離宮の奥
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黒衣の魔女の元へと向かう周は酷い頭痛と倦怠感に襲われていた。覚悟はしていた、自分より小さな優が自分の分の禍まで引き受けた。受け取りきれないものはこちらに戻って来る。
当然のことだ。
それにしても、あの一瞬に優はこの取捨選択をやってのけたのか。
リスクはあるが動ける、戦闘も可能だ。周に記憶の混同の影響は少ない。
そう、周は魔女と戦えるのだ。気合いを入れれば。
(.....!)
魔女の声だ!
頼様も居る!
周は悲痛な面持ちで天を仰ぐ頼を見た。
「そう、先ずは、そこにころがっている、間抜け面たちを始末なさい。」
焦点の定まらない目をした、陽威の口から、魔女のネバつく声が聞こえる。周は怒りで全身の血が沸き立つように感じた。今すぐ、魔女を叩き斬ってやりたい。
駄目だ、まだ間合に入っていない。
「加勢に参りました。まわりのモノはお引き受けます、頼様、陽威様の方をお願いします。」
辺りの邪なモノを斬り伏せながら魔女までの距離が近い明るい赤毛の大男、頼に声を掛ける。
「君は何者だ......。私に我が君を斬れと言うのか。」
魔女をグッと睨んだまま、頼は周に目をやることなく答えた。
(ああ。憧れの英雄がそこに居る、切に無事を願う肉親がそこに居る。)
周と優の感情が混ざり合う。
瞬間、ぐらりと視界揺れる。優が引き受けて無効になった筈のペナルティーが周に流れ込む。
(過去と未来の自分の気持ちがシンクロするだけで、こんなにも反動が大きくなるのか?)
混沌に誘われる中、周は自分を奮い立たせる。
『引きずられるな、周!』
言霊にこんな使い方があるのだろうか。いくらかの効果は期待していたが......。上出来だ。
視界も思考もクリアになった事を確認して周は邪なモノを一太刀で払い頼と黒衣の魔女の間に割って入った。
魔女を浄化して陽威様をお助けする。ただそれだけの事の積もりだった。
しかし、頼様は我が君を斬る。とおっしゃった......。
何故?
可能性は一つ。
「頼様。『浄化の言霊』をお持ちで無いのですね。」
周は血を吐くような思いで言葉を吐いた。
確信だ『浄化』は私にしか使えない。全くなんて間抜けな話だ、こんな初歩の初歩で思い違いをしていたなんて。
自分に出来るものは比較的誰にでも出来ると思いがちだ。ましてやそれが、憧れの英雄ともなれば、当然とも言える思い違い。
しかし、この思い違いの代償は大きい......。
「ふふ.....。黒髪の聖火。先ほどはしてやられてしまったけれど.......。今回は私の勝ちよ。」
( ここに来てまだ訳の分からない嫌味か?
してやられたのは、掌の上で転がされ続けているのは、まさに自分だというのに。)
周の感情を見透かしたのか、陽威の中に入り込んだ黒衣の魔女は勝ち誇ったようにネバつく笑みを浮かべた。
その笑みに周も腹をくくる。剣を仕舞い、両手で印を結ぶ。(最上の条件で最大の効果を。たとえ刺し違えても。)
軽く息を吐き、そして吸う。腹のあたりに気を溜め濃縮する。
『言霊』 『浄化』
凛とした声が辺りに響き印がほのかに光ったかと思うと、あたりの空気が密度を増し緩やかに陽威と憑依している黒衣の魔女を取り囲む。
「君は何処でそれを?」
頼から安堵の気配が伝わる。
( 優、あなたの切なる願いだけはなんとしても......。)
「おバカさんね。使っちゃうの?本当に大丈夫?」
魔女がクスリと笑う。ほらね私の勝ちと。
ぐらりと世界が歪む。ペナルティーのお出ましだ。周が優へ、優の大切な者達へ想いを馳せた瞬間にペナルティーは膨れ上がる。
まだ若く柔らかい心に世界の理が牙を剥く。
言霊の力と周の持つ膨大な気で無理矢理に作り出していたこの時間で周の存在できる時間が目に見えて目減りしてゆく。
(せめて、後数秒。私に時間があれば...。)
起こり得ない奇跡にすがり、最後の瞬間まで浄化に専念しようとした周に、優の余韻が話し掛ける。【それが私たちの最適解?】と
「! 時間切れです。」
周はハッと我に返ると、印を解く
残りの気のありったけを『浄化』に変え自身の剣に流し込み、陽威に絡みつく霧状の闇と陽威を荒っぽく切り離し、頼の方に陽威を突き飛ばした。
「頼さま。不甲斐ない私をお許しください。」
周の存在は中の山から消えた。
次元の狭間、暗いとも明るいともつかない不思議な空間にこの大きなドラゴンは存在していた。時の番人、時のドラゴンなどと人間達は彼をそう呼ぶ。
「知っていたのですね!ならば何故?」
満身創痍の周が叫ぶ。
チラリとそちらを見たかと思うと竜はあくびまじりに答える、さも面倒そうに。
「予定調和」
ドラゴンの言葉を聞きながら周は崩れるように、深い眠りに落ちる。
その姿を横目で確認しながらドラゴンが呟く。
咄嗟の判断はお見事と言っておいてやろう。少なくとも、お前の我が君は生死の境を脱したのだから。




