王都にて2
お越し下さりありがとうございます。決戦前の悲喜交々ですお楽しみ下さい。
『言霊』 『結界』
辺りが周の気に染まる。
何故か机に張り付く様に小さく動く皆に周は首を傾げる。
「皆さま、いつも通りに動いて頂いて大丈夫ですよ。強度も大きさもいつもと同じですので。」
「えっ、そうなのか?弱体化とか言ってたから、てっきり一坪とかかと.......。」
皆が遠い目をしている。
考えてみてほしい、アルカナ全土を覆える結界を作る自分が、多少弱体化したとはいえ会議室程度も覆えない結界しか張れないなど、本気でまずいではないか。
自分が不在の間に何があったのだろう?周は少しだけ不安になった。
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「色々、割愛しますが。
私の生来の気は金です。」
「理は分かりませんが、記憶を無くした事で私の枠組みは一時的に酷く曖昧になったのでしょう。
そこに西の山での生活がはじまり、師匠の気の影響を強く受けることになった。
だから、生来と後天的な影響が半々に現れる稀有な現象。
金+青=緑になったのだと思います。
西の山の門下は皆、師匠の青の気の影響を少なからず受けていますから。」
「なぜ、金と言いきれるのですか?」
「見てきたからです。」
(優の気はやわらかな金だった。)
「会ったのか?自分自身に。弱体化はそれが原因か?」
会議室に緊張が走る、本当に気力と体力だけなのか?どこかおかしなところは無いかと、皆が周に駆け寄ってきた。
「ありがとうございます。
見ての通り大丈夫です。色々ありましたが、それもまたいずれ......。
今は魔女の話に戻してもよろしいでしょうか?」
周は続ける。
「じつは、腹案があります。」
王墓に魔女の呪に苦しむ歴代の王族の記憶の名残がある事、これを浄化すれば、必ず魔女は縄張りを主張するために現れる。そこを、明周と周の黄色と金の気で追い詰めて叩く。
「生来の気に戻すことは可能なのかい?」
爽が心配気に問う。
「まあ。理屈では......。」
( 心の状態を西の山で生活する以前に戻す。事実、ゆっくりとなら出来るのだ.....。恐ろしく時間が掛かるだけで。)
「後は、魔女に勝ち筋を誤認させる算段ですね。」
「あっ......。」
周は小さく声を上げた。
慎重な魔女のこと、こちらが油断無く万全で臨むことを悟られれば、現れない可能性もある。
さて、どうしたものか。
「万全で無くせば良いのですよね?
では私が気を削れば済むのではないでしょうか?」
「馬鹿か?これから総力戦を挑もうって時に気力を削るって何考えてるんだ!」
あまりの無謀に勇が異を唱える。
「体力を削るよりは健全だと思うのだけれど......。」
そもそも体力と気力の総量が違う。同じことをするならどう考えても気力だろうと、周は引かない。
(これ以上弱ってどうする?勝ち筋を拾う前に死にたいのか?)
勇は心の中で抗議するが口論で周(頑固者)には勝てないので一旦黙ることにした。
「気力を何かに預けて擬似的に気力切れを作ってみてはどうだろう?」
何かの本で読んだ覚えがあると明周が言い出した。
魔法の研究が盛んなドゥーラやサンドラでは、魔石なるものが存在し、それに魔力を貯めておくらしい。
そういう感じの物をうまい具合に作れないかと言うのだ。
「うーん。明周様、流石にむちゃぶりが過ぎるかと......。」
爽が苦笑し愁もそれに追随する。
「いや。有りじゃね?」
なあ周と、勇がニヤリと笑う。
「えっ......。何?」
「思い出せよ。アルカナ戦記ゴッコ。」
「うっ。いや、あれは......。」
周がやや困惑した表情で言葉を濁す。
「出来るのか?」
珍しく明周が食い付く。
「う......。そんな大層なものでは.......。」
周の目が泳いでいる。逃げても良いですかと心の声が聞こえてきそうだ。
王墓の一画
「どうよ!」
なぜか勇が得意気に見栄を切る横で、周が気まずそうに披露したのは、何年も前に子供の遊びのために使われていた言霊の応用だった。
時間差で発動する結界ーー名付けて、必殺・蒼天破邪絶影剣!
踏み込んだ瞬間に発動する言霊。
辺りの理をゆらりと書き換える言霊......。
「他にもいっぱいあったよな。絶望包囲網だっけ奈落の抱擁だっけ?」
勇が得意満面なのがむしろ羨ましい、と周はこれまで着実に積み上げてきた何かが音を立てて崩れていく様な感覚に耐えた。
そこにいる大人たちは驚愕に言葉も出ない様だ。
しかし、
元々は子供のチャンバラごっこのエフェクトに使われていた数々の言霊だ。
そして地味に名前が恥ずかしい。
(ああ。穴があったら入りたい。今更こんな黒歴史を......。)
周は今の状態を魔女が見たなら確実に急襲されるのではないかと思うほど、心がえぐられていくのを感じた。
「何というか......お前たちは。規格外とかそう言うのを。余裕で超えてくるね。」
爽が顔を引き攣らせている。
「これが、子供の遊び?」
愁が困惑している。
「すごいな!ダメ元で言っただけなのに。」
明周が嬉しげなのが救いなのか。更に羞恥心を煽っているのか微妙だ。
周の気を現在の総量まで溜め込むことの出来る小さな空間を作る。
それを空間ごと封印して無かった物とまわりに誤認させる。
更に、特定の条件で封印が解除されると、小さな空間に圧縮されて溜め込まれていた気は一気に周に還元される。
気力を満充電された周が帰ってくる。
周にしか作り得ない、気力の貯金箱の出来上がりだ。
不本意ながら、勇に黒歴史を公開された翌日。
王墓の段取りは皆に任せて。今日は休めとうるさいまわりの大人たちの意向を汲んで周は自室で気の変質に取り組んでいる。
周の気は緑。優の気はやわらかい金、
緑から青を抜く。周から西の山を抜く。
確実にこれで気は優に戻る。周の技術で優の気を操る。
勝ち筋を拾う為の絶対条件。
どうにかしてスパッと一瞬で周と優を切り替えたいのだが......。
「あっ、条件反射だ。」
周は閃いてしまった。これなら行ける。
(何かきっかけになる言葉を決めてしまおう。)
さて、どんな言葉にしよう。もう数年後に思い出して赤面する様な既製品の言葉はごめんだ。
今回のはきちんと自分で考えよう。
物語ももう少しでひとくくりです。お付き合いくださった皆様ありがとうございます。




