いざ、決戦へ
お越し下さりありがとうございます。
「本当に二人だけで挑むのか?」
「もちろん。」
「二人ったって一人みたいなもんだぜ?」
他が居れば、それは憑依対象を作り、魔女につけ込む隙を与える事と同義だと周が言えば、でもボンクラとバディってほぼヤケクソの自暴自棄だと勇が悪態をつく。
「まわりは固めておく。存分に暴れておいで。」
爽は行っておいでと肩をたたく。
「式典の準備も王墓に二人で入る理由付けも完璧です。誰も近付かせませんよ。」
信じてますよ。と愁は帰還後の段取りまで口にする。
明周と周は静かに、王墓に向かう。
「本当に無茶をするわけじゃないよな?」
「大丈夫です。
勝算はあります。
それより、我が君。
絶対に打ち合わせ通りに結界から動いてはなりませんよ。」
(あそこだけは例えこの命が尽きようとも決して破られる事はない。)
ふわりと周が笑うと明周があからさまに嫌な顔をする。
「お前、また良からぬ覚悟を決めているだろう?」
「えっ?」
(なぜバレた?)
「良いか、これはお願いじゃない。命令だ。最優先は自分の命。二番目が俺だ。」
「承服致しかねます。」
珍しい周の即答に今度は明周が言葉に詰まる。
「ぐぅ。では同率でどうだ!これ以上は引けないからな、俺と周どちらも最優先!これで手を打とう。な!」
「承りました。」
渋々返事をする周を見ながら
不服と顔に書いてあるようだと明周は笑った。
王墓の中は静かだった。あの夜の嘆きが嘘のように感じられる。
明周と周は歴代の墓前に手を合わせ花を手向けていく。
では始めます。明周が予定の位置に着いたのを確認して周は
浄化を発動させた。
『言霊』 『浄化』
重い空気がゆるゆると軽くなる。
さすがにこれは明周にもわかるレベルだ。
「よどんでいたんだな.......。
全く気付かなかった。」
明周が周の方に目をやると、周が片膝をつき苦しげに胸を押さえている。
「周!」
演技ではない。
気力の消耗、これも魔女出現の条件。
油断は演技になる、だから弱る事にする。周はこともなげにそう言った。
なんて危険な発想だろう。
だから明周はその中での最善を必死に考えた。これはその最善だ心配する事はない予定通りなのだ、しかし......。
(俺は周を守ってやれない。)
「そうね。お前はまるでゴミ屑のようね。」
「いっそ自死でもしてはどう?」
魔女だ。
周のまわりに瘴気のもやがうずを巻く。
『......言霊』『浄化』
もやがすっと引く。と同時にぶよぶよと蠢く邪なものを周は斬り伏せる。
「へー、意外......。」
まだ動けるのねと魔女が口角を吊り上げる。
「まあ、こんなの誤差にもならないけど。うふふ。意識は残してあげるわ......。」
魔女がくらい笑みを浮かべると、辺りが闇に包まれる。
「しっかりと心に刻みなさい。
その手で主人を斬る感覚を......。」
勝ち誇ったような魔女の粘つく笑い声が王墓に木霊する。
『言霊』
辺りが周色に染まる。
『浄化』
「そう......。やすやすと......。絡め取られると?」
体力は削っていない筈なのに身体が重い......。どうやら気力と体力は連動するようだ。
しかし、ここで折れてはいけない。
「あら......。やせ我慢が、上手だこと。
でも私の勝ちよ。」
魔女の腕が周を抱くように絡み付く。
魔女の漏らす吐息が周の耳を掠める。
ぞわりと周の全身に悪寒が走る。
(......まだだ。)
「うふふ、大丈夫よ。殺したりしないわ......。まだね。」
「周!もういい!もういいから。」
随分と遠くで明周が叫んでいる声が聞こえる。予定通りなのに、どうしてあんなに必死のご様子なのだろうか。
「ほんとに耳障りな叫び声だこと。ねえ......。そう思わない?」
「.......?」
「殺しちゃえば?」
魔女の声が周の頭に妙に甘美に響いた。
「周!もういいから。もう......。」
「楽になれ。」
明周の声が目前で響く。
『言霊』
辺りが闇色に染まる。
「あら、意外と馴染みがいいのね......。」
魔女の言葉が周の口で紡がれる。
当たり前だ。全力で受け入れたのだから......。これで馴染んでくれなければ困るのだ。
「言霊 解除!」
周の言葉と同時に、足下の空間がぐにゃりと曲がる。そして、今まで無かった半坪ほどの空間が現れる。
「......!」
辺りを埋め尽くす淡い緑。周の気が満ちる。
魔女は自分が嵌められたことに気付く。
「おのれ......。」
怒りでわなわなと震える手を振る。完成しつつあった周への憑依を解こうとするが深く馴染み過ぎたそれは思うに任されないようだ。
『言霊』
辺りの気がいっそう濃くなる
「楽になれ。周......。」
暗い目をした明周が周の胸に短刀を突き立てていた。
(かかった......。やはり、残っていた。)
結界は完璧に機能していた。
外から明周に干渉できたものは何も無い。
それでも、明周の中に潜む魔女の呪は密かに存在していた。この瞬間の為だけに。
「うふふ。保険って大事よね......。」
魔女が笑う。
「......まったくだ。」
周もかすかに口角を上げる。
「優.......。任せた!」
辺りを包んでいた周の気が優の気に塗り替えられてゆく。
淡い緑から、やわらかな金へ。
そして、
優の気が周の技術で練り上げられる。
やわらかな金から力強い金へと。
『浄化』
浄化の言霊が全てを綺麗にしてゆく、王墓も明周の中の魔女の残滓も......。
魔女が呪詛を叫ぶ。
ただでは済まさないと。
(逃げられるものなら逃げてみろ。)
出鱈目な勢いで浄化が進む中、周は辛勝を確信していた。
(あ......。優が保たない。緑の気が帰ってくる。)
辺りの気の性質が変わる......金から緑へ。
金の気の呪縛が揺れる瞬間を魔女は見逃さない。
「なんて事、私を嵌めようだなんて......。
覚えてあげるわ。
アルカナの守護者。
今生の聖火は黒髪ね.......。」
去り際に魔女が周のすぐ横をかすめる。
(逃すか!)
『言......だ......。』
口から血が溢れて声が出ない。
「周!もういい。」
崩れる周を明周が抱えるように支えた。
魔女の気配は消えた。
魔女との対決もどうにか二戦目を終わらせることができました。完全浄化まであと少しですがその機会はもう少しお預けにする予定です。
目にとめて下さった方々本当にありがとうございます。




