レポートって何?
お越し下さりありがとうございます。
大の大人がああでも無い、こうでも無いと頭を捻っているが既存の考え方ではどうにも上手くいく未来が見えない。
そんな中勇が一見乱暴とも見える案を熱弁する。
「そんなに気に病むこたーねえよ。半分は疲労なんだろ?筋力は兎も角、体力は寝てりゃあ回復するんだよ。」
「みんな忘れてないか、あいつは周なんだぜ。
絶対に俺たちの予想の上をいく奴なんだ。
お師匠の結界の中で安定しているなら今は放っておけば良いんだよ。
元々やれ結界だ神域だとアルカナ中を飛び回っていた男が数ヶ月や数年王城に姿を見せなくても誰も気になんて留めない。」
随分と乱暴な意見だが、そこまで悪手と言う訳でもない。
皆は押し黙る。
「まあ、妙案が出るまではこの路線でいいんじゃないかな。
愁、悪いがそれっぽい口実と書類を頼む。」
いっこうに進まない評定を打ち切ったのは明周の声だった。
これで話し合いは終わりと結界の解除を促し、漸く広くなった行動可能空間で皆はほっと一息つき伸びをした。
王族の側近や愁が会議の後片付けをしている隣で爽が師匠からの手紙を軽く再読しながら勇に声をかける。
「そうだ、勇、ここから下数枚はお前宛てだ。師匠からのレポート提出要請だね。」
爽がにこやかに勇に数枚の手紙を渡す。
「うぇ。何で俺ばっか。」
爽兄代わってよと泣きつく勇に爽が首を横に振る。
自分にはその三倍のノルマが課せられていると。
「レポート、何の?」
愁が不思議そうに爽の方を見る。
「ははは、まあ、色々とね。うちの師匠はちょっと変人だから。」
爽が曖昧に話を逸らす。
「師匠は周に甘めーんだよ。本人の前ではしれっとしてっけどよー。」
勇が悪態をつきながら、説明を始める。
さらに、自分宛ての数枚の手紙を愁に渡してみせる。
そこには信からの指示が事細くびっしりと書かれていた。
ーーー
さて、今回の周の置かれた事態はどこから何処までが想定内で、何処からが想定外なのか。そして、この結果を招いた原因と今後の再発防止についての提案を30枚のレポートで提出するように。
追伸、明周殿下にも同じレポートをお書きいただく事。
ーーー
(爽は90枚か、恐ろしくも興味深い師弟関係だ、それにしても爽、お気の毒に。)
愁は笑いをかみ殺しながら明周に手紙を回す。
「何で俺まで.....。」
いきなりのとばっちりに絶望の面持ちの明周が勇に縋るような視線を送っている。
そこに、桃がふんすと鼻息を荒くして身を乗り出してくる。
「あー兄様にお願いすれば良いのです!
あー兄様はいつもご自身の物どころか、勇兄様の分まで引き受けて、寝る間も惜しんで泣きながら作成されてましたもの、きっと、レポートが大好きなのです。」
( 二人分のレポート地獄......。家事育児付き........。)
「.......。」
その地獄絵を「大好き!」って......。この子、魔女よりタチが悪いかも。大人達はそれぞれの複雑な感情を桃に悟られない様に下を向いたり咳払いをしたりして誤魔化した。
翌朝、西の山に向かうと聞かない勇を爽が宥めている姿を見ながら明周は周に宛てた手紙を書いている。
内容は勿論レポートの添削もしくは代筆依頼と言いたいが明周にだってプライドはある。
本心を隠して労いの言葉を綴り、文末には自身の身体を第一に考えるようにと優しく諭す、絵に描いたような優しい主人からの手紙。
勿論こちらの思いも本物なのだ周は明周にとって臣下の一言では片付けられない大切な存在だ。
だから、これは明周の心の中でだけ言語化を許される弱音だ。
ーーー
周、頼む早く帰ってきてくれ......。俺の精神がお前のお師匠様に焼き切られる前に。
これこそが最悪手と分かりつつ明周は周の早期復帰を心から願った。
(ああ、俺も桃ちゃんについて西の山に行くことができたなら......。)
その頃、周も西の山で師匠の駄目出しに耐えつつ、レポートを作成していたのだが、そんな事に考えが及ぶほど余裕のある大人はこの辺りには居ない。
はたして、周は、自身の暴走を抑える仕組みを自ら作るという難題に答えを見つける事は出来るのだろうか。




