王都にて1
お越しくださりありがとうございます。
前半終了まで後数話です。よろしくお付き合いください。
「勇。分かった!
頼様と我が君は同じで。魔女は苦手で。陽威様と私は他の色なんだ!」
開口一番、周が意味不明の呪文を唱え。
「おう!やったな。なんか分からんが、それ勝ち筋って事だよな!」
勇が偉い偉いと嬉しそうに周にハイタッチしに行く。
「周くん。もう少し分かるように......。」
愁が困惑しきった様子で周に視線をやる。
「何だよボンクラと頼様がタッグを組んだら、最強ってことじゃん!わかんねーの?」
感覚派の勇がさらに訳の分からない事を言い出す。
しかも、周もぶんぶん首を振って肯定する。
「で、お前と陽威様で、ハイ終わったー!だよな?」
気まずそうではあるが、周がこれも肯定する。
そして、
お互いわちゃわちゃになりながら周と勇は喜び合う......。
何を見せられているのか分からず固まる愁。
今それをするのか、バカ後輩達......。
と頭を抱える爽。
周の王都帰還を聞き、慌てて剣士棟にやってきた明周が見たのは、ちょっと形容し難い不思議空間だった。
「周。兄様にも分かるように、もう少し丁寧に説明してくれるかな?」
爽の一声で我に返った周は顔色を変えて平謝りし始めた。
「ごめ....申し訳ございません。場にそぐわぬ行動でした。」
「あ、良いよ。色々あったしね......。体調は大丈夫なのかな?
西の山で充電できたなら何よりだ。」
苦笑混じりの爽が適当な合いの手を入れる。
「はい、お陰様で日常生活には支障が無いくらいには回復していると思います。
ご迷惑をおかけいたしました。」
周も柔らかく笑う。
そしてはっとして風呂敷を広げる。
「あっ 忘れてしまうところでした。」
紙束を手に取ると勇に向き直り周が問う。
「勇、私と同じで良かったのかな?
取り敢えず30枚筆跡も文体もそれっぽくはしてあるからこのままで使えると思う。」
「うぉ。俺のもやってくれてたのか?病み上がりなのに、色々ごめんな。すげー助かった!」
レポートの完成稿を手渡された勇は感極まって周に抱きついている。
「兄様は二倍くらいですか?」
勇の腕の中から周の声がする。
「ハハ、兄様は気持ちだけいただくとするよ。」
「残念、爽は三倍だよ周くん。読みが外れたね。」
爽の歯切れの悪い返事に周が困惑していると愁が楽しそうに割って入る。
「.......良かった。」
笑みを強くした周が勇の腕から抜け出すと、風呂敷きの中の残りの紙束を爽のところに持って行き、二つに分けて手渡した。
「こちらは60枚の完成稿ですが、35枚目にこちらの30枚を挟み最後に、こちらの一枚を結論の一枚と差し替えますと90枚の完成稿となります。」
保険をかけておいて良かったと周はご満悦だ。
「つまり、60枚、90枚、どちらに転んでもレポートは完成していると......。侮れないね。」
愁が複雑な表情を浮かべる。
会議室に微妙な沈黙が広がる。
「言いたくはないが、周。休養と言う言葉の意味をお前は知っているのかな?」
爽が皆の気持ちを代表して周にたずねる。
「.......?鍛錬も気を練ることもしていませんよ?」
ただ、軽微な家事とレポート作成という軽作業をしただけだと周は悪びれもせず答えた。
「ちび助、お前は馬鹿なのか?過労と弱体化で倒れた者が何故他人の作業まで買って出る?」
凱が周に詰め寄る。
「うーん。何故と言われましても、敢えて言うなら自分の蒔いた種?」
自分でも行動の動機は分からないと周は笑う。
ーーーー
「では、改めて......。おかえり周。」
爽が静かに周を抱きしめた。
「兄様。流石に......。ここでそれは、常識的に考えておかしいと思うのですが。」
周が爽の腕の中で抗議する。
「嫌なら、いつものように躱せばいいじゃないか。兄様はそんなに本気では抱きついていないよ、周はツンデレさんだね。」
昔は兄様兄様と無条件でくっついてきて可愛いかったのに、最近ではすっかりスキンシップを許してくれなくなった弟弟子の久々の素直な反応にちょっと調子に乗った爽が腕の中の周の頭に顔を埋めながらからかう。
軽いスキンシップと年長者のウザ絡みの混じった兄弟の時間。
そう、爽は本気で、周が納得してされるに任せていると思っていたのだ、周の顔を覗き込むまでは......。
「兄様。皆さまの目もあります。どうぞ、このあたりでご勘弁ください。」
