気の活用術(脱線)
お待たせ致しました、お楽しみいただければ幸いです。
見れば分かる。
周にとっての常識は明周たちには理解できない。
見ただけでは分からない。
明周たちの常識も周には理解できない。
互いの理解の落としどころを模索する事数分、二人がたどり着いた答えは、ありきたりな実践形式の習得方法だった。
明周の左手を取りその手のひらの中程に周が人差し指を軽く当てる。
「私の指が当たっている辺りに意識を集中してみて下さい。」
「ああ。」
「何か、感じませんか?熱いとか冷たいとか?ヒリヒリする......みたいな。」
「んー、あっ、なんだろう?ゾワっと......。」
「ゾワっとですか?」
周が微妙な顔をする。
「俺には適性が無いのか?」
「あっ、いえ。そうでは無いのです。」
周が明周の不安を遮る、おそらく相性が悪かったのだと。
「少しお待ち下さい。」
難しい顔をして数秒考え込んだ周が不意に王墓での合言葉を口にする。
「優任せた。」
周のまとう気の質が緑から金に変化した。
明周の手のひらのゾワゾワが消える。
代わってふわりとした温かな感覚が手のひらに広がる。
「これならどうでしょう?」
「ああ、これは楽だ、温かい。しかし.....。
さっきのあれは、対魔女戦での合言葉だったんじゃないのか?」
明周が周を見る、大丈夫なのかと。
「切り替えただけです、問題はありません。こっちの相性が良くてよかったです。」
こともなげに答える周の表情を注意深く見ながら明周は思う。
無理をしている気配はない。この切り替えは周にとっては本当に大した事ではないのかもしれない......。弱体化してこの規格外とか、周の普通は我々の認識のどの辺りなんだ?
明周の困惑をよそに周の気の活用法講座は続く。
「意識して指の動きを追ってみてください。」
明周の手のひらの上で、周は指をゆっくり動かす。
温かなものを意識で追う感覚で明周は集中力を総動員して気の動きを学ぶ。
やがて手の中で気が動き出し、それが腕まで広がり、徐々に全身の気がゆらゆらと明周の意識に共鳴し始める。
「お上手です。」
明周の気の流れを観察していた周が嬉しそうに話しかける。
「そうか?」
その真っ直ぐな賞賛に明周はむず痒さを覚える。
思えば、こんなにストレートな賛辞を受けたのは何時ぶりだろう。
「はい、これを手や腕に纏えば盾の代わりに、指に集めて圧を上げれば、刃物の代わりにもなります。
隠し球、逆転の一撃という奴ですね。
勿論、総量の管理が出来て間違いなく余裕があると判断した時のみの攻撃手段ですが......。」
身振り手振りを交えて戦闘への気の応用を当たり前のように始める周の楽しげな姿を見ながら明周は不思議に思う。
どうして、自分がちょっと良い気分になったタイミングで周はそれをぶち壊しにくるのかと。
明周としては「お上手です」からの他愛のない会話を二、三往復したかったのだ。
存在を意識することすら出来なかった気を自力で動かせた。
この喜びの余韻に浸りながら、気の色と性質に何か法則は認められているのか、色は遺伝で決まるのか。
明周なりの小さな疑問や推論を周と語り合うひととき......。
(うん。最高の休日だ。周を相手にしてはそれは無理な相談だと理解はしているが。)
「その、もう少し平和的な、いや初心者向けの使い方はないのか?」
物騒なものばかりではないはずの気の運用が知りたくて、明周は周に聞いてみる。
「初心者向け.....ですか。」
「そう。初心者向けだ。」
「.....そもそもは盾ですが.....手に纏った気を少し大きくして、頭上にかざせば.....雨傘の代わりにならないことも....ないかと......。」
まるで考えた事が無いと言わんばかりの反応に明周は目の前の青年をやや不憫に思う。
信は間違いなく愛情を注いで養育していた。
爽や勇を見れば仲間にも恵まれている、この環境でなおコレが出来上がる......。
アルカナの神々は存外つむじ曲がりでイタズラ好きなのかも知れないなと明周は窓の外を眺める。
随分と悩んだ末にアルカナの最高火力と称される言霊使いが選んだ初心者向けで平和的な気の使い方。
「コレはどうですか?」
周がすっかり冷めたウインナーコーヒーだった物に軽く手をかざす。
コーヒーカップがカタカタと音を立てたかと思うと中のコーヒーから湯気が立ちはじめた。
「.......!」
明周の若草色の瞳が驚愕に見開かれる。
「魔法でも言霊でもありません。気でコーヒーの中の水の粒を細かく動かして、熱を生んだだけです。
これなら風呂もすぐに沸きますし平和的ではないでしょうか。」
周が明周の反応を伺うように視線を向ける。
(水の粒とは何だ?
水を動かして熱を作る?もう何を言っているのか理解できない。では水を張った風呂で存分に暴れたなら水は湯になるのか?)
自身の想像した絵面に明周自身が吹き出しそうになる。
「ククッ、ごめんごめん、周。もう良い。困らせるつもりも責めた訳でもないんだ。」
たまらず明周は笑いだす。
歪ではあるが素直なのだ、大きな力を暴走させる事なく扱えたのは師の導きと本人の努力。ここは追及し過ぎない方が正解なんだろう。明周は周の頭の中を自身の物差しで理解する事を諦めた。今見えている結果だけで十分じゃないか。
(そうだな、勇を手本とするか。)
「凄いな周!これでいつでも熱々のコーヒーには困らない。」
満面の笑みで明周はカップの中身を飲み干した。
これからものんびりとアルカナの日常にお付き合いください。




