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時の狭間からの出陣

お越しいただきありがとうございます。

「何度も言うがこの技は神のみに与えられた技だ。人の身でこの技を使えばその身は持つまい。」

何度も聞いた一節。

何を今更、我が君の生命に代わるものなどあろうはずも無い。

周の瞳が強い意志を持ってドラゴンを貫く。


そもそも。それを踏まえての準備ではないか。

極限まで気を練り上げた。

池の精にも協力してもらった。

時渡りに必要な存在としての枠組みの強さは、言霊の力で補う。


考えに考えた。


無理矢理だろうが

無謀だろが、これより他にどんな最善があると言うのだ。


話し合いだけで半日。

説明で二日。準備にはそれ以上の時間を費やした。


自分にはあまり時間が無い。


ーーーー

今朝も変わらずとこに臥していた明周のことを周は考える。

呪と気のせめぎ合い、今はぎりぎりの均衡を保っているが、それがいつ崩れるか分からない。それは今この瞬間かもしれない。

ーーーー


「どこに出ますか?行きます。」議論する時間が惜しいとばかりに、周は件の魔女の居る座標を確認する。


ドラゴンはやや諦め気味にそれに応える。

時は...場所は...。ああ。成程、そう来るか。奴も考えたものだ。

14年前の初春だ。場所は中の山。気を引き締めて行け!古き友人の愛し子よ。いよいよ奴も本気ぞ。


禁忌と罰則忘れるでないぞ!


時間を遡るにあたり発生する禁忌と罰則

はシンプルだ。

一つ、魔女の絡んだ過去の事象以外には可能な限り干渉しない。

一つ、過去の自分には絶対に干渉しない。

この禁忌をおかすもの、その存在の保証なし。


ーーー

自身が呪に侵されてもなお。皆が無事ならよかったと、俺じゃ戦力外だからな。と優しく笑っていらした我が君。

ーーー

(この戦いで私が引く事など、私が許さない。)


周は14年前の、あの日に飛んだ。


雨だった、土砂降りの こぶしの花が咲いている。ここから向こう側が歴代の王の眠る地。

あちら側には離宮。

周が離宮に向かおうとした時、王墓からかの魔女の気配がした 初めはボンヤリとそして徐々に鮮明にそして巨大に。


ーーー

王墓から、何故?

しかし好都合。あちら側なら、禁忌の大半を回避できる。

王墓入り口には濃い瘴気が立ち込めていた。不思議といつもの邪なモノがいない。

それでも瘴気は本物だ、やはり居る、ここに。

ーーー

はやる気持ちを押さえて、周はさらに奥に進む。


雨音が随分小さく聞こえるようになった頃 すぐ前の空間で 魔女の気配が急に濃くなった。


(来たか!)

周は身構える。


(渾身の浄化の言霊を、先手必勝でぶつけてやる。)

周は気を練る。


[たのむから ちょっと冷静になれよ。

お前ほんと変だよ。]

何故か勇の言葉が脳内で木霊する。


明周が魔女の呪に倒れた時に周が勇に怒鳴られた言葉だ。


もう一度だけ前方の気を探る。


これは....?

魔女では.....ない?

......魔女の記憶だ。

随分前?それとも最近?

いつのものだろう?

魔女はここに現れて、王族の誰かを取り込んでアルカナに干渉する力を手に入れたのだろう。




(助けてやっておくれ。我々は、あまりにも無力だ。あの子の未来は、こんなコトで閉ざされるものではない筈なのだ。)

ああ。王家のお歴々がこんなに悲痛な感情を持て余していたのだ。


今は言霊を使う訳にはいかない。

「どうかこれで、ご勘弁下さい。」


周はお歴々の墓標に手を合わす。

(皆さまの願いは承りました。

皆さまどうぞお心穏やかになさって下さい。

時間は少し頂きますが 必ず浄化しに参ります。

どうぞ暫くお待ち下さい。)


これが王墓の瘴気の正体か?


黒衣の魔女に絡め取られ、その高潔な理想も信念も歪められてゆく青年の悲痛な断末魔。

何もできずにただ悲しみにくれる歴代の王族たち......。


これはいつのビジョンなのだろう?


過去か未来か?


あやうく魔女のミスリードにつられて気力切れに持っていかれるところだった。


周は離宮に急ぐ。


ーーーー

離宮は静まり返っていた。

皆眠っているのか、あるいは、もう魔女の手に落ちているのか......。

周は身震いした。


裏口から建物に入ると、邪なものが蠢いていた、周はそれを剣で払いながら前に進む。

ふと、視界に小さな子供の姿が飛び込む。身なりの良い幼子だ、あの姿で剣士を欺こうと言うのか?

もしや.....魔女?


いや......。違う....あれは、私だ。


雰囲気の違いに一瞬認識が遅れたが、あれは自分自身だ。


何故?

あの日中の山に居たことは分かっていた。しかし なぜ離宮に?これも魔女のミスリードなのか?


あ!


周は焦った。

子供が印を組んだ事に気付いたからだ。


いけない。あんな気の練り方では....。


ほぼ反射だった、周が子供を抱きすくめその気を霧散させたのは。


ーーー 干渉してはいけない、絶対に。ーーー


ではどうしろと?

この邪なものにこの子が弄ばれ喰われゆく様を眺めるのが正解だったのか?


そもそも

助けなければ過去の自分は、おそらくここで死ぬ。

助ければ今の自分の存在が消える。

過去の自分が死ねば、勿論、今の自分もいなくなる。


(こんなの、どうにもならないではないか。)



思考より先に動いた身体。

行動の後にやってきた思考と理解、そして反動。


しくじったのだ。


魔女は一枚も二枚上手だったのだろう。

ここで魔女に一矢も報いぬままとは......。

不甲斐ない。


( 我が君、お許し下さい。)


少しだけの違和感の後に、一気に二人の存在の混同が始まった。


記憶が、知識が、技術が容赦なく混ざり合う。


ずっと探していた過去のピースも周に流れ込む。

( ああ、私は.....私の名は優だったのか......。)


不意に子供....優が声を上げる。


見れば、大きな瞳からハラハラと涙が流れていた。


「ああ......。

未来の私、お爺様とお爺様の大切な方をお守り下さい。

禍(わざわい)は私の方でお引き受けします。」



周に流れ込んでいた負の力が止まった。



目の前の小さな優がそれを肩代わりしている。


説明などいらない、どちらの考えも感情も紛う事なく自分の物なのだから。


周の驚愕も後悔も後ろめたさも。


優の非情な計算も覚悟も切ない希望も。


互いに完全に理解共有した上で、それでも、周は否を叫び優は応を叫ぶ。


何時間もかかったように感じる一瞬を終えて周はそこに一人立っていた。


知っている、無事だ。

少なくとも命は......。優が今どこにいるのか、どんな状態なのか。

心配することは要らないのかもしれない。

14年前、自分が経験したアレなのだから。



ひどく後味の悪い結果に眩暈を覚えるが、周に後戻りする選択肢はない。後ろめたくても、情けなくても、後悔している時間が有れば魔女を打つ事に充てなくては。


せめて、あの優の切実な願いだけは成就させてやりたい。


知っている過去を、知らない過去にする為に、周は黒衣の魔女の元に急いだ。


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