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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第十二章
120/122

12-8


「愛しいもの、愛でるべきものに対して愛情表現が壊すしか出来ないなんて狂人ね」

「美しいものに嫉妬して壊してみたら、逆にそれをより際立たせるなんて滑稽だな」

「守りたいという感情はあっても行動が破壊行為に繋がっているから大事な物から離れて、そのストレスを情欲で解消しているなんて、下種もいいところね」

「自分が壊したらより輝くから他のものにヒステリー起こしてハンマーぶん回すよりマシだ。それより、どういう心境の変化だ?」

「何が?」

「こうしている事が、だ」

「簡単よ。私は生まれ変わった。変わらない貴方と違って。なら、試してみたいでしょう。本当に醜い(ユリア)は消え、綺麗な私になったのかを」

「それで、これか?」

「そうよ。私は貴方から見て破壊の対象なのか、八つ当たりで衝動をぶつけられるだけのただの女なのか。それを確かめたい」

 互いに武器を突きつけたまま、割れた窓から月明かり差し込んでくる。青白い光に照らされた白い人形の姿に俺は--




 目が冷めてまず視界に入ったのは半分が壊れて無くなった天蓋だった。巨大な質量で叩き壊された痕を残すそれの向こうにある天井もまた大穴が空いているのを見て、意識が落ちる前の記憶が呼び覚まされる。

「…………」

 ゆっくりと上半身を起こしすと、横に突き刺さって刃をこちらに向けた剣が目の前にあった。もうちょっと勢い良く体を起こしていたら目を切っていただろう。

 腰を後ろにずらして刃から距離を取ってから改めて周りを見渡せば、俺はベッドの上にいた。天蓋が壊れている時点でお察しだが、元は豪華であったろうベッドは見るも無惨な姿に変わり果てており、足は折れて傾き、板が割れている。俺はその割れてV字型になったベッドの中にクッションやらシーツやらに挟まれた形で眠っていたようだ。我ながらよく眠れたものだ。

 そして隣を見ると、なんか白いのがいた。裸で。俺も裸だ。正確には互いに服の耐久値が減って破けた。

「デジャヴが……」

 思わず顔を両手で覆う。アマリアの時と同じような状況だった。あの時と違って酒の類は入って無かったのに。

 まさかまた変なスキルを覚えていないだろうな? 念の為にメニューウィンドウを開いて所持スキルを確認する。一通り見たらどうやら懸念していた事は無かった。しかし、こうしてスキルを改めて確認すると我ながら変な物を覚えているものだ。

 確認を終えてメニューウィンドウを閉じると、カチリと金属の歯車が動く音がした。音源を見れば白いのが動き出していた。カラクリ人形のような無機質ぁつ人間らしく無い動きで起き上がったそれは破れて半分になったシーツを大雑把に体に巻きながらベッドから脱出し、戦闘痕と散乱した(俺の)武器だらけの部屋を歩いていく。

 部屋の隅に置かれた奇跡的に無事だった台の上に置かれた水差しからコップに水を入れると一気に飲み干した。

「――勝ったわ」

「勝ったって、おい。別に勝負でも何でも……ああ、もう何でもいいや」

 本人が納得してるみたいだし。

 視界の端に意識を向ければ体力バーが三分の二にまで戻っていた。最後に記憶に残っている時はレッドゾーンに突入していた訳だが、睡眠での〈自然回復〉と〈自動回復〉があるのに全回復していないのはどういう事か。

 呪いなどのバッドステータスを受けていないか確認したところ、左の腕と足がヤバイ具合に骨折していた。ああ、そういえばヤられてたな。部位破損で最大値そのものが減少していたのか。しかも、〈自動回復〉で再生しないように折れた箇所に細い杭が刺さったままだ。