キッパリとした拒絶を口にするわりに大人しい周の態度に、ふと違和感を感じた爽は腕の中の周を覗き込み絶句した。
周がこめかみに青筋を立ててじっと自分を見上げているのだ。
(しまった!匙加減を間違えた。どうしよう可愛い後輩に嫌われてしまう。)
盛大に狼狽えて固まる爽にもう一度周が声をかける。
「兄様、どうかお離し下さい。本当に怒りますよ。」
「周、爽兄は放っておいて俺と腕相撲しようぜ。」
不思議なことに無理矢理には逃れることはしない周に何か確かめるように勇が提案する。
爽の腕の中から周の溜息が聞こえる。
「嫌だよ。どんなに工夫をしても、ぼろ負け確定の腕相撲なんて。」
動かないのではない、周は動けないのだ。
超がつくほど一流の剣士の抱擁を振り解ける様な筋力も体力も今の周には無い。
部屋の空気が少し重くなった。
筋力も気量も以前ほどではないが、工夫次第で戦えるのだという周の説明を皆は複雑な思いで聞いた。
ーーーー
今すぐ自室で休養を取れと迫る爽達。
どうしても聞いて欲しいことがあると、うるさい周。
一歩も引かない両者の仲裁をしたのは明周だった。
「このままでは何も進まない、取り敢えず聞くだけ聞いてみてはどうだろう?それから、周は会議の後は必ず休養を取ること。分かったね。」
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会議室
「気を取りなおして会議を始めようか。」
しぶしぶといった表情で爽が会議の始まりを告げる。
「初めに少し確認してもよろしいでしょうか?」
まるで何事も無かったように通常運転の周が淡々と皆に問う。
皆は否応無くこの頑固者の手で会議に参加させられることを覚悟した。
ーーーー
「皆さまの中で気の色が見える方はいらっしゃいますか?」
周の突拍子もない質問に目を丸くした後、皆それぞれ首を横に振る。
「見えているのか?」
明周が驚愕の表情で周を見る。
「ずっと......。それが普通だったので、特異性に気付きませんでした。」
周が少し視線を伏せながら続ける。
「私の目からは、皆さま色んな色をまとっているように見えます。例えば、頼様と我が君は金や黄色に、陽威様は赤に見えました。私自身の気は緑です。」
(規格外、こんなのもう......。)
周は皆の顔を直視できない。
「すげー!なあ。俺何色?」
「えっ?赤......えっとぶどう色?」
「おう!そうか俺はぶどう色か。そのうちまた共有とかで見せてくれよな!」
ニシシと勇が笑う。
「さて、気を取り直して。続きを頼めるかな?」
いつ席を立ったのか爽が周の頭にポンと手を置くと何事も無かったように席に戻って行った。
「14年前の中の山の離宮と今回の魔女の急襲ですが。」
周が長い説明に入る。
14年前と今回は状況は似ているのに魔女が取り込もうとした人物の立場、立ち位置が真逆なことに違和感をおぼえたと。
「え?陽威様とボンクラなら 王族で立場一緒じゃん?」
「だーかーらー。結果はそうでも、初動は違っただろ?剣士が主人に庇われるなんて、思い出したくもない失態なんだからね。そこは色々と触れられたくない関係者が多い話題なんだから、大人しくスルーしなさい。」
空気を読まない勇に爽がお説教を始める。
やっと通常運転に戻った愁が、爽をなだめて、明周が話の先をうながす。
「魔女が立場以外の何かで憑依する者を選ぶなら、それは何かと考えていました。」
「うん。」
「その時、思い出したのです。
あの時、我が君の中の呪が外に広がらなかったことを......。」
毎日すごい速度で増殖する呪がなぜか明周の身体の外には拡散しなかった事実。
( あの夜魔女は、
頼様には憑依せず陽威様に憑依し頼様に死ねと言っていた......。)
「だから、考え方を変えてみたのです。
選んだのではなく避けた。なのではと......。」
「つまり。金の気は、魔女の嫌う何かがあるということか?」
「確証はありませんが、多分。」
「今なら、頼様の封印と周の浄化で弱々の魔女を倒せるって事だよな?」
「まあ......。」
(もう一つ、クリアしないと、ならない課題はあるのだけれど。)
周は視線を下げる。
「周、この部屋に誰も入れない様に。防音と防御の結界を張った方が安全じゃないかな?」
これを説明するには。また、ややこしい昔話が必要だと周が口を開きかけた時、明周が声をかけた。




