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気の活用術(後悔)

お越し下さりありがとうございます。

「俺に出来る気の操作ってどの辺りだ?」


ソファーに深く腰掛ける明周が周の顔を覗き込む。


「覚えて頂きたいのは気の盾でしょうか?」


周が当然のことと言わんばかりに答える。


「難易度が高すぎる。」

にべもなく却下する明周。


「.......。」


「初心者向けのものを頼む。」


「.....お茶を温める。」


「コーヒーも茶も変わらない。あれは理屈が理解できないから俺向きじゃないよ。」


「......洗濯物を早く乾かすとか?」


「洗濯物を乾かす事が、この先あるのか俺に?」


「うっ、多分無いかと......。」


いくつか思い浮かぶ物もある。しかし、どう考えても初心者向きでも明周向きでもない。不穏な気のあつかいに周は困り果て天を仰ぐ。


「どうだ?」


もう涙目になりながら初心者向け気の使い方を探す周が面白すぎて明周は追及をやめられない。


「気の使い方ではありませんが、気を鍛えて濃くするといいますか、増やすことならどうでしょうか?」


周にしてみれば苦し紛れの妥協案だった。


「気の総量は訓練で増えるのか?」


(それは周の失ったものの充填に当てられると言うことか?)


別の希望を見いだした明周の瞳が強く輝く。


「まあ少しずつですが......。でも今回のは総量ではなく、今使える量の方ですね。

一般的には気を練ると表現する方法です。」


「やってみたい。」


明周が食い付くように答える。


「では、入り口から。

右の手に気の塊をイメージして左の手に渡して、左の手からも気を少し足して右に返すこれを繰り返します。」


(なるほど、周にしては分かりやすい。これなら何とかなりそうだ。)


明周は言われた手順を繰り返す、しかし手のひらの気はふわふわと掴みどころがなく、集まっているのかいないのかも定かではない。ましてそれが増えていくなど、実感が湧かない。


そっと周を見ると難しい顔をしている。


何かがまずいようだ。


「我が君、私とやってみましょうか。」


周が右手を差し出した。


「他人となんて危なく無いのか?」


「まあ、お日様色と淡い金は比較的似ているので、注意すれば大丈夫だと思います。」


『言霊』『可視化』


気の色が明周にも認識出来るようになる。さっきの視覚の共有よりは数段負荷のかからないこれに、始めからこっちにして欲しかったと明周は訴えたが、気の存在を知らないものに可視化だけでの共有は難しいのだと説明された。


周の手のひらに米粒のような金色の気の塊が出来上がる。

これを核に雪だるま式に気を増やそうというのだ。


「左手をお出しください。」


右手を出そうとする明周を制して、その左手の気のモヤに周はそれを慎重に乗せる。


すると金の米粒がモヤを吸い僅かに大きくなる。


「.......!」

明周が二の腕あたりから気を動かして左手のモヤを濃くする。


米粒がさらに少し大きくなる。

まるで自身の気が周の気を育てているような錯覚に陥る。


明周が感嘆に震えるなか周が言葉を綴る。


「後はご自身の左右の手で気のモヤを吸わせながら大きくしてみましょう。」


しかし、感動しすぎた明周には周の声が届いていなかった。


「これを周に返せば良いんだな?」


(たとえ僅かでも、これを毎日俺が続ければ.....。周が前のようになれる手伝いが俺にも出来るかもしれない......。)

明周の左手が周の右手に戻ってきた。


「危ない!」


他人同士の気は何もしなければ反発しあう。性質が似ていても反発がない訳では無い。


先程は周がそのあたりのリスクを最小化して米粒を明周の気に馴染ませた。


それでも馴染みきれない反発はそっと周が引き受けた。


しかし今回のはその工程を飛ばした気と気のぶつかり合いだ。


先程と同じにはならない、反発がどちらにどれだけ降りかかるかも不明だ。


(我が君にかすり傷一つ付けはしない。)


周は覚悟を決めて明周のお日様色に染まった米粒を受け入れる。それこそ全力で、反発など二人の間では決してさせはしない。


暴れる金とお日様は全部自分の中に......。


右腕の中で二つの気がぶつかり反発する。

お互いを削り打ち消し合う、引きずられるように右手の感覚が鈍く重くなっていく。


(良かった。これが外に出なくて......。)