「お前、最悪」

 気付いた途端に痛くなってきた。杭を全て抜き、アイテムボックスから再生薬を取り出す。

「貴方に言われたくない」

 そう言って、水を飲み干した白い魔導人形シャノンは体に巻いたシーツの中をゴソゴソと探ると、何かが引き抜かれる音がして足元に短剣が落ちた。ああ、俺も刺してたか。

「股から何か垂れてる。あと臭うぞ」

「変な言い方は止してちょうだい。抜いたらさっき飲んだ燃料が漏れたのよ。塞がないと……」

 水じゃなくて燃料だったのかよ。まあ、シズネもその手の飲料を飲んでる時あるけど。

 腕の骨折を治し、割れて畳まれたベッドの上から這い出る。服着ないとな。

「お前も服着ろよ」

 アイテムボックスから装備を取り出しながら言う。

「こちらに用意してあります」

「…………」

 そして不意に聞こえた第三者の声。もう驚かんぞ。

 声のした方に振り返ればやはりと言うか何と言うか、畳まれた服を両手で丁寧に持ったシズネが立っていた。

「シズネ、お前いたのか」

「いました。まるで蛇の交わりや交尾しながら共食いする蟷螂のようでした。ぶっちゃけドン引きですね」

「覗いてたお前に引くわ」

「着替えて身支度を整えて下さい。何時遭遇するのか分かりませんから」

「遭遇? モンスターが近くで彷徨いているのか?」

「いえ、その逆です」

「ああ、誰かがグランドクエストを進めたのね。特定のフラグを回収すれば城から魔王軍がいなくなるのよ」

 なら襲われる心配は無い。それなのにシズネは何故急かすのか。まあ、何時までもマッパなのは確かに頂けないが。

 そう思ってアイテムボックスから取り出した服に着替えようとした時、部屋のドアが外から開いた。

「ここですか姉様!? お喜び下さい! 協力者である冒険者の方々が機獣将軍魏岸呉流鉄守きじゅうしょうぐんぎがんごるてっくす)を倒――」

 現れたのは先日見たお姫様であった。彼女は扉を開けた姿勢のまま俺とシャノンを見て硬直している。

「――し、たおし……たおし、ました。おじゃま、しました……どうぞごゆっくり…………」

 段々と小声になりながらお姫様は静々と後ろ向きに移動して、扉を閉めながら部屋から出て行った。閉まりきった直後、駆け去っていく足音が聞こえた。

「だから早く着替えた方が良いと……」

「お前、わざと曖昧に言ってただろ。それよりキジュウホニャララって何だ?」

 夜露死苦ゥ! みたいな発音だったけど。

「それを真っ先に聞く時点で貴方も大概ね。機獣将軍魏岸呉流鉄守はここに配置されてたボスよ。倒されたって言うならグランドクエストもとうとう終盤だわ」

「ああ、そう。所で、姉ってお前の事か? 種族は魔導人形だろ、一応」

「私の存在は後付け設定よ。実は王女には生まれて間もなく死んでしまった姉がいて、悲しんだ王と王妃が死んだ娘そっくりの魔導人形を作った。それが私」

 中々のゴリ押しだな。

 取り敢えず着替えながら雑談しつつ、シャノンの立ち位置を知る。

「レーヴェの妹の次はお姫様の姉代わりの人形とか、どうなんだそれは?」

「生まれなんてどうでもいいわ。こんな体に成った時点で殊更だけれど」

 白いドレスに着替え終えたシャノンはスカートを翻して部屋のドアを開ける。

「私はあの子の所に行ってくるわ。話はまた後で。貴方達は部屋の片付けでもしていなさい」

 シャノンは振り向きもせずに言い残してさっさと出て行った。話とかする事あったっけ?

