 助かったぜ!
素早く態勢を立て直し、シャードブースターを使って機動。【エスクワイア】の横に移動する。
「僕は盾役だからな。感謝しろよ。それはそうと、なんだこいつら。知り合いか?
どうやら恨まれてそうだが、またなんかやったのか」
セドリックが冷静に空気と距離を整えながら俺にボヤいた。
心当たりそのものはいくらでもあるが、俺がなんでもやらかしていると思うなよ。
リザードマンに恨まれる筋合いのあるやらかしは、あの1件しか無い。
──知らねぇな。リザードマンの知り合いはハレーしか居ねぇよ。
──ハレーなら思うことがあったら直接俺と決着つけに来る。なら赤の他人だよこいつらは。
そう軽口を叩いたら、襲撃者側に反応があった。
「流刑者! おおマジかよ。あの"同胞喰らい"生きてやがった!」
「祭司殿の知己か。やはり奇縁の運命に恵まれているようだ」
「驚き」
伝統的な物理ブレードと小盾を構えた機体が二機。他にも槍や投擲斧等色々持っているな。
両者ともに後方から投げナイフを投擲した見事な腕前だ。相当の熟練が乗っている。
それと、カタナを振るった体格と威勢が良いドラグーン。
口調からもだいぶ若いな。今の猪突猛進の一合は荒削りだった。
だが、最後の機体はジェネレータ二基構成機だろう。相当の腕力を持っていたはずだ。
舐めてかかるわけにはいかない。
伝統的な武装のドラグーンからセドリックに対して声がかけられた。
「騎士よ、退け。我らが目的は【天使】が一柱。貴君の行動に益はない」
その言葉を聴き、セドリックは──
「ふざけるな」
キレた。
「ふざけるなよカラス!」
俺ぇ!?
「厄介事に巻き込まれてるのはお前のせいだろ! リザードマンと戦う気なんかなかったんだぞ!」
そう発言した後、【エスクワイア】のビームシールドを展開し令嬢を守る騎士のように颯爽と俺の前に立った。
「だが、僕に退くという選択肢は無い。淑女を守るのが騎士の努めというものだ」
ビームシールドはまるでマントのように風に靡き、その騎士としての姿は迷いなく敵と戦う決意を固めていた。
──おー、かっこいいじゃん。ひゅーひゅー。
──このムーブが出来れば狙いの女の子もイチコロだな!
「あの! さぁ! ふざけんのも大概にしろよ!?」
セドリックさんはマジギレしてる。なんで?
そうして、敵機の三機が集結したところに、更に先ほどの海賊略奪同盟の機体が俺達に再合流してきた。
「リザードマンと戦うのか。唆るね。俺も後夜祭に参加して構わないかなマドモワゼル?」
ハンサムが横槍を入れて、戦闘への参加表明をしてきた。
意外だ。これは一切益が無い戦いだぞ。
楽しいドンパチで済む【バグベア】相手とは違って、戦闘種族であるリザードマンが相手だ。
危険度が跳ね上がるため、ちょっかいを掛けるだけでも生命に関わる。
ハンサムはきざな言動をしているが、熟練の船長だ。
冷静な判断を下せぬものにその席は座れない。
だから、損害を警戒して関わらないと思っていた。
損をするだけの状況だから逃走か、せめて静観にとどまるかと思っていたんだが──
「いやなに。俺としても姫さんを回収してさっさと帰らせてもらうつもりだったが、事情が変わったんでな。そこの坊やに言わせれば「レディを置いて逃げるのは紳士のやることじゃない!」とでも言うところか? そっちのほうがスマートだったかな?」
ハンサムは茶目っ気を混ぜながら真意をはぐらかした。
──そういうのスマートじゃないと思うぜ。もっとミステリアスさを演出しなきゃ。ま、後夜祭付き合ってもらうぜダンディさんよ。
「こりゃ手厳しい。さーて。湖畔で水遊びと洒落込もう。相手がレディで無いトカゲ相手なのが残念だがね」
後方の伝統武装の一機が答えた。
「私は胎生型のメスだが」
「おっと! これは失礼。お詫びにちょっと湖上都市外縁リングを散策する夜遊びデートとしようぜ」
「不快だ。だが海賊の勇士と見た。ならば相手に不足はない」
別の一機──この部隊の指揮官と思われる機体がセドリックに語りかけた。
「騎士殿は引く気は無しと見た、ならばその選択を悔いぬようにな」
そして赤いドラグーンの若武者が、吠えた。
「いいぜ、今の一合の結果が気に食わなかったんだ、次はたたっ斬らせてもらう!」
「やってみせろトカゲ野郎。僕の【エスクワイア】が容易く切れると思うな」
──陰謀だらけの楽しいドンパチの夜に、別の色が差し込まれて来たな。
──巻き込まれた身ではあるが、まぁ、やるか。
──【サークル・ザンバー】。踊ろうぜ。今からが本番だ。
にこやかに【サークル・ザンバー】は笑った。
シャードジェネレータの音が低くなる。やる気充分。いい感じじゃないか。
掛け声も無く、夜の湖上のリングの上で、六機の影が交錯し始めた。