周は左手で動かなくなりつつある右手を庇う。



軽い反発音に明周が我に帰ると周が右手を押さえてじっとしている。左手の袖が邪魔で明周には周に何が起きているのか視認できない。


「どうした?周。」


「いえ。たいした事ではありません。」


「いや、でも。」


「大丈夫です。それよりどこも痛くはありませんか?」


「俺は、何ともない。」


その言葉に安堵したように周は笑う。


「私の説明不足です。申し訳ございません。

良いですか、我が君。他者の気を癒合させるには手順が要ります。

今後は不用意に気の塊を人にぶつけてはいけませんよ。」

平静を装ってはいるが、周の額には玉の汗が浮かんでいる。

(周は気の反発で傷付いた......。何故?俺は無傷なのに。)


左を前に半身に構えた姿勢で右手を決して明周に見せはしない周の姿に明周は動揺を隠せない。


周は一見普通なのだ。うっかりしていれば見過ごしてしまうほどに......。

ただ、いつも懐に忍ばせている小石を左から右に移しかえている、傷付いた右手に代わり左手で投げ易くする為なのは明周にでも分かる。


「今すぐ、医療棟へ行くんだ。その手を診てもらえ周。」


「じきに代わりの剣士が来ます。それまではこちらに居させて下さい。」

医療棟へ行くように勧める明周の言葉に周は首を縦に振らない。


「お前が動かないのなら、俺が動く。」


明周が周を押しながら戸口に向かう。


「駄目です!明周宮(ここ)から出ないで下さい。今の私では対応できることに制限が......。」


(ほら。対応出来ないなんて、言い出すお前が異常事態なんだよ......。)


「どうでも良い!アルカナ城内の危険など大したことはない。お前の腕が、剣士の利き手が......。」


声を荒げる明周に、周はため息を吐く。


「この程度、想定の内です。剣なら左手でも扱えます。

私は言霊使いなので大丈夫です......。

あっ文官か。そうだ、文官なので剣が握れなくても問題はないはずです。」


(筆を握るのは利き腕だろう?周。)


一見すると普通なのだが言っている事がぐちゃぐちゃだ、決して普通ではないのだろう。明周は軽率な自分の行動を激しく後悔した。


ーーーーー

医療棟。


「腕の神経がズタズタですね。取り敢えず痛み止めと神経の再生を助ける薬を出しておきますね。いつも言ってますが、気休め程度ですからね......。」


もう周の無茶に慣れてしまったのだろう、淡々と医者が言う。


「なんて事だ......。」


「復元します。」


「誰が?」

医者が首を傾げる。


「もしかして、出来ない?」

明周の顔から生気が消える。


「出来ます!自分でします。大丈夫です。」

周が、医者を見据えて啖呵を切る。


「いつ?」

戸口から勇の声がした。


「もう少し、気が....落ち着いたら......。」

周の目が泳ぐ。


「どうしてそんなやせ我慢をするんだ!」

明周の声が震える。


「出来るから出来ると言ったのに誰も信じてくれない。どうしてですか?私は嘘は言わないのに......。」

周は心外だとばかりに天井を見上げる。


「普段の行いだろ?」

珍しく辛口の返事が勇の口から出た。


もう何を言っても伝わりはしない、周は口をつぐむことにした。


出来ることなら他者に今直ぐ復元して貰い。我が君に安心して欲しかったが仕方がない。


もう少し経って体内の気のざわつきが凪いだら自分で復元しよう。


大丈夫、こういうことに自分は慣れている。


(それにしても、神経の再構築程度のことが時間をかけても出来ないだなんて......。)

周は王都の医療に少しだけ疑問を持った。


後日。


「我が君、障壁を習得して下さい!

あの気の爆弾は最高です。後は反発を無効する手段です。

私は障壁が一番だと思うのです。

言霊?大丈夫です。

少し複雑な手順は必要ですが、

障壁は気の応用でも可能です。

さあ、最恐の一手を取得しましょう!」


周のおかしなスイッチがずっとオンになったままなのは、明周の責任なのだろうか?


お付き合いくださいありがとうございました。またお越しください。

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