「アール様からの言われていたじゃないですか」

 ………………ああっ! すっかり忘れてた。

「で、何を聞けば良いんだ?」

 それも忘れた。

「…………さあて、掃除しましょうか」

 侮蔑の篭った視線で主を射抜いたメイドロボは部屋中に散らばった武器の山を回収し始めた。

 着替え終えた俺はシズネが武器を集めている間、部屋を見回して何かが足りない事に気付いた。

「リュナはどうした?」

 生きてどっかで遊ぶか寝るか食うかしているんだろうが。

「探検すると言ってどこかに消えました」

「まあ、探検しがいのある場所だけど……」

 モンスターがいなくなったと言え、ダンジョン化している城のままだろうから絶対に迷ってるな。

「探してくるか」

「もうすぐ食事なのでそれまでには戻って来て下さい」

 一日も経っていないのに馴染みすぎなメイドロボだ。

 最早勝手知ったる他人の城な態度のデカいシズネを置いて、部屋から出る。静かで人気の無い通路は一国の王が住む城には相応しい絢爛な装飾がされている。所々に歯車があり、軽く両手で持てる程の大きさの鐘が置かれているなど無駄な拘りはあるが、それがシンボルならば仕方がないと言えるし、何よりそれが違和感を感じさせないデザインなっているので何も問題は無い。どころか調和したその構造は普通じゃない拘りを別世界だと見る者に認識させる。

 エノクオンラインのアートデザイナーは例の頭脳集団の一人が担当したと聞いたけど、そいつは本当に尋常じゃ無い仕事をしているな。

 暫く歩きながら見て回っていると、賑やかな声が聞こえてきた。半開きになったドアの部屋から聞こえた。

 密談とか怪しい感じではなく、その逆の黄色く姦しい声だ。普段なら、その女学生がよく分からん小物を見てただカワイイと頭悪そうに騒いでいるような場所に近づきたく無いのだが、聞き覚えのある声に仕方なくドアから部屋の中を覗き込む。

 何か女五人がガキを囲んで餌付けを行っていた。部屋の奥では椅子に座り辟易した様子でそれを眺める男が二人いる。

 女五人の内一人はシーラで、愛玩されているのがリュナであった。避難している男の方の片方は城下町で見た大剣使いだ。

 あいつら、無事に来れたんだな。門を守っていたモンスター以外にもボスモンスターがいたらしいのだが、一人も欠けた様子は無い。大したパーティーだ。

「あっ、クゥだ」

 髪が綺麗だの肌が柔らかいだの、食べてる姿が可愛いだの言われて餌を貰っていたリュナが俺に気付くと、輪の中から飛び出して同時に頭突きをしてきた。

「だからそれ止めろっつーの!」

 リュナの二本の角を掴んで受け止める。危うく突き刺さる所だった。

「あんたは……」

「ああ、昨日ぶり。お互い生きてたな」

 大剣使いと目が合ったので軽く挨拶を交わし、次にシーラへ視線を向ける。

「よう」

「ええ」

 短い。

 いや、リュナが頭をグリグリしてきて角が腹に刺さりそうなんで段々余裕が無くなってきた。こいつ、いつの間にか筋力のステータス伸ばしやがったな。

「二人は知り合い?」

 リュナを囲っていた少女の一人が俺とシーラの顔を交互に見る。

「レーヴェって言うんだ。よろしくな。ああ、〈イルミナート〉のギルマスとは別人だから」

 またレーヴェの名前を名乗ったのは意味は無い。ただ、お姫様にはレーヴェと名乗ったのを不意に思い出したのでそのまま続けただけだ。

 シーラからは冷たい視線を浴びせられる。

「え? リュナちゃんはさっき、クゥって……」

「腹の音かゲップだろ。そういう訳で、こいつの面倒見て貰って悪かった。じゃ」

 リュナの頭突きをなんとか横へと受け流し、横腹の横を通り過ぎる瞬間にリュナの胴体に腕を回して脇に抱えて追求される前にその場から立ち去る。

「あっ、待ちなさい」

 後ろからシーラが追って来、通路の天井からぶくぶくがヌルッと現れて続いた。


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