桃、王都へ行く
お越し下さりありがとうございます
「悪いな、家業の方も人手が無くてな。本当は勇あたりに確実に託してから帰山したいんだが......。」
王都入り口のなんとなく、やさぐれた雰囲気の漂う道祖神辺りで桃の護衛に付いてきてくれた、遙が帰って行った。
世帯を持ったからか遙は最近急におじさん臭くなったと桃は思う。
(前はもっと、勇兄様みたくキラキラしてたのに......。)
ともあれ、桃は王城を目指す、狙いは当たり障りの少ない勇と決めて。
王城大門にて。
「あの、西の山から兄弟子を頼って参ったのです。
こちらで働いていると聞いているのですが.......。
その、連絡の手紙より私が先に王都に入ってしまったようで......。」
桃色がかったミルクティー色の髪に可愛らしい摘み細工が揺れる愛くるしい少女が門番を前にさも困った感を出しながら話をしている。
事前連絡のない者を王城に入れる訳にはいかないと頑張る門番だが、この少女と話をするうちに、なんとなく自分が意地悪をしているような妙な錯覚に囚われはじめていた。
(門番のおじ様、ごめんなさい。今はこれしか思いつかなくて。)
桃は心の中でその職務に忠実なおじさんに詫びつつ相手をケムに巻いてゆく、人畜無害を装って......。
ーーーー
アルカナ城外周広場
凡は昼休みの散歩を楽しんでた。遠くの大門で今日の大門警備担当者と誰かが話をしている。
凡はその相手の少女に違和感を覚える......。
(なんか、似てないか周くんに。)
見た目ではない、もっと根本的な......。雰囲気とか......。
あっ!
目だ!
そう何年か前のファーストコンタクトでは全く見抜けなかった周くんの実力の一欠片......。
今なら分かる。
一見すると従順そうな気配の中で目だけが静かに相手を観察している......。
あの感じ!
(あれはきっと周くんの関係者だ、このタイミングで現れたんだ西の山の使者に違いない。)
凡は大門まで急いだ。
凡は王都の剣士とは言っても強さも並みでコネも無い、掃いて捨てるほど居るその他大勢の剣士だ。政治に絡むこともそれを把握して行動を変えるなんて事とも普段は無縁だ。
それでも、周くんが困っている時には必ず助けると心に誓ったのだ、そして多分、今がその時だ。
「おう、恭!今日の当番はあんただったのか。」
凡は警備担当者の恭に声を掛けて事のあらましを確認する。
やはりこの少女は周くんの関係者だ。
すぐにでも勇そして爽様やクソ眼鏡に引き合わせてやりたい......。だが、この少女は密使、大っぴらに周くんや信様の名を出すことが悪手か否かが判断できない.....。せめて、この少女に俺が周くん側の人間である事を伝える事はできないだろうか。
凡は考える兎に角考える。
「えっと、俺は凡。その......。友達も西の山の子なんだけど......。やっぱり君もお餅とか好きなのかな?」
大した妙案も浮かばないまま凡の口から出たのはこんなどうでも良い世間話だった。
ナンパなら他所でやれと恭が冷めた目でこっちを見ている。
恭から見れば、おっさんが十代の少女に必死で餅の話をしている。随分と異様な光景なのだろう。
ロリコン剣士......。ああ、おれの人生終わったかも.....。
凡が空を見上げたくなったその時、鈴の転がるような可愛らしい声の相槌が返ってきた。
「お餅ですか?もしかして、安倍川餅ですか?」
少女のルビーのような瞳から冷酷な観察者の気配が消えた。
ーーーーー
剣士棟エントランス。
「おう凡、どうしたよ?」
同僚の一人が可愛い少女連れた凡を冷やかしに来た。
「違うって。勇の客人だよ。」
凡は慌てて否定する。これ以上のロリコン疑惑などごめん被りたい。
「ほー、勇か。オーケー、俺呼んでくるわ。」
軽いノリの言葉を残して同僚は練習場に消えて行った。
残された凡は桃にピタリと寄り添って辺りをそれとなく警戒する。
剣士棟とは言え間者や政治的な対立者の縁者が居ないとは限らない。
それを目だけでチラリと見ながら桃が心の中で唸る。
あー兄様のお餅好きを知ってるあたり、かなり懇意にしているのは間違いなさそうだけれど.......。身体能力はまだまだ発展途上?でも、心構えは大したものね。さすがは王都の剣士といった感じかしら。
いいえ、違う。さすがはあー兄様ね。
桃がふんっと鼻息を荒くした。
程なくして現れた勇が桃を見て顔色を変える。
「勇兄様!王都見物に参ったのです!」
勇がくだらない本音を大声で語り出す前に桃はことさらに感情豊かに勇の胸に飛び込んだ。会いたかった、心細かったとその感情を表情に滲ませ.......。これ以上口を開かずにさっさと爽兄様のところに連れて行け。と勇の耳元で囁きながら。
(桃、怖えー。)
勇は大人しく桃を爽の執務室へ案内した。
爽の執務室にて
桃は手紙を明周、爽、愁に渡し少し部屋を観察する。
部屋には凱や陽光、王族二人の側近が二名ずつ、それに勇も居る。
手紙を読んだ面々から質問が出る前に
爽が桃へ防音効果のある結界の構築を促す。
「承知致しました。」
桃は一坪ほどの結界を構築する。
「.......。」
「どうかされましたか?」
「いや、もう少し、大きな物を。」
「これが一杯一杯です。」
「う.....。では兄様が桃の言霊を強化してあげよう。」
爽と桃の合わせ技でなんとか大人10人と桃が座れる会議机のまわりに防音結界が構築された。
(狭い......。)
今更ながらに周の有り難さを認識する大人たち。
「皆さま小声での会議をお勧めします。そこまで、大きな声は防ぎきれませんので。」そもそもなぜ机など囲むのでしょう?皆で膝を突き合わせて地べたに座るなら10人で一坪あれば充分では?
桃が妙にお冠だ。
((((出たー!西の山の謎ルール。))))
凱の膝に座る陽光に勇や爽の膝に尻を乗せざるを得ない側近.......。地獄絵図だ。まわりの大人が一斉に天井を見上げる。
ーーーー
「信の手紙から推し図るなら、周は疲労とタイムパラドックスのペナルティーの半々で絶対安静状態と言うことか?」
「そうですね。追加して言うなら、師匠がわざわざ手紙をよこす時点で事態はかなり深刻と考えられますね。」
「桃、どうなんだよ、お前からみて。」
桃がふいっと目を逸らす。言いたくない事の有る証拠だ。
それでも、皆の視線に負けて報告を始める。
「私が見たあー兄様は、どうして普通に過ごしてらっしゃるのか分からないくらい衰弱してました。
でも、あー兄様には全然自覚がなくて......。
お師匠様が止めなければ、きっと本当に動けなくなってしまうまで、普通に過ごしてたと思います。」
はじめは自分も気が付かなかったと、あまりにも自然な気の運用にすっかり騙されてお風呂まで勧めてしまったのだと、桃は悔し気に報告する。
(もっと早く気付いていれば.....。臭いなんて......。無神経で自分勝手な娘だと思われたんじゃないかな......。)
ダメ。師匠は私に今後の話しを託したのだ。恋愛脳になってメソメソしている暇はない。
桃は目元を袖でぐいと拭い皆の顔を見なおす。
「あー兄様が復調して王都に戻るまでの時間を作って下さい。
王都に居なくても怪しまれない理由、居ない事を悟らせない仕掛け、弱っている事に気付かせない仕組み、何でも構いません、お願いします。」
桃の赤い瞳が強く大人たちを射抜く。




