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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第十二章
119/122

12-7


「何だよこの城は!?」

 他プレイヤーを囮にしてまんまと鐘と歯車で出来た城へと潜入する事に成功した訳なのだが、中はダンジョンと化していた。

 歯車のギミックを使った構造が変化する部屋や行き先の変わる昇降機。何処からでも鐘の音が聞こえ反響して来るので感覚が狂い、振り子と言う名のギロチンが頭上から降って来る。

「ダンジョン化は予想出来ていたが、殺意あり過ぎだろ。というか、此処に本当に住んでるのか?」

 いつの間にか転移して別の場所を探索してたってオチは無いだろうな。

「魔導兵器の姿しか見ていませんが、こうして進行を阻んでくる以上、奥には何かあるのでしょう」

 シズネは言いながら銃器を付けたドローンのようなモンスターにトドメを刺した。

 城の内部には当然ながらモンスターがいた。ただ、中のトラップや構造の複雑さの為か出張ってくるのは小型ばかりで、囲まれないようにすれば相手は簡単だ。

「それに音が先程から聞こえます」

 鐘の音に混じって何かが破壊される音と振動が微かに伝わって来る。鐘のせいで震源は不明だが、こういうのは上か下と決まっている。

「上に行くか」

 上なら外れても周囲の様子を把握し、下へ降りていけばいい。地下だと外が見れず現在位置を把握し難いから、上から把握した方が分かりやすい。

 俺達が今いる部屋は下にシュレッダーの巨大版がゴウンゴウンと音を響かせながら落ちてくる獲物を待ち構え、足場は入ってきたドアから反対側ドアに続く長い通路が伸びているだけ。しかも、通路のすぐ上を分厚い刃が幾つも振り子のように左右へと動いている。ゲーム定番の用途不明過ぎる部屋だ。

 俺は天井から伸びるギロチンの手前まで移動し、刃が通り過ぎる瞬間を計ってジャンプし、天井から刃を支える棒を掴む。

 遊園地にあるでかい船に乗って大きく前後に振られるアトラクションみたいだが、違う点は落下防止の装置も無ければ下は地面ではなくシュレッダーな所だ。

「落ちたら死ぬな」

 横スクロール型アクションゲームの主人公はいつもこんな心境を味わっているのだろうか。もっと横道に逸れる事を覚えろよ。

「あーたーしーもーっ!」

 棒を伝って天井へ移動する。リュナが真似しようとしてザックリやられていたが元気だった。いや、止めてやれよシズネ。

 天井にはスリットがあり、狭いながらもそこを通って天井裏に入り込む。ただのゲームなら無理な行いだが、VRゲームでも無駄に作り込みが激しいエノクオンラインでは舞台裏に入るのも自由だ。そして生死も自己責任。

 わざわざ歯車の連動まで再現された内部の光景に分かっていても呆れながら、中のギミックを破壊していく。破壊すると下で振り子になっていたギロチンが動きを止め、シズネとリュナ、ついでにぶくぶくがギロチンを支える棒を登って来る。

 よく考えたらこいつらホバリングぐらいは出来るのだから最初から任せた方が良かったのでは? まあ、いいか。

「また派手にやりましたね」

 到着したシズネの一声がそれだった。

「そうか?」

 そんな事は無いと言いつつもやっぱりそうだよなと思う。

 ギミックを破壊しながら気付いたが、ここまで壊す必要は無かったのでは? こういうのは動力源と連動する部分を外してしまえば空回りするのだから。

 まあ、いいか。どうせモンスターが徘徊する普通の通路では無くここを通っていくつもりだったから、仕掛けのせいで狭かった場所を広くする為だと思えば良いのだ。

「きゃほーっ!」

「遊んでないで行くぞ」

 自分の身長ほどある歯車を見つけてはしゃぐリュナとスライムを引っ張って、とにかく上を目指す。

 こういう狭い場所ではリュナのぶくぶくは大活躍だった。狭い箇所に滑り込んで中から溶かし、固くなる事で歯車の噛み合わせを狂わせる。

「主人よりペットの方が頭いいよな」

「私とクゥ様と同じですね」

「………………」

 ぶくぶくやリュナが破壊して回る事で進むスペースが出来た裏部屋を進んで行けば、先程響いて来た音らしき物が近くで聞こえた。

 床に這い蹲り、耳を当てて〈聞き耳〉を使用する。

 下で戦闘が行われているようだった。あと、下品な高笑いが。

「うひゃひゃひゃひゃひゃっ! ほらほらどうしたァ。てんで弱っちいじゃねえか。オレ様無双状態ッ! ほらほら、お姫様を頂いちゃうよぅ。命的でも膜的な意味でも!」

「………………」

 声のテンションに対して自分のテンションが反比例していくのが自覚出来た。アッパーしたテンションで一方的に喋るのはハイドと一緒だが、この声は下品極まりなかった。同じく声を聞いたであろうシズネは表情を変えず目に侮蔑の色を宿し始めている。

