11-6
独特なエンジン音を轟かせるバイクに跨ったまま、崖から飛び降りる。直後、頭上を大量の影が通り過ぎて行く。
山あり谷ありという言葉があるが、山というか針山(落雷が仕様)の何とも物騒な光景の中をバイクで突っ切る。走るというか跳ねてると言った方が正しい移動方法だが、なんとかバイクの操縦にも慣れてきた。
嘘である。慣れるかこんなもん。
バイクの事なんて全く分からないが、アクセルがハンドル回して、ブレーキがレバーだけなんだけど、このゲテモノバイクだけの仕様? それともバイク全般がこんな操縦法なのか? 正気の沙汰じゃねえ。バイク乗りは頭おかしい。
そもそもロケーションが悪くてバイク云々どころか最初から全てに問題がある。
主人である筈の俺の金で勝手に購入されたこのバイク、遊びが無いと言うべきなのかピーキー過ぎる。ちょっとアクセル捻っただけでニトロでも積んでるんじゃないかと思うほど加速する。そのおかげで出発と同時にミノ轢いたし。カーブだと体重傾けないといけないから、急カーブすると偶に地面の頭が当たりそうになる。ブレーキすると慣性の法則がおかしくなっているのか後輪が浮いて前輪を基点に前へ回転しそうになった。
今走ってる場所もなんか魔界っぽい感じで物騒なほど鋭い山が無数にあって、何度か刺さりそうになるわモンスターが襲ってくるわで死にそうだ。
俺は北東地方から更に北東へと進む事で南西地方へと移動していた。実はエノクオンラインの世界は丸かったのだ。どうでもいいな。
ともかく南西地方に移動したのはいいのだが、位置的にシーラと合流しようと思ったら魔王城を横切らなければならない。勿論無理なので遠回りする訳だが、魔王城近辺だということには変わりない。
ここに来る途中でも木の魔王城の近くを通ったのだが、バカでかい木の城の周りに樹海が広がっていて、緑色の海からは植物型の怪獣が吼えていて正直近づきたくなかった。それでも怪獣の口から巨大な種らしき物体が発射されたので危うく潰されるところだった。
今は現在進行で遠くに雷の魔王城が見える場所を通っているのだが、スゲェの。遠くから見たら城を中心にバームクーヘンみたいに壁が何重にもあって、各所にモンスター達の駐屯地があった。対空砲と言うのか、生物を無理やり大砲の形にしたモンスターや刺々しい巨人までいた。戦時中かよ。
幸いにも雷の魔王城近くにいた強者オーラ全開モンスターに絡まれる事はなかったが、代わりに変なの釣れた。
「クゥ様、ハリーハリー。来ています」
後ろに座るシズネが急かしながら、銃をぶっ放す。狙いは絶賛こちらを追いかけて来ているモンスターの群れだ。
上半身が鳥で下半身が蛇らしい骨だけの外見をしたモンスターで、それが百匹近く追いかけて来ている。時折開いた嘴から雷撃が飛んできて、非常に危ない。一撃でも受けたら多分麻痺する。そして事故る。モンスターに殺されるよりも早く事故死するだろう。現実世界では乗り物系の免許持ってないのに事故死とか勘弁してほしい。
ただでさえ剣山を巨大化させたような山の中を走っているのだ。一体一体弱くてもあんな数相手にしていられない。
シズネが狙いを特に定めず牽制でモンスターに発砲している間、俺は運転に専念する。
舗装された道どころか剣山の側面を跳ねて進む。レーシングゲームじゃ必ず壁にぶつかるかコースアウトしまくる俺にはやはりバイクなんて無理なのだ。
ゲーム故の現実離れした運動能力がなかったらとっくの昔に横転事故を起こして死んでいる。
最早自分がどう運転しているのか分からないほど精神が参り始めた頃、骨のモンスター達が放つ雷撃が進行上の剣山に当たっていく。
「あっ、ヤベェ」
こういうピンチほど正気に戻ってしまう。
崩壊を起こす剣山は他の尖った柱をも巻き込んでは次々と倒れていく。
俺、知ってるぞ。こういうのはブレーキを踏んだら死ぬのだと。躊躇ったらそこで人生終了だと。
「お約束ですね」
「要は開き直ってアクセル全開だな!」
既にアクセル全開だったからこれ以上は速くなんねえよ。今日こそ俺の命日か。