「……はぁ」

 面倒だが、行くか。

 床板をナイフで素早く外し、下をロクに確認せず部屋へと飛び降りる。同時に格闘スキルの〈飛び膝蹴り〉を落下方向に向けて発動する。

「うごっ!?」

 蛙の潰れる音のような悲鳴が着地した床から聞こえた。

「ぐへっ!?」

 続いて重量級メイドロボが降りると豚の声。

「へべっ!?」

 最後にリュナとぶくぶくが降りて虫の潰れる音に。

「何ですかこの城は。トラップだけじゃなくてゴミまで放置してあるじゃないですか。仕方無いですね。代わりに掃除いたしましょう」

 シズネが槍を構えて床の推定ゴミをぶっ刺し始める。リュナも手を竜の爪へと変化させて真似する。翼の生えたゴミをメイドとガキが執拗に攻撃すると云うシュールな光景が出来上がった。

 ゴミの上から降りていた俺は命を狙われていた集団に視線をやる。いきなり天井から現れシュールな光景を繰り広げるシズネとリュナに唖然としているようだった。

 集団は、宝石などのアクセサリーは無いながらも生地の質が高そうなドレスを着たお姫様らしきNPCとそれを守るようにして立っている魔導人形のメイド達で構成されている。……ユリア似のNPCの姿は無し、か。

 おそらく、あの姫がグランドクエストの鍵となるNPCだろう。

「ほら、今の内にあっち行ってろ」

 犬猫を追い出すように手をひらひらと動かし、収納ベルトから大型武器:槌を取り出す。

「あ、あなたは一体……」

「レーヴェだ。いいから行け」

 人の名前を勝手に使う。いや、別に意味は無いし、こんなもんが嫌がらせになる訳が無い。なんとなく咄嗟に出た。

 ウチのシズネよりも有能そうなメイドロボ達は姫の安全が最優先と、お姫様を部屋の外へ連れ出していく。シズネと交換したいほどだ。

 彼女らが去っていくのを〈気配察知〉で知覚しながら俺は鉄槌を構え、槌スキルを使用。腰だめに力を蓄える視線になる。

「ハンマーコック」

 シズネとリュナがコミカルにただ敵をフクロにしているだけのように見えるが、何気にスタン系のスキルを使って動きを封じている。相手はネームドっぽいので長続きはしないだろうが、時間稼ぎにはなった。

「止めろォ! 舐めんじゃねえぞ!」

 ネームドが周囲に放電しながら翼を広げて勢い良く立ち上がり衝撃波みたいなものを放つ。

「チッ……」

「きゃっひゃーーっ!」

 だが、シズネとリュナは既に離脱して衝撃波の範囲から逃れ、飛び散る電撃もぶくぶくが盾になって防いだ。

「マグナムハンマー」

 放電が消えた瞬間、ぶくぶくの影から飛び出して大型武器:槌のスキル技を敵に叩き込む。

 吹き飛ばし効果で派手に飛んで行った敵であるが、空中で静止しやがった。

「よくもやってくれ--」

 何か言いかけた敵の額にシズネが撃った弾丸が命中する。通常攻撃なので大したダメージにはならないが、直ぐに別の銃へと取り替える事でシズネは本来連射が効かない銃を打ちまくる。同時にリュナが氷柱を作り発射するアイスニードルの魔法を発動しまくる。

「や、止めろお前ら! せめて名前とか目的を聞くとかあるだろうが! お前は何者だ、とか!」

「正体不明だから真っ先に攻撃してるんだろうが」

 言いながらスキルを使った硬直から抜けた俺は持っていた槌やら槍を投擲する。

 知ってる奴だったら不意打ちしていいかどうかは考えるし、そもそもどう見たって敵だろお前は。堕天使だし。

 プリムラと同じ黒い翼は堕天使の証。同時に管理AIである天使から脱却している時点でまともなNPCでは無いのだ。ここで始末してしまおう。某ストーカーでも変わらんけど。