倒れていく剣山の一角の上でバイクを走らせ、その上で更に落ちてくる槍のように鋭い岩を潜り、仮の道の先端でジャンプ。
プロじゃないから当然姿勢を崩してしまい、宙で横倒しになる。
「あーあーあーあーっ!」
意図も無く叫びながら収納ベルトから鞭を取り出して振り、落ちていく剣山の一つに巻きつける。そして両足でガッチリとバイクを挟む。
そのままターザンしようとして足からバイクがすっぽ抜けた。
「やっぱり無理があった」
「なら、やらないで下さい」
後ろに乗っていたシズネがバイクと共に飛んで行きながらも突っ込みだけはした。
そのまま放置する訳にもいかないで崩れ落ちる剣山の中を瓦礫などを踏場にして追いかける。
その間、シズネは自らハンドルを握ってバイクを走らせる。運転出来るじゃねえか! くそ、あのメイドめ。最初からお前が運転しろよ。
スピードは俺の時よりも出てはいないが、加速で無理やり突破していた俺と違って、シズネは小刻みにバイクを左右へと走らせて落ちてくる剣山を躱し、他の瓦礫の側面に跳び移っていく。
乗り物を失った俺はスピードが無い分、小回りが利く。〈壁走り〉で崩壊し落下していく瓦礫の上を走り、バイクを追いかける。
「というかお前、もう少しゆっくり走れよ! 追いつけねえだろ!」
『無理です。気の緩みが事故を起こしますので。頑張って生き残って下さい、クゥ様』
「このアマ――っと!」
ドミノ倒しで崩れていく剣山の一部がとうとう俺の足より速く、足場が崩れて踏める所を無くした。
アイテムボックスから端にワイヤーの付いた投擲槍を取り出し、跳躍。宙で槍を〈投擲〉スキルで投げる。
槍はシズネの進行上に突き刺さり、通り過ぎ様にシズネがワイヤーを掴んだ。槍の刺さった場所とシズネ、そして空中にいる俺がワイヤーで繋がる。
甘く掴んだワイヤーは火花を散らしながらシズネの手の中で動く。槍が刺さったまま動かず、シズネがワイヤーを待ったままバイクで移動を続ければ、ワイヤーのもう一方の端を持つ俺が引っ張られるのは当然の事だった。
「だからスピード落とせッ!」
『嫌です』
こいつ、無理じゃなくて嫌って言いやがった。
ゲテモノバイクのスピードで宙から地面に向けて引っ張られるというのはジェットコースターより怖い。命綱みたいなセーフティが無いのだから当然だ。
なんとかバイクまで堪えてシズネの後ろに座る。ワイヤーはそのまま捨てる。
背後ではドミノ倒しがようやく終わり、全ての瓦礫が地に落ちた。巻き上がる粉塵を抜け、ようやく平地と言える場所が視界に広がった。
「死ぬかと思った」
「クゥ様の死ぬかと思ったは信用できません」
「俺もお前との主従関係が信じられん」
俺達を追いかけてきていたモンスター達は崩落に巻き込まれて死んだようだ。後ろを振り返れば剣山のような山の上に数匹飛んでいるのが見えたが、追ってくる様子も無い。怪我の功名と言うべきか、トレインしながら行く心配は無くなった。
バイクのスピードを落とさせ、シズネにフレンド機能でシーラの現在位置をマップに表示させる。
「すっげえ今更だが、何で世界を半周近くしてまでアホの面倒を見ないといけないんだろうな」
「放置して陵辱展開ですが。鬼畜ですね」
頭にバグが湧いているロボの文字化けを無視してマップを見直す。
リュナの位置はジャミングで不明だが、それを追いかけているシーラの位置は分かる。
ここ数日、シーラは小休止で時折止まったりはしているもののずっと走り続けている。リュナの為にご苦労な事だ。下手したら途中で疲労値が溜まってフィールドの真ん中で倒れモンスターの餌になるかもしれないというのに。
今までの軌跡を考えると、シーラはリュナを攫った連中を何度か見失うもののその度に再捕捉している。今も移動に迷いが無いので追いかけている最中なのだろう。
「如何致します?」
「折角先回り出来たんだ。待ち伏せしようぜ」
「待ち伏せですか」
「ああ、待ち伏せだ」
「……楽しくなりそうですね」
こいつって元はメイドロボだった筈だよな?
「クゥ様、もう間も無くです」
見張りをしていたシズネに起こされて目を開ける。鼻を摘む起こし方は止めろや。
シズネ経由でシーラに罠を用意したポイントへと追い込むよう指示を出した。リュナがいると思われる馬車が通るには十分な広さと凹凸の少ない場所を選んで罠を仕掛け、あとは引っかかるのを待つだけ。
小さな丘の影に隠れながら寝転がって、ただひたすら待った結果がもうすぐ出る。
双眼鏡(鷹の目を併用すれば更に望遠倍率アップ)を取り出してシーラが来るであろう方向を見ると馬車が起こす土煙が見えた。その後ろでは馬に乗ったシーラの姿もある。上手く追い込んでいるようだ。
馬車の荷台の中におそらくリュナがいるのだろう。手綱を握るPLと追ってくるシーラ警戒するPLの計二人の姿が見えた。少なくとも二人以上のPLが敵か。
「もうそろそろだな。Cを踏みそうだな」
アンブッシュ用のトラップは複数箇所設置してある。相手の進路をピンポイントで予測出来ないので保険は沢山用意した。
「そうですね。シーラさん、止まって下さい。それ以上は巻き込まれるので」
フレンドチャットでシズネが警告を出す。
聞き届けたシーラは馬のスピードを緩め出した。追われている馬車は逆にそのまま走り続け――真上に吹っ飛んだ。
地雷だ。〈罠作成〉で踏んだら動きを止めるトラップを仕掛け、そこから連動するような極簡単な着火の仕掛けを作り、地面の下に隠した大量の爆発薬に引火するようにした。
「行くぞー」
「はい」
予想より遥かに大爆発したけど別にいいだろ。現実と違ってすぐ死なないし。仮にも南西地方にいるPLなら大丈夫だ。多分。
リュナ? 平気なんじゃないか(適当)。
隠れていた丘の下に停めていたバイクに二人乗りして現場に向かう。
やっぱり、PLは生きていた。
「い、っ……な、何が?」
「ちーす、メイドデリバリーでーす。メイドロボを一体お届けにあがりましたー」
体を起こそうともがくPLをバイクで轢き、ブレーキしながらバイクを反転させてもう一人の顔面を後輪で跳ね飛ばす。
バイクが停まる寸前にシズネがバイクから軽い動きで、それこそ椅子から立ち上がるような気軽さで降りる。右手にはヴェチュスター商会謹製の新品の槍、左手にはライフルが握られている。
「どうも仮ご主人様方。ご奉仕に参りましたー」
棒読みで言いながらシズネは一人に近付き背中から槍を何度も突き刺し、ライフルでもう一人を撃ちまくる。
地雷には痺れ薬を塗った小型武器:刀剣が大量に飛び出すようにしていた。運が悪く、肉体抵抗値が低ければ連中は思うように体が動かない筈だ。
変にノリの良い外道ロボを放置し、俺はバイクから降りて馬車の残骸へと向かう。
やっぱり量が多かったせいで、原型を留めておらず良い感じに燃えている。
「おーい、生きてるかー」
アイテムボックスからフェブリスに貰った瓶を取り出して地面に叩きつけて割る。
「――――」
〈淫魔の息吹〉を発動させて紫色の煙を馬車へと流し込む。すると、中から悲鳴が聞こえて三人目が飛び出してきた。やはり外にいた二人以外にもいたか。
悪夢を見ている三人目はそのまま悲鳴を上げながら走り、シズネに蹴り倒された。既に最初の二人は縄で縛られていた。
三人目も下手に形の残った荷台の中じゃなくて外に放り出されていれば、変に抵抗せず前二人のように苦痛だけで済んだろうに。
他人の事はともかく、荷台の中を確認する。直後に馬の蹄の音が聞こえてきた。
「さっきの霧は……」
駆けつけながらも俺のスキルが見えたのだろう。動揺するような声が背後から聞こえた。
「いえ、今はどうでもいいわ。そんな事より、馬車ごと爆破って何してんのよ!」
レズのシーラが突っかかってきた。切り替えが早いのは良い事なんだが、荷台の中を確認した後だと間抜けだ。
「使えないお前よりマシだ」
「はぁ?」
馬から降りたシーラに振り返りながら、俺は火が燃え移った荷台の壁を形成する布を取っ払う。
中には誰もいなかった。
「――え?」
シーラが慌てて周囲を見渡すが、地雷で吹っ飛ばされた二人のPLと隠れていたPLの計三人しか居らず、リュナの姿は無い。
「まさか、死――」
「そんな訳ねえだろ。そんなすぐに殺すぐらいなら最初から攫おうなんてしない。お前、偽物摑まされたんだよ」
要は、囮だったと言う訳だ。あー、くそっ、面倒臭ェな!