「……オーケー、オーケー。力の差ってのを教えてやろう」

 直後、敵の姿が消えた。光ったと思えばその姿は完全に消えている。〈気配察知〉の警報がなるよりも早く俺は床を蹴って前に飛び出す。

「遅い」

 後ろから声が聞こえた瞬間、背中に強烈な熱と電撃が襲った。

「ガァアァッ!」

 口から思わず叫び声が出てしまう。電撃系って本当に体の自由が利かず、全身に電流が流れる感覚のせいで声が勝手に出てくる。

 幸いにも麻痺状態にはなっていない。後ろを振り向きながら槌を振って反撃を試みるが、背後に残っていたのは高速移動による残像だけで、堕天使の姿は既ににシズネの前に移動して拳を振りかぶっているところだった。

 放電しながらの打撃にシズネは槍で防御しながらも壁へと殴り飛ばされる。

「このヤローッ!」

 リュナが後ろから殴りかかるが、堕天使は光ったと思ったら逆に背後へと移動しており、後ろからリュナを蹴り飛ばした。

 雷による高速移動か。狙うタイミングは移動を止めて攻撃して来る時だが、無駄に知能の高いネームドもそれは自覚しているだろう。

「きひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ! オレの速さについて来れるかァ?」

 高速移動を繰り返して室内を縦横無尽に駆け回り始める堕天使。こちらにタイミングを読ませない為だろう。挑発まで混ぜて好き放題だ。

 それにしても、ハイドと云いアッパー系の連中はスピードに固執する法則でもあるのか。エコーする煽りもあって非常に鬱陶しい。

「こっちに集まれ」

 シズネとリュナを手招きし、槌を床に捨てて鞭と短剣を取り出す。短剣を胸の前で構えながら、スキルを使用して鞭を振り回す。本来なら自分の周囲を範囲攻撃するスキルだが、今は結界代わりに使う。

「馬鹿だなァ! そんなもん、離れて攻撃すればいいんだよ!」

 哄笑する堕天使の男は高速移動によって一瞬で鞭の範囲から離れると、そのまま移動しながら雷撃を連続で放ってきた。

「こっちの動きを止めるつもりだったんだろうが、見え見えなんだよ! このまま嬲り殺しにしてやるよ!」

 調子こいて大技を仕掛けてくるなら動きが止まってシズネの大砲やら弓矢が当てれたのだが、こう動き回られた挙句に一発一発は弱いながらも雷撃を全方位から連射されては反撃出来ない。

 今はただ身を守るしかなかった。

「あれ? ぶくぶくは?」

 いや、なんでお前は平然と立っている。ガードくらいしろよ。というか体力がガンガン減ってるぞ。

「自分のペットぐらい把握しておけ。ほら、ぶくぶくならあっちだ」

 そう言って、俺は次に堕天使が移動し雷撃を放つであろう空間を指差す。次の瞬間、堕天使がそこに現れるのと平べったくなって床に擬態していたぶくぶくが飛びかかっていくのが同時に起きた。

 あのスライム、〈ユンクティオ〉の馬鹿共が弄ったせいで色々とおかしな性能になっている。

 堕天使をそのまま飲み込もうとするぶくぶくに堕天使は反応し切れ無かったようで、高速移動を行う様子は無い。

 だが、ぶくぶくが包み込む直前、堕天使の体がぶれたかと思うと分身した。紫色の光で出来た分身は本体の代わりに飲まれたかと思うと体を四散させながら放電してぶくぶくを攻撃した。

 本体は既に離れていて、分身によって感電するぶくぶくを見て安堵の混じった笑みを浮かべ、不敵にこちらへ視線を向けた――瞬間に鉄塊が奴の顔面を打った。

 スーパーボールのように部屋の中を跳ね、最終的には窓を突き破って堕天使の男は外へと吹っ飛んでいく。

「喧しいカラスね。死ねばいいわ」

「お前は…………」

 足で投擲するつもりだった槌から爪先を離し、俺は鉄塊を堕天使にぶち当てた人物に視線を向ける。そして体格に見合わぬ鐘と歯車が組み合わさった奇怪で巨大な鉄槌を肩に担ぐ女の赤い瞳と目が合う。

 純白のドレスから伸びる白い手足。よく見れば関節部分には繋ぎ目が見え、首には首輪に酷似した白い装甲板。時計の針のような簪で結った髪は溶かした銀のようで、こちらを射抜く瞳は紅玉だ。

「貴方も貴方よ。勝手に人の兄の名前を使わないでくれる?」

 無機質な美しさを持った女は鉄槌を担いだまま歩いて来る。

「それは悪かった。ところで今のお前の名前は?」

「シャノン、よ。分かったなら――」

「ああ、分かったから――」


 ――死ね。


 どちらが先なのか、それとも同時なのか、俺達は初めて会ったあの時のように殺し合いを始めた。


今更だけどこの主人公と周りのヒロインの頭はオカシイんじゃないだろうか?

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